「テラス!」
アンセムは呼び止めようとしたが、テラスは止まらずずんずん歩く。
「なんでテラスがそんなに怒るんだ?」
後を追いながら問うアンセム。
テラスは歩みを止めて振り返った。
「アンセム、少しはねぇ!」
しかし、発言を途中で止める。アンセムとミユウの関係に自分は口を挟む立場じゃない。
「らしくないな。最後まで話してくれよ」
テラスはくるりと振り向いて再び歩き始めた。
「テラス」
「アンセムとは話さない」
「なんだよ、それは」
テラスは無言で歩いた。
「テラス!」
埒が明かず、テラスの手を掴むアンセム。
こういう引き止め方は良くないとわかっていても、テラスが止まらないから仕方がない。
案の定、テラスはアンセムの手を振り払おうとした。しかし、アンセムは決して手を離ない。
「離してよ!」
「テラスこそ、ちゃんと話してくれよ。一方的に怒られても意味がわからない」
テラスはキッとアンセムを睨む。
なぜテラスはそんな目で自分を見るのか。
「アンセムは真剣に好きな人を探しているんじゃないの?」
予想もしない言葉が返ってきた。
「え?」
戸惑うアンセム。
「もっとちゃんと考えたら?自分を大事にしてくれる人がいるでしょう?」
「それは誰のことを言っている?」
「自分で考えなよ!」
「オレはテラスに悪いことをしたのか?」
「離して」
「離さないよ。話が途中だ」
「私はアンセムとは話さないの」
「だから、どうして」
「とにかく離してよ」
「離したら逃げるだろ」
テラスの腕を握る手に力が入るアンセム。
「い…いた…」
テラスの小さな声にハッと我に返る。
「ごめん…」
しかし手を離した瞬間テラスはダッシュするだろうから、離すわけにはいかない。
テラスは無言になった。
「何をそんなに怒ってるんだ?」
アンセムが話しかけても無言。
「どうした?何を言い争ってる?」
声を聞きつけたカイが2人の元へやってきた。
そしてアンセムに手を握られたテラスを見る。
「…アンセム、何をしている?離してやれ」
言われて仕方なくアンセムは手を離した。
テラスは振り向きもせずパタパタと走って行ってしまった。
「一体なにがあった?」
ため息をつきながらカイが聞く。
「オレにもわかりません」
アンセムはそう答えるしかなかった。
「とりあえあず、戻ろう」
カイはアンセムを促す。アンセムの後ろにナミルの姿が見えたからだ。
そのままカウンターの奥の部屋へ連れて行くと、アンセムに声をかけた。
「今日はもう帰っていいぞ」
「いえ…、部屋にいても落ち着きませんから」
しかし、アンセムは首を振った。
カイから見たら、アンセムの姿はまさに「しょんぼり」である。
「ふう…。アンセム、おまえ少し自分の気持ちを整理したらどうだ?」
さすがに黙って見ていられないカイ。
「整理ってどういうことですか?」
「テラスのこと、どう思ってるんだ?」
「どうって…」
アンセムは言葉が続かなかった。
「僕はアンセムが女の子を追いかけてる姿なんて初めて見たぞ。いつも追われる側のおまえがどうした?」
「はぁ…」
歯切れのない返事をするアンセム。
「冷静沈着なアンセムも、テラスのことになるとタガが外れたようになるな。僕から見たら、それは嫉妬や独占欲に見えるぞ」
アンセムは何も言わず俯いた。
嫉妬?独占欲?この感情がそれだというのか…?
「ここで作業しててもいいから、とにかく少し考えろ。ミユウって女の子のこともあるだろう」
唐突にミユウの名を出されたアンセムは、さらに困惑した。
「なんでカイさんがミュウのことまで言うんですか?」
「僕の仕事が本当に司書だけだと思っているのか?色々と話は回って来るんだよ」
そう言ってカイはアンセムの肩をポンポンと叩くと、カウンターへ戻って行った。
アンセムはとりあえずイスに座る。本に手をつけてみたが、作業する気にはならなかった。
カイは、自分がテラスを好きだと言いたいのだろうか。
オレはテラスが好きなのだろうか。
今まで特に考えようとしてこなかったことだった。
寮長からお見合いの話を持ち掛けられたとき、即答で引き受けた。
生涯のパートナー探しに煮詰まりを感じていたときで、何か変化がほしかったからだ。
寮長からの話を聞き、純粋にテラスに興味を持った。
第三寮にいて、そこまで恋愛に興味を示さない人が本当にいるのだろうかと。
テラスに会い、寮長の話が真実だと理解したアンセムは、ますます興味が強まった。
会話も楽しく、自然と親しくなりたいという気持ちも沸いた。
テラスは面白いと思う。
他の女の子と違い、自分を男として見ない。1人の友人として接してくれる。
だからこそ、テラスと過ごす時間は心地良く楽しく、また会いたいと思わせるものだった。
テラスを好きか?と問われれば、好きだと言えるだろう。
しかし、それは恋愛感情なのだろうか。
確かに、リツがテラスにキスしたとき、押さえようのない怒りを感じた。
テラスがタキノリを頼ることが、何となく面白くはなかった。
会えない日が続けば、顔を見たいと思う。
では、自分はテラスに欲情しているだろうか?
テラスはどこか女を感じさせないところがある。
だからこそ安心して近づける、そんな気がする。
では、自分はテラスを人として好きなのだろうか。
友人として?
もしそうなら、テラスが誰かを好きになったときに心から応援できるだろう。
テラスが一番好きだと言った男、タキノリに恋愛感情を抱いたら?
想像するだけで、なんだか面白くない。
テラスが初めて好きになる男は自分であってほしい気持ちがどこかにある。
やはり自分はテラスに恋愛感情を抱いているのだろうか?
それとも。
テラスが自分を好きになったら、それで満足して終わりになるのだろうか。
考えても、答えは出なかった。
アンセムは呼び止めようとしたが、テラスは止まらずずんずん歩く。
「なんでテラスがそんなに怒るんだ?」
後を追いながら問うアンセム。
テラスは歩みを止めて振り返った。
「アンセム、少しはねぇ!」
しかし、発言を途中で止める。アンセムとミユウの関係に自分は口を挟む立場じゃない。
「らしくないな。最後まで話してくれよ」
テラスはくるりと振り向いて再び歩き始めた。
「テラス」
「アンセムとは話さない」
「なんだよ、それは」
テラスは無言で歩いた。
「テラス!」
埒が明かず、テラスの手を掴むアンセム。
こういう引き止め方は良くないとわかっていても、テラスが止まらないから仕方がない。
案の定、テラスはアンセムの手を振り払おうとした。しかし、アンセムは決して手を離ない。
「離してよ!」
「テラスこそ、ちゃんと話してくれよ。一方的に怒られても意味がわからない」
テラスはキッとアンセムを睨む。
なぜテラスはそんな目で自分を見るのか。
「アンセムは真剣に好きな人を探しているんじゃないの?」
予想もしない言葉が返ってきた。
「え?」
戸惑うアンセム。
「もっとちゃんと考えたら?自分を大事にしてくれる人がいるでしょう?」
「それは誰のことを言っている?」
「自分で考えなよ!」
「オレはテラスに悪いことをしたのか?」
「離して」
「離さないよ。話が途中だ」
「私はアンセムとは話さないの」
「だから、どうして」
「とにかく離してよ」
「離したら逃げるだろ」
テラスの腕を握る手に力が入るアンセム。
「い…いた…」
テラスの小さな声にハッと我に返る。
「ごめん…」
しかし手を離した瞬間テラスはダッシュするだろうから、離すわけにはいかない。
テラスは無言になった。
「何をそんなに怒ってるんだ?」
アンセムが話しかけても無言。
「どうした?何を言い争ってる?」
声を聞きつけたカイが2人の元へやってきた。
そしてアンセムに手を握られたテラスを見る。
「…アンセム、何をしている?離してやれ」
言われて仕方なくアンセムは手を離した。
テラスは振り向きもせずパタパタと走って行ってしまった。
「一体なにがあった?」
ため息をつきながらカイが聞く。
「オレにもわかりません」
アンセムはそう答えるしかなかった。
「とりあえあず、戻ろう」
カイはアンセムを促す。アンセムの後ろにナミルの姿が見えたからだ。
そのままカウンターの奥の部屋へ連れて行くと、アンセムに声をかけた。
「今日はもう帰っていいぞ」
「いえ…、部屋にいても落ち着きませんから」
しかし、アンセムは首を振った。
カイから見たら、アンセムの姿はまさに「しょんぼり」である。
「ふう…。アンセム、おまえ少し自分の気持ちを整理したらどうだ?」
さすがに黙って見ていられないカイ。
「整理ってどういうことですか?」
「テラスのこと、どう思ってるんだ?」
「どうって…」
アンセムは言葉が続かなかった。
「僕はアンセムが女の子を追いかけてる姿なんて初めて見たぞ。いつも追われる側のおまえがどうした?」
「はぁ…」
歯切れのない返事をするアンセム。
「冷静沈着なアンセムも、テラスのことになるとタガが外れたようになるな。僕から見たら、それは嫉妬や独占欲に見えるぞ」
アンセムは何も言わず俯いた。
嫉妬?独占欲?この感情がそれだというのか…?
「ここで作業しててもいいから、とにかく少し考えろ。ミユウって女の子のこともあるだろう」
唐突にミユウの名を出されたアンセムは、さらに困惑した。
「なんでカイさんがミュウのことまで言うんですか?」
「僕の仕事が本当に司書だけだと思っているのか?色々と話は回って来るんだよ」
そう言ってカイはアンセムの肩をポンポンと叩くと、カウンターへ戻って行った。
アンセムはとりあえずイスに座る。本に手をつけてみたが、作業する気にはならなかった。
カイは、自分がテラスを好きだと言いたいのだろうか。
オレはテラスが好きなのだろうか。
今まで特に考えようとしてこなかったことだった。
寮長からお見合いの話を持ち掛けられたとき、即答で引き受けた。
生涯のパートナー探しに煮詰まりを感じていたときで、何か変化がほしかったからだ。
寮長からの話を聞き、純粋にテラスに興味を持った。
第三寮にいて、そこまで恋愛に興味を示さない人が本当にいるのだろうかと。
テラスに会い、寮長の話が真実だと理解したアンセムは、ますます興味が強まった。
会話も楽しく、自然と親しくなりたいという気持ちも沸いた。
テラスは面白いと思う。
他の女の子と違い、自分を男として見ない。1人の友人として接してくれる。
だからこそ、テラスと過ごす時間は心地良く楽しく、また会いたいと思わせるものだった。
テラスを好きか?と問われれば、好きだと言えるだろう。
しかし、それは恋愛感情なのだろうか。
確かに、リツがテラスにキスしたとき、押さえようのない怒りを感じた。
テラスがタキノリを頼ることが、何となく面白くはなかった。
会えない日が続けば、顔を見たいと思う。
では、自分はテラスに欲情しているだろうか?
テラスはどこか女を感じさせないところがある。
だからこそ安心して近づける、そんな気がする。
では、自分はテラスを人として好きなのだろうか。
友人として?
もしそうなら、テラスが誰かを好きになったときに心から応援できるだろう。
テラスが一番好きだと言った男、タキノリに恋愛感情を抱いたら?
想像するだけで、なんだか面白くない。
テラスが初めて好きになる男は自分であってほしい気持ちがどこかにある。
やはり自分はテラスに恋愛感情を抱いているのだろうか?
それとも。
テラスが自分を好きになったら、それで満足して終わりになるのだろうか。
考えても、答えは出なかった。



