テラスは全速力で走った。
確か、図書館を出てすぐのところに水道があったはずだ。
記憶通り水道を見つけたテラスは、蛇口を捻り何度もうがいを繰り返した。
顔も洗う。グイグイと口をこすって洗いまくる。
気持ち悪い気持ち悪い。とにかく口が気持ち悪かった。
(なんなの!?あの男は!)
悔しさと不快感で涙が出てくる。
「テラス…」
声をかけられ、テラスはビクっと振り向いた。
そこにいたのはアンセムで、ホッと胸をなでおろす。
声の主を確認できたので、テラスは引き続きうがいを始めた。
アンセムは振り向いたテラスの瞳から涙が溢れているのを見て、胸が痛んだ。
「大丈夫…じゃないよな…。それが終わったらオレが部屋まで送るよ」
「はぁ~ん、噂以上に大切にしてるみたいじゃねーか」
その声に振り向くアンセム。
テラスは体を強張らせた。
図書館から出てきたリツは、2人を見つけて近づいたのだ。
「リツ…おまえ何のつもりだ?」
再び怒りが込み上げる。
「アンセム様のお気に入りがどんな女か、味見しに来ただけだ…おっと」
テラスはダッシュで逃げ出した。
リツの姿を見るのも嫌なのだろう。
「行っちゃったな」
リツは肩をすくめた。
アンセムはテラスを追いかけず、無言でリツを蹴りつける。
「うわっと」
リツは一発目は綺麗に避けたが、二発目は軽くくらってしまった。
「いって~」
と言いつつ、アンセムと距離をとる。
「へぇ!アンセム本気なんだな!」
そして、面白そうにアンセムを見た。今まで見たことのない怒りの形相をしている。
「何がだ?」
怒りのこもった低い声で聞き返すアンセム。
「だってよ、たかがキスしたくらいでこんなに怒るなんておかしーだろ?今までどんな女にでも本人の自由って涼しい顔してたよな」
アンセムはもう一度蹴りかかろうとしたが、リツは速やかに間合いをとった。
「何が言いたい?」
「テラスって女、何がそんなにいいんだ?見た目も超普通だし、アンセム様がそこまで拘る理由はなんだ?」
「おまえには関係ない」
「俺がキスしたくらいで、怒り方が異常じゃねーか」
「…テラスは慣れてないんだよ」
「は?」
一瞬意味がわからず、間の抜けた声を出すリツ。
「とにかく、もう二度とテラスに近づくな。まぁ…近づこうにもテラスの方が逃げるだろうけどな」
「もしかして、アンセムおまえまだあの女とやってねーの?」
その質問にアンセムは不快感を露にした。
アンセムの表情を見てリツは理解する。
「テラスって処女?」
ドカ!
油断していたら、いきなりアンセムから蹴りが飛んできた。
「いってー!」
言いながらも再びアンセムから慌てて距離をとるリツ。
「やっぱりそうか。すっげーな、確かテラスって2年目だろ?入寮して1年経っても未経験って超希少種じゃねーか」
痛みより驚きが勝った。
「アンセム様でも落ちない女、確かにすげぇ」
リツは第三寮入寮当初から、勝手にアンセムをライバル視していた。
リツは男らしい容姿と力強さ、強引さが魅力となって、アンセムとは真逆のタイプとして人気を集めていたが、ナンバーワンになりたかったのだ。
アンセムと関係を持った女の子と自分もセックスしようとしたり、数で勝ろうとしたり、とにかく張り合ってきた。
そこには当然ミユウも含まれる。相手にされなかったが。
入寮2年目の半ばごろからアンセムの異性交遊は少し落ち着き、それと同時にリツからの一方的な挑発も減っていった。
ここ数ヶ月リツとの関りがなかったが、まさかこのタイミングで最悪の嫌がらせをしてこようとは…。
「アンセムが落とせなかった女を落とせば、俺が上ってことだよな」
「馬鹿馬鹿しい!」
とんでもないことを言い出すリツ。
アンセムは一笑に付す。
「完全に嫌われたから可能性はゼロだ」
断言。
テラスの警戒心の強さを知るアンセムには確信があった。
「さぁね。出会いは最悪だったけどってパターン、恋愛話の王道だろ」
「もうテラスに近づくな…」
押し殺した声で言うアンセム。
「今日はアンセムの反応が見たくて遊んでみたけど、落とすんだったら本気で行くぜ。無理矢理じゃ意味ねーからな」
「テラスはおまえの顔見るだけでも耐えられないってわからないのか?」
泣きながらうがいをしていたテラスだ。
「そこからどう持っていくかは俺の腕しだいだろ」
「ふざけるな!」
「おっと」
アンセムの拳をギリギリで何とか避けるリツ。
「恐いなぁ~。そんなに大事?」
その質問には答えない。
「ある意味、ミユウを落とすよりずっと面白いよな」
「相手にされなかっただろ」
「ミユウは先にアンセムに惚れてたからな。でもテラスは違うんだろ。
テラスが俺のことを好きになったらアンセム堪えるだろうな」
ニヤニヤと笑うリツ。
「いい加減オレに突っかかるのはやめてくれ」
アンセムはうんざりした。
テラスがリツを好きになる?
ありえない。
「恋愛は自由だろ?オレがテラスにアプローチするのは誰も止められないぜ。
無理矢理押し倒すわけじゃねーんだからな」
「勝手に玉砕しろ」
アンセムはリツに背を向けた。
何を言っても無駄だろうし、これ以上会話を続けるのは苦痛だった。
「テラスが嫌がることをしたら許さない」
それだけ言い捨ててその場を去った。
「お~コワ!」
リツは最後までおどけて見せるのであった。
確か、図書館を出てすぐのところに水道があったはずだ。
記憶通り水道を見つけたテラスは、蛇口を捻り何度もうがいを繰り返した。
顔も洗う。グイグイと口をこすって洗いまくる。
気持ち悪い気持ち悪い。とにかく口が気持ち悪かった。
(なんなの!?あの男は!)
悔しさと不快感で涙が出てくる。
「テラス…」
声をかけられ、テラスはビクっと振り向いた。
そこにいたのはアンセムで、ホッと胸をなでおろす。
声の主を確認できたので、テラスは引き続きうがいを始めた。
アンセムは振り向いたテラスの瞳から涙が溢れているのを見て、胸が痛んだ。
「大丈夫…じゃないよな…。それが終わったらオレが部屋まで送るよ」
「はぁ~ん、噂以上に大切にしてるみたいじゃねーか」
その声に振り向くアンセム。
テラスは体を強張らせた。
図書館から出てきたリツは、2人を見つけて近づいたのだ。
「リツ…おまえ何のつもりだ?」
再び怒りが込み上げる。
「アンセム様のお気に入りがどんな女か、味見しに来ただけだ…おっと」
テラスはダッシュで逃げ出した。
リツの姿を見るのも嫌なのだろう。
「行っちゃったな」
リツは肩をすくめた。
アンセムはテラスを追いかけず、無言でリツを蹴りつける。
「うわっと」
リツは一発目は綺麗に避けたが、二発目は軽くくらってしまった。
「いって~」
と言いつつ、アンセムと距離をとる。
「へぇ!アンセム本気なんだな!」
そして、面白そうにアンセムを見た。今まで見たことのない怒りの形相をしている。
「何がだ?」
怒りのこもった低い声で聞き返すアンセム。
「だってよ、たかがキスしたくらいでこんなに怒るなんておかしーだろ?今までどんな女にでも本人の自由って涼しい顔してたよな」
アンセムはもう一度蹴りかかろうとしたが、リツは速やかに間合いをとった。
「何が言いたい?」
「テラスって女、何がそんなにいいんだ?見た目も超普通だし、アンセム様がそこまで拘る理由はなんだ?」
「おまえには関係ない」
「俺がキスしたくらいで、怒り方が異常じゃねーか」
「…テラスは慣れてないんだよ」
「は?」
一瞬意味がわからず、間の抜けた声を出すリツ。
「とにかく、もう二度とテラスに近づくな。まぁ…近づこうにもテラスの方が逃げるだろうけどな」
「もしかして、アンセムおまえまだあの女とやってねーの?」
その質問にアンセムは不快感を露にした。
アンセムの表情を見てリツは理解する。
「テラスって処女?」
ドカ!
油断していたら、いきなりアンセムから蹴りが飛んできた。
「いってー!」
言いながらも再びアンセムから慌てて距離をとるリツ。
「やっぱりそうか。すっげーな、確かテラスって2年目だろ?入寮して1年経っても未経験って超希少種じゃねーか」
痛みより驚きが勝った。
「アンセム様でも落ちない女、確かにすげぇ」
リツは第三寮入寮当初から、勝手にアンセムをライバル視していた。
リツは男らしい容姿と力強さ、強引さが魅力となって、アンセムとは真逆のタイプとして人気を集めていたが、ナンバーワンになりたかったのだ。
アンセムと関係を持った女の子と自分もセックスしようとしたり、数で勝ろうとしたり、とにかく張り合ってきた。
そこには当然ミユウも含まれる。相手にされなかったが。
入寮2年目の半ばごろからアンセムの異性交遊は少し落ち着き、それと同時にリツからの一方的な挑発も減っていった。
ここ数ヶ月リツとの関りがなかったが、まさかこのタイミングで最悪の嫌がらせをしてこようとは…。
「アンセムが落とせなかった女を落とせば、俺が上ってことだよな」
「馬鹿馬鹿しい!」
とんでもないことを言い出すリツ。
アンセムは一笑に付す。
「完全に嫌われたから可能性はゼロだ」
断言。
テラスの警戒心の強さを知るアンセムには確信があった。
「さぁね。出会いは最悪だったけどってパターン、恋愛話の王道だろ」
「もうテラスに近づくな…」
押し殺した声で言うアンセム。
「今日はアンセムの反応が見たくて遊んでみたけど、落とすんだったら本気で行くぜ。無理矢理じゃ意味ねーからな」
「テラスはおまえの顔見るだけでも耐えられないってわからないのか?」
泣きながらうがいをしていたテラスだ。
「そこからどう持っていくかは俺の腕しだいだろ」
「ふざけるな!」
「おっと」
アンセムの拳をギリギリで何とか避けるリツ。
「恐いなぁ~。そんなに大事?」
その質問には答えない。
「ある意味、ミユウを落とすよりずっと面白いよな」
「相手にされなかっただろ」
「ミユウは先にアンセムに惚れてたからな。でもテラスは違うんだろ。
テラスが俺のことを好きになったらアンセム堪えるだろうな」
ニヤニヤと笑うリツ。
「いい加減オレに突っかかるのはやめてくれ」
アンセムはうんざりした。
テラスがリツを好きになる?
ありえない。
「恋愛は自由だろ?オレがテラスにアプローチするのは誰も止められないぜ。
無理矢理押し倒すわけじゃねーんだからな」
「勝手に玉砕しろ」
アンセムはリツに背を向けた。
何を言っても無駄だろうし、これ以上会話を続けるのは苦痛だった。
「テラスが嫌がることをしたら許さない」
それだけ言い捨ててその場を去った。
「お~コワ!」
リツは最後までおどけて見せるのであった。



