君が笑ったら、俺たちも嬉しくなる。
君が泣いたら、俺もたちも悲しくなる。
君が怒ったら、俺たちはすぐに慰めに行くよ。
だって俺たちは、君をずっと守る味方だからね。
レモン色の爽やかな光に染め上げられる朝、人々は忙しなく動き出す。
朝食を作る人。
自転車を漕ぐ人。
カーテンを開ける人。
時計を見て慌て出す人。
私は今、春の香りに髪をなびかせながら、桜の舞う並木道を歩いていた。
春──。
寒さが緩み、草花たちのつぼみが開き始め、土の中の虫たちは動き出す。
桜が散ると木々たちは緑の濃い葉を風に揺らす。
どんどん暖かくなってくると、その存在はパタリと消える。
春は、出会いの季節でもあり、別れの季節でもある。
全てが真新しくなった季節でもある。
私こと、佐々木のどかは高校生になった。
私は人見知りで、なかなか自分から人に話しかけることができない。
だから相手から話しかけてくれるととても良いんだけどなぁ、といつも思う。
でも、それは自分勝手だな、とも思う。
自分が変わらなくてはいけないとは思うのだけれど、
それがなかなか克服できないから毎回悩みに悩んでしまう。
中学校での私はいつも陰にいて、みんなから忘れられてる存在だったと自覚している。
だから私は、わざわざ通っていた中学校から遠い高校を選んだのだ。
過去の私のことを知っている人がいないであろうこの所に。
存分に高校デビューしてやるんだからっ!
私は気合いを入れるために、
顔が隠れるくらいにあった前髪を短くし、
後ろの髪もバッサリ切ってボブにした。
メガネもやめて、コンタクトにした。
よし!
これで存分に楽しいJKライフが送れるはずっ!
そして、ばりばりめちゃくちゃかっこいい彼氏をつくるんだからねっ! ふんっだ!
力強い一歩を踏み出したつもりだった。
だが、もっと根本的な問題を忘れていた。
いや、待てよ。
人見知りの私が彼氏……?
あっはっ!
ムリムリ、ムリだァァァ!
どうしてもネガティブな思考が勝ってしまう。
こういう性格もこの際なら治したい。
私が通う高校は、都市から離れたところにある。
田んぼがあって、青々とした草があって、
どこまでも広がる澄んだ空があって風があって、
小さな草花が揺れる、そんな場所。
殺風景なのかもしれないけれど、私にとってはとても心地良い。
なんて言ったって、ここは私のおばあちゃんの家がある地域で、昔からこの風景には馴染みがある。
だから自然と心が落ち着くのだ。
自分の家から高校に通うのはあまりにも距離があって大変なので、おばあちゃん家から通うことが家族会議にて決定した。
だから、高校三年間はおばあちゃん家に住むことになる。
でも良かったな。
私、おばあちゃん家が好きなんだよね。
築二百年のおばあちゃん家は、昔ながらの歴史を感じる雰囲気があって、中央には走り回れるくらいの中庭がある。
そして、この家には家族以外誰も知らない秘密がある──。
*
高校の門の前で立ち止まり、深呼吸をする。
「よしっ!」
私は立ち止まって、頬を両手でぺしっと叩いた。
絶対に変わってみせる。
人見知りの私よ、今日でさらばだ!
そして、私は大きな一歩を踏み出したのだった。
出席番号を確認した後、指定されている自分の席に腰を落とす。
だめだ。
冷や汗が止まらない。
心臓もきっと麻痺しているのかもしれない。
私が教室に入ったときにはもうクラスメイトたちは既に話す相手を見つけていて、私は明らかに出遅れ者という感じだった。
スタートダッシュは案外肝心だったりするのにな、だなんて思ってしまう。
間に入って「おはよう! 私のどかって言うんだけど、これからよろしくね!」なんて言えるわけないしぃ。
そんなこと言ったら絶対引かれるに決まってるしぃ。
そもそも、そんな勇気ないしぃ。
私は、近くで楽しそうに笑い合っている女子たちをちらりと見る。
すると、その中の一人の女子と目が合ってしまった。
気まずくなり私は慌てて目をそらした。
キョロキョロしてると変な人だと思われるかなと思い、私は机に視線を落とした。
「はあ」
第一印象って大切なのに……!
これじゃあ中学生の私のままじゃないか。
やっぱり私は人見知りで、人見知りは私なんだ。
人生って、そんな簡単に変わらないんだ。
ドンマイ、ドンマイ、私。
私は、机に向かって溜め息を一つついた。