最愛から2番目の恋

 月の光が彼を照らしていた。

 真夜中の庭に居た先客が、夫のクラシオンだと気付いて、本当はこの身を翻して、寝室に戻りたかった。
 が、既に夫の方も、後からやって来た人物が己のお飾り妻だと気付いて、こちらが近付いてくるのを待っているように見えたので。

 それで、戻ればこちらが負けた事になる、と思い直して。
 明日の納体の儀が済むまでは。
 両親がカリスレキアに帰国するまでは。
 少なくとも、ここで襲われることは無いだろう、と信じて。
 ガートルードは思いきって、自分から声を掛けた。
 

「こんばんは、殿下。
 まだ起きていらしたのですか?」

「……」

 クラシオンからの返事は無かったが、そう声を掛けたのは、夜着の上から厚めのガウンを羽織った彼女と違って、彼はまだ夕食時の服装から着替えておらず、寝台にも入っていなかったのだと思ったからだ。


 別々の馬車で移動して、会うのは昼餉と夕餉の2度の食事のみ。
 その間も特に会話は無い。
 だから、今も。
 夫はこのまま何も言わずに立ち去るだろう、と思っていたのに。