最愛から2番目の恋

 この日、ガートルードに会いに来たのは、アヴァロン・カッツェだけでは無かった。

 夫最愛の番、側妃のマリツァがひとりで来たのだ。
 彼女とは到着初日に会っただけで、19日ぶりの再会である。


「今日は、おひとりで?」

 番と言うくらいだから、2人はずっとくっついて居るのかと思っていた。


「ラシィは、政務中よ。
 彼に会えなくて残念ね、御愁傷様」


 あらら、今日はあの可愛らしい疑問文で話さないんだ。
 あれはラシィの隣に居る時のマリィ限定なのね。
 それと『彼に会えなくて残念ね、御愁傷様』も、全然正解ではないのだけれど。


 それよりも、夫が政務中、と聞いて。
 軽く衝撃を受けたガートルードであった。
 クイーネの口癖を借りれば、
『失礼ながら、王太子殿下におかれましては、ちゃんとお仕事をなさっておいででしたのね』である。

 確かに国王陛下に余裕がない現状であれば、国王代行は王太子が行うべきだ。
 今のところ何の仕事も割り当てられていない彼女も、来月からは王太子妃としての職務が始まる、とクイーネから聞いている。
 愛妾ではなく、側妃であるならマリツァにも日中は仕事があるだろうに、彼女は今は空き時間なのだろうか。



「お茶は……要らないのでしたね?
 テレサ、わたしだけに入れてちょうだい。
 では、早速ですが、ご用件を承ります」

 前回、毒でも入れられたらどーするの、と可愛い声と仕草で怖がって見せた側妃に、出すお茶など無い。
 対面で座る彼女には何も出さずに、ガートルードは自分ひとりだけでまったりと寛ぎ、芳しい香りを楽しみながら喉を潤した。