最愛から2番目の恋

 翌日は朝から雨が降っていた。
 雨特有のその匂いが、ガートルードの記憶をあの日に帰らせる。



 元婚約者だったユーシスと彼の幼馴染みだというクリスティアナ・ダンベルト侯爵令嬢。
 正式に紹介はされなかったけれど、彼にとってとても大切な少女なのだ、とはじめから知っていた。
 何故なら、カリスレキアからガートルードが来訪した時には、必ず彼女が王城に現れて、婚約者を何処かへ拐っていくからだ。


 その日も毎回のごとく、ユーシスはクリスティアナと落ち合って消え。
 置いていかれたガートルードを気遣って、エスコートしてくれたのは、婚約者の弟のテリオス第2王子で。


 冷たい銀色の糸が途切れなく、空から降ってくる王宮庭園の温室で。
 彼が彼女と抱き合って口付けているのを、ふたりで見つけたのは、ガートルードが16歳、テリオスが15歳の夏だ。


 彼が抱き締めている彼女は、テリオス王子の婚約者で。
 彼女がすがり付いている彼は、ガートルードの婚約者で。
 しかし、そんな事はお互いしか見えていないふたりには、どうでもいいことだったのだろうが。


「所詮、政略結婚の相手ですから」
 隣に立ったまま、諦めたように呟いたテリオスの顔を、ガートルードは見ることが出来なかった。