最愛から2番目の恋

 耳に心地よいアルトのヒルデガルド先生の声が聞こえる。


 テレサとブレイクの母、パーカー子爵夫人ヒルデガルドはとても博識な女性だった。


「アストリッツァは、現在レオニード家が王座に着いていますが、かつては4神虫獣家が支配する国でした。
 4家にはそれぞれ役割があり、漆黒の龍のヴァーライル家は他の3家よりは神に近い別格とされ、後継者が王座に相応しくない人物の場合だけ、他の3家から国王が選出されました。
 黄金の蜂アフヴァーナ家の特色は、毒を用いて敵を倒す……」

「白虎のティグルーは……
 赤鷲ヴォルターは……」

 

 ヒルデガルド先生は、西方の国フリッツベルクの代々学者の家に生まれた。 
 祖父や父から幼い頃から遊びに絡めて教えを受けていた。
 10代半ばでカリスレキアへ留学し、近衛騎士のパーカーと知り合い、卒業後も母国へ戻らずに彼と結ばれた。


 低位とも言える子爵家の夫人が、王家の王子や王女の教師に抜擢されたのは、単に王妃アンジェリナ・アーレンス・カリスレキアと同級生で、その優秀さに目を付けられたから、ただそれだけだ。




「アフヴァーナの金の毒は即効性。
 使われると、直ぐに死んでしまう。
 アフヴァーナの銀の毒は遅効性。
 潜伏期間は5年から10年。
 毒とは分からず、全身苦しんだ末の病死とされる」

 
「皆様が注意をしなくてはならないのは銀の毒。
 直接刺される以外にも、持ち物を狙われます。
 例えば、ペンの軸、愛読する本のしおり。
 男性なら剣の柄。
 女性なら、扇の持ち手。
 これらに毒を染み込ませる場合も多く……」