最愛から2番目の恋

 ガートルードは混乱しながらも、テリオスから差し出された手を取る。

 隣ではテレサが、トゥルーディ……、と呟くのを聞こえないふりをする。

 父が何とも言えない表情で、普段とは違う娘を見ている。
 
 ケインは多分テリオスの護衛なのだろう。
 ヴァルチ親子に背を向けた彼を守るように、一歩こちらに近付く。

 ステファノ・ヴァルチは混乱したままの状態で、何も言えないようで。

 セシオン公子は直ぐに踵を返して駆け出していく。
 サレンディラをクロスティアまで連れていく準備に取りかかるのだろう。



 そんな彼等の状態は、見えていたガートルードだったのに。
 肝心の人物が見えていなかった。

 初恋のテリオスから、嘘でも『愛しいひと』と言われた事に、注意散漫になっていた。
 早い話が浮わついていて、夢なら覚めないで状態でいたから、彼女が動いたことに気付けなかった。


 この日まで、ずっと注意していたのに。
 この時まで、同じ場所に居る時は、目を離さずに警戒した。

 父が亡くなった、と殊勝な様子を見せ、
「父も本望だった、レオニード家の霊廟で、亡くなる事が出来た。
 天国で皆様に褒められて喜んでいる」と聞かされてからは、特に。
 皆様はレオニードの死者達じゃない。
 クイーネの先祖と……アフヴァーナの亡霊達。