惚れさせゲーム

〇 学校・教室(昼休み)

昼休み、紗菜は教室の自分の席で弁当を広げていた。
しかし、正面には当然のように翼が座っている。

紗菜「……ねえ、なんであんたは毎回ここに座るの?」

翼「そりゃあ、お前の反応が面白いから」

にやりと笑いながら、翼は弁当の箸を動かす。

紗菜「はあ……いい迷惑」

翼「まあまあ、そんなことより」

翼は弁当を置くと、紗菜の方へ身を乗り出す。
そして、わざとらしく咳払いをした。

翼「次の罰ゲームデート、決定しました!」

紗菜「……は?」

翼「お前、夏祭り行くぞ」

紗菜「……いや、なんで?」

紗菜は思わず目を細める。
予想外の言葉に、一瞬頭がついていかなかった。

翼「だって、夏祭りってさ、カップルの王道イベントじゃん?」

紗菜「はあ!? 罰ゲームのはずなのに、なんでそんなの行かなきゃいけないのよ!」

翼「俺の"惚れさせる作戦"の一環だから」

紗菜「そんな作戦、勝手に決めないで」

翼は口元に笑みを浮かべながら、スマホを取り出し、画面を見せる。

翼「ほら、〇〇神社の夏祭り、今年も開催決定。
屋台もいっぱい出るし、花火大会もあるんだぜ?」

紗菜「だから何」

翼「浴衣で来いよ」

紗菜「着ないし行かないし!」

翼「いやいや、そこはノリ良く乗ってこいって」

翼は余裕たっぷりに笑う。
そんな彼の態度に、紗菜はますます苛立ちを覚えた。

紗菜「……私が行かないって言ったら?」

翼「そのときは――」

翼はわざとらしくスマホをいじる素振りを見せる。
嫌な予感がした紗菜は、即座に表情を曇らせる。

紗菜「今度は何?」

翼「いや~、俺とのプリクラ、クラスのグループに流してもいいかな~って」

紗菜「なっ!? ちょっと待って!?」

翼「でも、夏祭りデートしてくれるなら、データはこのまま俺のスマホに眠らせとくけど?」

紗菜「……脅迫じゃん、それ」

翼「いいや、これは"交渉"」

翼はいたずらっぽくウィンクする。
紗菜は頭を抱えながら、大きくため息をついた。

紗菜「……もう好きにすれば?」

翼「よっしゃ! じゃあ決まりな!」

楽しそうに笑う翼を見て、紗菜は心の底から思う。

紗菜(モノローグ)
「……こいつ、ほんっっっとにムカつく」

しかし、次の瞬間、翼はふと真面目な表情になり、ぽつりと呟いた。

翼「……でもさ、マジで楽しませてやるから」

紗菜「……え?」

翼は軽く肩をすくめると、再びいつもの調子で笑う。

翼「じゃあ、当日はちゃんと浴衣で来いよ?」

そう言い残し、翼は弁当を片付け始めた。
紗菜は彼の後ろ姿を見ながら、なぜか心臓が少しだけ速くなっていることに気づく。

紗菜(モノローグ)
「……バカバカしい」

自分にそう言い聞かせながらも、胸の奥が妙にざわつくのを抑えられなかった。

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こうして、次の"罰ゲームデート"は、
「夏祭り」に決定したのだった――。