俺の“男”に手を出すな!!~なりゆきで初恋のヤンキーの“男”になりました~

〇学校・教室(朝礼)
担任の和屋奏(わやかなで)が現れる。
細身の眼鏡をかけた30歳男性教師の和屋。
教室には大和が倒したヤンキーたちがいる。

和屋「朝から元気ですねぇ」
大和「先生弱そうっすね。担任なんてできるんすか?」
翼「こらっ!大和!」

教室での乱闘を終えたばかりで昂っている大和は和屋を煽る。
和屋は気にせず微笑む。
倒れていたヤンキーたちが起き上がる。

和屋「さてホームルームを始めますよ」
大和「無視すん……な……って、先生?――」

合気道の達人の和屋は大和に近づくと大和を投げ飛ばす。

和屋「……ホームルームを、始めたいんですが?」
大和「は、はい……すみませんでした……」

和屋から殺気を感じて大人しくなる大和。
大和が瞬殺されたのを見てクラスメイトのヤンキーたちも大人しく席へと座る。

和屋「さぁホームルームを始めますよ」
翼(すごい、一瞬でクラスのヤンキーたちをまとめちゃった)

感心した目で和屋を見つめる翼を面白くない目で見る大和。
静かな教室でホームルームが始まる。

〇学校・屋上(昼休み)
今朝の翼と大和のクラスでの乱闘騒ぎが学年に広まる。
翼との関係を面白がられ絡まれる翼と大和。
翼を守るためにケンカを続ける大和。

大和「いっぱいケンカできるとは思ってたけど……さすがに休み時間ごとは多いな」
翼「ごめんね」

ケンカの強い大和はたいして怪我をしていない。
大和が唯一怪我をしていた手の甲に絆創膏を貼る翼。

大和「何だよ急に。いつもより素直じゃねぇか」
翼「だって……」

怪我をした大和を見て落ち込む翼。
落ち込む翼の頬を軽く引っ張る笑顔の大和。

翼「いふぁい」
大和「そんな顔すんなよ。俺がケンカで負けるわけもねぇしな」
翼(負ける心配じゃなくて、怪我の心配をしてるのに……)

怪我の手当てが終わり二人で昼食を取る。
大和は購買のパン。翼は手作りの弁当。

大和「……気が引けるならさぁ……弁当、俺の分も作ってくんない?」
翼「お弁当?それだけでいいの?」
大和「十分すぎるだろ」
翼「じゃあ明日から作る」
大和「やった!」

無邪気に喜ぶ大和を見て笑顔になる翼。

大和「弁当のためにも守ってやるからな」
翼(……お弁当のため)

大和の言葉に呆れながらも内心嬉しい翼。

大和「俺の傍から離れんなよ、翼」

大和が翼の頭を雑に撫でる。

翼「前髪崩れる!」

翼は大和を叱りながらも笑顔でいる。

翼「……ねぇ、そういえば……朝の教室で言ってたことなんだけど――」
大和「あ、あれは翼を守るために仕方なくだから!」

「俺の男」というセリフは仕方なかったと言い張る大和。

翼「そっか!でも仕方なくであんなこと言うなんて、ほんっっっとにバカだね!大和は!」
大和「何だよ、なんか謝って損した」

内心傷つきつつも強がる翼。
大和は翼にバカにされ不貞腐れる。

翼「大和のケンカのせいでお昼食べる時間がないなぁ……」
大和「はいはい!すみませんでした!」

二人は普段通り仲良く言い合いをしながら昼食を終える。

〇学校・廊下(放課後)
大和がケンカをしている間にピンク紙のド派手な男子である桃井世那(ももいせな)に声を掛けられる翼。

世那「ちょっといいかな?」
翼「えっと……はい」

他のイカツいヤンキーとは違い物腰の柔らかい笑顔を浮かべる世那に翼はついていく。

〇学校・校舎裏(放課後)
翼と世那は向き合って立っている。
校舎裏には落書きや倒れた机などが散乱して荒れている。

翼「えっと、あなたは?」
世那「俺は桃井世那。何とでも呼んだらいい。それで――」
翼「じゃあ桃ちゃん!」
世那「ふざけるなっ!!可愛すぎるだろっ!!俺はヤンキーだぞ⁉」
翼(何とでも呼んだらいいって言ったのに)

翼は大和以外から初めて話しかけられてテンションが上がっている。
世那は中世的な可愛らしいアイドルのような見た目だがヤンキーであることにこだわっている。

世那「そんなことより水野くんだったかな?久瀬くんと……一体どういう関係だ?」
翼「え?」

大和との関係を問い詰める世那。
急に問いかけられ戸惑う翼。

翼「えっと……ただの、幼馴染……」
翼(大和は私のために仕方なく「俺の男」って言ってくれただけだから……)

言葉にすることで落ち込む翼。
翼の答えを聞いて豹変する世那。
校舎裏の壁に追い詰められる翼。

世那「嘘をつくな!!」
翼「え、でも……」
世那「いつも傍にいて、一緒に仲良くご飯まで食べて……ただの幼馴染だと⁉」
翼「あれ?」
翼(屋上には私と大和しかいなかったのに)
世那「何だよ」
翼「どうして大和と屋上にいたって知ってるの?」
世那「あっ!」

翼の指摘に動揺する世那。
世那の不審な態度に首をかしげる翼。

翼「……もしかして、わた……じゃない。ぼ、僕のストーカー?」
世那「そんなわけあるか!俺は久瀬きゅんの――」
翼「きゅん?」
世那「う、うるさいっ!!幼馴染なんてアドバンテージだと思うなよ!覚えておけ!!」

翼の勘違いに世那は憤慨する。
捨て台詞を吐いて逃げる世那。

翼(今のは何だったんだろう……)

世那のことを不思議に思いながら大和の元へと帰る翼。

〇住宅街(放課後・帰り道)
ケンカを終えた大和と一緒に帰る翼。

大和「初日なのに疲れた……」
翼「ね」
大和「ね、じゃねぇだろ。誰のせいで……はぁ。なぁ翼、本当に番成高校に通い続けるつもりか?」

大和は真剣な顔で翼に問いかける。

翼「どうして?」
大和「翼ならもっと良い学校行けるだろ?今からなら遅くないから考え直せば?」
翼「……大和の迷惑ってこと?」
大和「いや俺がどうこうって話じゃなくて……ヤンキーまみれで勉強とか集中できないだろ?どうすんだよ大学。行きたいって言ってたじゃねぇか」
翼「和屋先生が担任のおかげかクラスのみんな授業中は静かだし、勉強なら塾にも行くし」

頑なに番成高校にこだわる翼にため息を吐く大和。

大和「はぁ。なんでそこまでして番成なんだよ。ヤンキー好きも大概に――」
翼「ヤンキーのために番成を選んだんじゃない!」
翼(男のフリをして髪まで切って……それなのにどうして……)

突然声を張り上げた翼に驚く大和。

大和「何だよ急にキレて……悪かったよ」
翼「ごめん……だって……お弁当作る約束もしたのに」
大和「ケンカの後でテンションがおかしくなってたんだよ。冷静になってみたら、やっぱおかしいって。翼が男のフリして番成に通うなんてさぁ」
翼「屋上で俺の傍から離れるなって言ってくれたじゃん」

翼の言葉に頭を掻きながら困る大和。

大和「そうだけど……そうなんだけどさぁ。俺の計画が……」
翼「計画?」

ハッとして頭を掻いていた手が止まる大和。
大和「な、何でもない!き、気にすんなって!!」
翼(怪しすぎる……)
翼「大和?」

詰め寄る翼をごまかす大和。

大和「わかったよ!俺が守れば良いんだろ!」
翼「……ありがと」
大和「おう!任せとけ!」
翼「それにしても俺の男って叫んだのはバカだと思う」
大和「うるせぇなぁ!」

仲良く言い合いをしながら帰る二人。

翼(キスのことは触れない方がいいのかな……)

翼と大和はお互いキスのことには触れずに家に帰った。
〇学校・教室(朝)
翼と大和が番成高校に入学して一か月。
翼は大和が傍にいるおかげで平和な日々を過ごす。
大和は新入生を軒並みケンカで倒し一年生の番長になる。

ヤンキーたち「おはようございます!!大和さん!!」
大和「おう」
ヤンキーたち「おはようございます!!水野さん!!」
翼「お、おはよう」

翼と呼ぶと大和が怒るためにヤンキーたちは翼を水野さんと呼ぶ。
大和は慣れたように挨拶をするが翼は慣れない。

和屋「みなさんおはようございます」
クラスメイト全員「おはようございます!」
翼(和屋先生って感情が読めないなぁ……)

和屋はいつもニコニコと笑顔でいる。
クラスメイトは皆和屋には逆らわないようにしている。
和屋は現状。翼が男のフリをしているのを知っている大和以外の唯一の人物である。

〇(回想)(学校・廊下・入学数日後)

和屋「水野さん」
翼「はい?」

和屋は翼に声をかける。
振り向いた翼の耳元で囁く。

和屋「何か困ったことがあったら言ってくださいね」
翼「え?……えっと、どういう……」

翼は急に言われた意図が分からず戸惑う。
和屋は笑顔で告げる。

和屋「事情は知りませんが……担任ですので」
翼「あ、ありがとうございます」
翼(和屋先生、もしかして私の性別を知って……まぁ担任だもんね……)

和屋は翼が男のフリをしているのを特に気にしてはいないが気にはかけている。

〇(回想終了)

〇学校(廊下・休み時間)
廊下を歩く大和と翼。

大和「翼?どうした?」
翼「ううん、なんでもない」
翼(……なんか……視線を感じるような……まぁ心当たりはあるんだけど……)

〇学校(廊下・放課後)

翼は放課後に隣の教室の前で待ち伏せし、心当たりのある人物に声をかける。

翼「あ、桃ちゃん」
世那「桃ちゃんて言うのやめろ!!……何だよ」

世那は翼に話しかけられて機嫌を損ねる。
世那は要件は聞いてくれる。

〇学校(校舎裏・放課後)
翼と世那は向き合って立っている。
翼は不服そうに世那に訴える。

翼「また僕のストーカーしてるでしょ」
世那「だからお前のストーカーなんてするわけないだろ⁉」
翼「じゃあなんで僕のこと監視してるの?」
世那「だから!お前じゃなくて!……お前じゃなくて……」
翼「もしかして、大和のこと好きなの?」
世那「なっ!何を言って……」
翼(え?図星?……ってことは、私の……ライバル⁉)

翼の言葉に顔を真っ赤にする世那。
翼は聞いておいて驚く。

翼「桃ちゃん!好きならこそこそと監視するのはよくないよ!」
世那「だから桃ちゃんてやめ――」
大和「何してんだ翼」

大和は翼と帰ろうと探しに来た。

翼「あ、大和」
世那「く、久瀬きゅん……」
翼(また言ってる……きゅんって何?)

普通に返事をする翼と声を震わせ小さな声で大和の名前を呼ぶ世那。
大和は世那を知らない。

大和「誰だお前?翼をこんなところに呼び出して……やんのか?」
世那「あ、お、俺は……」

大和は世那を敵かと疑う。
世那は大和の前で上手く話せなくなる。
拳を固め世那に近づく大和の間に立つ翼。

翼「違う!僕が呼んだんだよ」
大和「あん?何だよ、翼のダチか?」
翼「えっと……そ、そう!桃ちゃん!友達になったの!」

ケンカになるのを予感した翼は世那との仲をごまかす。
不服な世那。

世那「なっ!お前、勝手に――」
大和「そっか。俺、大和。よろしくな、桃ちゃん」
世那「は、はいっ!」
翼(大和が呼ぶのはいいんかい)

大和は翼の言葉に笑顔になり、世那に握手を求める。
世那は翼への態度とは打って変わり、大和には嬉しそうに握手をする。

大和「なぁ、三人で遊びにでも行かね?桃ちゃん暇?」
世那「はいっ!暇ですっ!」
翼(私の時と態度が違い過ぎる……)
大和「翼は暇だろ。さぁ行くぞ~」
翼「暇って決めつけるな!」

ケンカをしてばかりで初めてできた友達にテンションが高い大和。
大和は先導するように二人の前を歩く。

世那「……水野さん」
翼「ん?翼でいいよ」
世那「嫌だ。とりあえずは一旦休戦だ。お前とは友達(仮)とする」
翼(いつの間に戦っていることに?)
翼「まぁいいけど」
大和「おい、置いてくぞ」
翼「あ、今――」
世那「すぐ行きまぁす!」
翼(ご機嫌だなぁ)

成り行きで翼は世那と友達(仮)になる。

〇駅前・ゲームセンター(放課後~夜)
ゲームセンターで一通り遊ぶ翼・大和・世那の三人。
大和はゲームが得意なため翼と世那で協力して大和を倒そうとする。
何だかんだ息はあっている翼と世那。

大和「はぁ〜楽しかった!また遊ぼうな!桃ちゃん!」
世那「はいっ!」
翼「またね、桃ちゃ――」
世那「またな」
翼(変わり身早いなぁ)

ゲームセンターで一通り盛り上がり、暗くなったところで帰る三人。
大和に対しては笑顔で、翼に対しては冷たくあしらう世那。
ゲームセンターで一緒に楽しんだため、世那の態度がそれほど嫌ではない翼。

世那「な、何だよ!」
ヤンキーE「お前番成のヤツだろ?」

翼と大和と別れてすぐに番成の制服を着ていたために世那はヤンキーに絡まれる。
世那の声を聞いて振り返る翼。

翼「桃ちゃん!」

世那が絡まれていることに気付き思わず走り出す翼。
ヤンキーEの前で世那を庇うように立つ翼。

世那「おい、何して……」
翼「だって……」
翼(桃ちゃんヤンキーに見えないし!だとしても弱そうだし!)
ヤンキーE「何だ?子どもがまた出てきやがった。番成もレベルが下がっ――」
大和「どこのレベルが下がったって?」

遅れてやってきた大和がヤンキーEを倒す。

大和「大丈夫か桃ちゃん」
世那「ありがとう……」
大和「今度から絡まれたら俺の名前出しな」
世那「はいっ!」

笑顔で言われ崇拝するように大和を見つめる世那。
世那は次に翼の方を見る。

世那「ちょっと……」
翼「何?」

翼の服の裾を掴んで引っ張る世那。
大和は不思議そうに二人を見守る。
大和から少し離れたところで話す翼と世那。

世那「助けようとしてくれて、あ、ありがとう……」
翼「え⁉桃ちゃんお礼言えるの⁉」
世那「うっさい!言わなければよかった……」
翼「ごめんごめん冗談だってば」
世那「……ったく。じゃあな、翼」
翼「え?今、名前呼んで――」
世那「何だよ!お前が呼べって言ったんだろ⁉」
翼「そうだね……ねぇ、まだ友達(仮)のまま?」
世那「……お試しで30日だけ友達になってやる」
翼(そんなサブスクのお試しみたいな……)
翼「お試しが終わったら?」
世那「それは翼次第だな。ほら、や、大和……くんを待たせるなよ」
翼「久瀬きゅんの方が面白いけど」
世那「うっさい!さっさと行け!!」
翼「は~い!またね、桃ちゃん!」

何だかんだ世那と仲良くなる翼。
ご機嫌なまま大和と帰る。

〇住宅街(帰り道・夜)

大和「なぁ、さっき桃ちゃんと何話してたんだ?」
翼「ん~?男の内緒話だよ」
大和「そんなの聞いたことねぇよ」

二人は他愛ない会話をしながら帰る。
〇学校(どこかの部室・暗い部屋・時間帯不明)
暗い中でスマホをいじる男の影がある。

?「久瀬大和くんと水野……翼ちゃん、ね……」

スマホには大和と翼が並んで歩いている写真が映っている。

〇学校(屋上・昼)
五月中旬。翼と世那が一緒に昼食を取っている。
大和はいつも昼食時にはケンカに呼び出されて遅れてやってくる。

翼「え?中学の頃から大和に憧れてたの?学校違うのに?」
世那「あぁ……大和くんは俺が中学生の頃、塾の帰りにヤンキーに絡まれた時に助けてくれたんだ……大和くんは覚えてないと思うけど」
翼「へぇ~。それで番成に?」
世那「あぁ。だから大和くんの傍にいるお前が嫌いだ」
翼「はっきり言うなぁ……」

清々しいほどに断言する世那。
苦笑いする翼。
大和「わりぃ、遅くなった」

大和が現れ世那の機嫌が良くなる。
翼から弁当を受け取る大和を見て世那の機嫌が悪くなる。

大和「桃ちゃんも弁当?俺のおかずと交換しねぇ?」
翼(作ったの私なんだけど)
世那「はいっ!」

大和に話しかけられ再び機嫌が良くなる世那。
二人を眺めながら弁当を食べる翼。

翼(コロコロと表情が変わって面白い)
世那「あ、大和くん。そういえば知ってます?」
大和「ん?」
世那「生徒会長が突然学校を辞めたそうですよ」
大和「そんなのいたんだ」
世那「え⁉一応番成の生徒会長は番成の番長だから……大和くんはそこを目指してるのかと……」
大和「え?そうなの?」
翼(へぇ~)
世那「知らないで番成に来たんですか⁉」
大和「ケンカ吹っ掛けてくるヤツ全員倒せばいいと思ってた」

驚く世那。翼は特にヤンキー事情に興味はない。
あっけらかんと言い放ち弁当を食べ続ける大和。

大和「一年にもう敵はいないし、そろそろ上級生行くか、って思ってたけど……ん?待てよ?今席が空いてるってことは、俺がその席奪えるってことか?」
世那「6月にある生徒会選挙で選ばれれば、ですけど」
翼「一年生も立候補できるの?」
世那「んー……噂で聞いた限りでは、誰でもって……言ってたけど……」

世那の表情が暗くなる。
不思議そうに世那を眺める翼と大和。

世那「番成の選挙は一味違うらしいから……大和くんが出るのはちょっと心配だなぁ……」
翼「一味違う?」
世那「それが――」
大和「あ、待て桃ちゃん!」
世那「な、何?」
大和「俺はそういうのは当日まで楽しみに待っておきたいタイプだから!黙ってて!」
世那「はいっ!」
翼「え?でもそれじゃ対策とかできなくない?」
大和「どんなルールだろうが、俺が最強なんだから大丈夫だろ!」
翼(何を根拠に……)
世那「圧倒的自信っ……かっこいいっ……」
翼(大丈夫かなぁ?)

豪快に笑う大和を憧れの目で見つめる世那。
二人を見て生徒会選挙を不安に思う翼。

〇学校・昇降口・靴箱の前(放課後)
大和はケンカでどこかに呼び出されている。
靴箱の近くに立ち大和を待つ翼。

斗真「こんにちは」
翼「……こんにちは」
翼(誰だろう……綺麗な顔)

翼に話しかけたのは同級生の紫水斗真(しすいとうま)。
斗真は青い髪の端正な顔をした男子生徒。
にこやかにしているが目は笑っていない。
翼は警戒する。

斗真「水野さん……だよね?」
翼「そうだけど……」
斗真「どこかへ移動すると久瀬くんが勘違いしそうだから、ここでいいかな?」
翼「うん……」
翼(ウソみたいな笑顔だなぁ……)

斗真は少し屈むと翼の耳元で囁く。

斗真「どうして男装なんてしているの?」
翼「え⁉」

驚いて体を反らす翼。
斗真は翼の反応を見て楽しむ。

翼「な、何で……」
斗真「否定しないんだ?適当に言ったのに」
翼「あっ!えっと……」
斗真「素直でかわいいね」
翼(だって、何でも見抜いてそうな目をするから……)

戸惑う翼に構わず斗真は話を続ける。

斗真「他の生徒にバラされたくなかったら、友達のフリ“も”してくれる?」
翼「友達のフリ?なんでそんなこと――」
大和「ごめん待たせた!」
翼(悪いタイミングで来るなぁ、もう!)

大和は見知らぬ斗真を見て首をかしげる。

大和「誰コイツ」
斗真「俺は紫水斗真。水野さんの友達になったんだ」
大和「へぇ?」
斗真「ね?」
翼「……うん。友達。」
大和「そっか。よろしくな、斗真」
斗真「よろしく久瀬くん」

斗真に目で脅され頷く翼。
大和は翼の言葉を疑わない。

斗真「ねぇ、久瀬くん」
大和「おん?」

斗真と挨拶を交わし帰ろうとする大和と翼に声をかける斗真。

斗真「久瀬くんは生徒会長を目指してるんだろう?」
大和「あぁ」
斗真「君が生徒会長になったら、俺を副会長にしてくれる?」
大和「おう」
翼「え⁉そんな簡単に決めていいの⁉」
翼(紫水くん、まだ得体の知れない人なのに……)
大和「翼の友達なら別にいいだろ?」
翼(その信頼感が今は嬉しくない……)

大和は笑顔で翼に告げる。
翼の心配をよそに大和は斗真と約束をする。

〇大和の部屋(放課後・夕方)
翼は大和の部屋に遊びに行く。
ベッドに寝転びスマホをいじる大和と椅子に座る翼。

翼「ねぇ大和。本当に生徒会長目指すの?」
大和「ん?だって生徒会長が実質番成のトップなんだろ?とりあえず目指すだろ」
翼「えぇー……でも、桃ちゃんなんか番成の生徒会選挙は普通と違うみたいな不穏なこと言ってたし……」
翼(それに紫水くんという不穏な男の子まで現れちゃったし……とは大和には言えないけど)
大和「大丈夫大丈夫。俺最強だから」

大和はスマホをいじるのを止め、ベッドから起き上がり翼の方へ顔を向ける。

大和「何だよ。俺が負けるって思ってんの?」
翼「選挙って勝ち負けじゃないでしょ?」
大和「じゃあ何が不満なわけ?」
翼「別に……」

大和はベッドから離れ、椅子に座る翼の前に立つ。

大和「翼……」
翼「何?……大和?」

大和は屈むと翼の両頬を両手で挟み、顔を近づけていく。

翼(え?え⁉)

大和の顔が近づき頬を赤くして固まる翼。
翼の額に突然痛みが走る。

翼「いったぁ!何するの⁉」
大和「俺の頭めちゃくちゃ固いだろ」

大和は翼に頭を軽くぶつけていた。
額を抑えて抗議する翼。

大和「これで他のヤンキー黙らせるから安心しろって」

大和は笑顔で翼に言う。

翼「はぁ⁉」
大和「だから、何度も言わせるなよ」
翼「何が⁉」

翼は怒り気味で翼に聞く。

大和「俺が翼を守るから。だから誰にも、何にも負けない。安心しろ。な?」

翼は頭を雑に撫でられる。

翼「だから、前髪崩れるから……何度も言わせないでよ」

大和は笑顔のまま翼の頭を撫で続ける。
翼の声は小さくなる。
翼は大和の言動に照れながら頭を撫でられるがままでいた。

翼(大和だから……大丈夫だよ、ね?)
〇体育館(昼・生徒会選挙中)
6月初旬。生徒会選挙演説中。
ステージ上に立つ大和。
大和の前に演説をしていたヤンキーたちは目標や提案を演説していた。

ヤンキー(上級生)「俺が生徒会長になったら全員を鍛え直してやる!!」
大和「え、そういうの別にないんだけど……」

ステージ袖にいた大和は困る。
間もなく大和の番が訪れる。

大和「えーっと、俺が生徒会長になったら……やべぇ、何も出てこない……」

真面目な場面が苦手な大和は顔が青ざめる。

翼(大和は生徒会長を何だと……)

呆れながらステージ上の大和を見守る翼。

大和「あー、じゃあ、俺にケンカで勝ったやつの望みを叶えてやらぁ!!」

拳を突き上げて宣言する大和。
体育館では大和を支持する新入生たちから歓声が上がる。

翼(本当に何だと思っているんだろう……大和も、このヤンキーたちも……)

謎の熱狂についていけない翼。

斗真「面白いねぇ、この学校は」
翼(紫水くんはよく分からない人だなぁ……)

翼の隣に座り微笑む斗真の目は笑っていない。
斗真は翼の手を取る。

翼「紫水くん?」
斗真「そろそろここも危ないから。避難しよう」

〇体育館・二階通路(生徒会選挙中)
斗真に連れられ体育館の二階通路(ギャラリー)へと行く翼。
進行を務める生徒が声を張る。

進行「では、立候補者でバトルロイヤルを行います!!」
翼「え?」
斗真「さぁどうなるかな?」

戸惑う翼と通路の柵の上で頬杖をつき笑顔でいる斗真。
進行の声でステージ上では生徒会長に立候補したヤンキーたちがケンカを始める。

大和「は?何だよ!そういうことかよ⁉分かりやすくていいじゃねぇか!!」

大和は興奮気味にステージ上のヤンキーたちを倒し始める。
見守っていた体育館の他のヤンキーも触発されるようにケンカを始める。
体育館は大混乱。

翼「毎年こんなのやってるの?」
斗真「名物だからねぇ。知らないで入学したの?大好きな久瀬くんのために?」
翼「な!何言ってるの⁉」
斗真「適当に言ったのに。素直だねぇ」

翼は斗真にからかわれ赤面する。

翼「もう何なの⁉友達のフリをしてとか……紫水くんは何が目的なの⁉」
斗真「安全なポジションでヤンキーたちのバカなケンカを観戦したいだけだよ」
翼「何それ……」
斗真「久瀬くんは生徒会長の素質がありそうだし……それに――」
翼「それに?」
世那「助けて!!」

世那が乱闘騒ぎの体育館一階から逃げてくる。

翼「桃ちゃん!大丈夫?」
世那「ふぇ~死ぬかと思ったぁ……何だよ、こんなところに逃げて。誘えよ……って誰?」
斗真「俺は紫水斗真。水野さんと久瀬くんの友達だよ」
世那「友達ぃ?」

世那は斗真の嘘の笑顔を胡散臭く思う。

斗真「ね?水野さん」
翼「そ、そう……」
世那「ふ~ん……ま、いいけど。桃ちゃんて呼んだらぶっ飛ばすからな。あと大和くんに必要以上に近づくなよ」
翼(ちょっと桃ちゃんが心強く感じる……)

斗真を牽制する世那。
斗真はにこやかに対応する。

斗真「分かった。よろしく桃井くん」
世那「うん、物分かりがよくて助かる。誰かと違って」
翼「誰かって何!いいじゃん桃ちゃんかわいいでしょ!!」
世那「かわいさなんていらねぇって言ってんの!!」

言い合う翼と世那を見て微笑む斗真。

斗真「あ、決着ついたみたい」

斗真の声に体育館のステージを覗く翼と世那。
リングアナウンサーのように叫ぶ進行。

進行「今期生徒会長はぁ~!!久瀬大和ぉおおおお!!」

進行に腕を掴まれ拳を突き上げる大和がステージに立っている。

大和「っしゃあ!!」

ステージで大和は視線を忙しなく動かし何かを探す素振りを見せる。

翼(どうしたんだろう)
斗真「素直で鈍いんだ?」
翼「え?」
斗真「ほら」

斗真は翼の手を取り、腕を振ってステージの大和にアピールする。

大和「おっ!翼ぁ!やったぞ~!!」

翼に向けて大声で叫び、笑顔を向ける大和。
体育館二階通路で騒ぐ三人。

斗真「おめでとう、愛してるーって言ってあげたら?」
翼「そ、そういうんじゃないから!」
世那「おい斗真!ふざけんな!お前やはり敵か⁉」
斗真「ごめんごめん。桃井くんは久瀬くんのファンなんだね?」
世那「ファンじゃない!あ、相棒だ!」
翼「自分で言って照れてるの?ってか相棒って何?」
世那「うっさい!ファンより近そうだろ⁉」

〇生徒会室(放課後)
生徒会選挙を終え、大和は生徒会長として生徒会室の所有者になる。

大和「いやぁ生徒会室なんて無縁な場所だと思ってたけど、こんなこともあるんだな!!」
翼「もう、傷だらけ……」

大和と翼は椅子に座り、翼は大和の傷の手当をする。

大和「でも生徒会長になれたし?」
翼「はぁ……」
大和「ため息なんてつくなよ……翼は嬉しくねぇの?」
翼「別に」
大和「……何だよ。頑張ったのに……」

翼は大和が怪我をしたので機嫌を損ねる。
大和は翼が褒めてくれないことで機嫌を損ねる。

斗真「やぁ」
大和「うわぁっ!」
翼「びっくりした」

斗真が突然二人の前に現れる。

大和「驚かせるなよ!」
斗真「ノックしたよ?二人の世界にでも入ってたの?」
翼「手当てしてただけだよ!」
斗真「まぁいいけど。それより久瀬くん、約束覚えてる?」
大和「約束?何だっけ」
斗真「俺を副会長にしてくれるんでしょ?」
大和「あぁ!そうだったな!なんか生徒会のメンバーは自力で集めろって言われてたんだった!よろしく斗真!」

大和は怪我の手当てを終え、斗真と握手する。

斗真「よろしくね。じゃあ水野さんは何する?」
翼「え?私も?」
大和「お、そうだ。翼も入れよ」
翼「生徒会って……後はー……書記とか?」
大和「じゃあ書記は翼でー……後は?」
翼「大和生徒会の知識全然ないじゃん。大丈夫?」
大和「斗真が賢そうだから大丈夫だろ!」
斗真「そうだね。たぶん久瀬くんたちよりは賢いと思うよ」
大和「言うじゃねぇか!嫌いじゃねぇ」
世那「何々⁉皆で集まって!俺も混ぜてよ!!」

三人が話し合っていると世那が遅れて合流する。

翼「あれ?桃ちゃんどうしたの?」
世那「教室に翼も大和くんもいないから……ここだって聞いて……何だよ、俺だけ仲間外れ?」
大和「桃ちゃんはー……」
斗真「後は会計だね」
大和「桃ちゃんは会計な!」
世那「はいっ!」

大和と世那は生徒会の活動について好き勝手に妄想をする。

大和「ソファとか欲しいな!秘密基地みたいにしようぜ!」
世那「いいですね!!」

二人を見守る斗真と翼。

斗真「楽しくなってきたね」
翼「うん……」

楽しそうにする大和・世那の笑顔を見る翼。

翼(大丈夫かなぁ?)

翼は心配を胸に抱える。
生徒会長・大和。副会長・斗真。書記・翼。会計・世那の四人で生徒会活動が始まる。

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