敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

家に戻ると、木崎はソファに座り、そわそわと俺の様子を窺っていた。

さっきまでの彼女の泣き顔が、まだ脳裏に焼き付いている。
俺はその表情を思い出し、胸が締め付けられるのを感じながらも、言葉を探していた。

気づかないうちに、木崎への思いが溢れ出していたことを改めて実感する。

感情をコントロールできないのなんて、初めてだった。

木崎が、元彼と称する男との間で苦しんでいることは、知っていたはずだったのに。

二股なんてくだらない噂、どう考えたって作り話に決まっているのに――俺は、一瞬でも彼女を疑ってしまった。

冷静になれば、すぐに分かることだったのに、あのときの俺は、何を伝えただろう。

傷付いた後ろ姿に後悔が募り、追いかけた先で、元彼とのトラブルに巻き込まれていた木崎を、ただ助けたいと思う心が先行した。

彼女の笑顔を俺が隣で守りたいと、確かにそう感じて……気付けば、京介への苛立ちとともに、その思いをぶつけていた。

でも、それは――俺には許されない感情のはずだった。

あの雨の夜のことが頭をよぎる。

俺の中途半端な優しさが、誰かを傷つけてしまうという事実は、罪悪感となって今も消えない。

だから俺は、木崎に思いを伝えるつもりはなかった。

気づき始めていたこの気持ちを、無かったことにする覚悟を決めていた。

家を出ると言った彼女を、引き止めなかったのもそうだ。

本当は――引き止めたかった。
でも、また傷つけるのが怖かった。

俺の弱さが、彼女を不幸にしてしまうかもしれないから。