敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

夜のオフィスは、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
デスクランプの淡い光だけが、周囲をぼんやりと照らす中、私は書類の山に埋もれながら、カチカチとマウスを動かす。

昼食後、ようやくシステムトラブルが一段落してホッとしたのも束の間。村上さんが思い出したように私を捕まえ、「昨日のプレゼンについてだけど」と文句を語り始めた。

そのおかげで業務が進むどころか完全に滞り、気づけば残業に突入。時計の針はいつの間にか夜の22時を回っていた。

「ふう……」

ようやく手を止め、深く息をつく。

椅子の背にもたれかかり、疲れた体をほぐすように肩をぐるりと回してみたものの、気分は少しも晴れない。

家に帰る気力なんて、もうとうに消え失せていた。
キリをつけられないこともないけれど――京介の顔が頭をよぎり、自然とため息が漏れる。

「早く新しい部屋、探さないとな……」

誰もいないオフィスに、ぽつりと独り言がこぼれた。

今朝のやり取りが脳裏に蘇るたび、胸がじくじくと重たくなる。
あの家に帰ることを考えるだけで気が滅入るし、今すぐにでもその生活をやめたいのに、この忙しさでは引っ越しの準備なんて夢のまた夢だ。

肩の力を抜いて再び書類に視線を落としたものの、心のどこかで「今日は帰りたくない」と小さな声が響いていた。