敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

翌朝——。私は、いつも通りの時間に会社へ向かった。
けれど、足取りはいつもより数段と軽い。

「大丈夫?茉莉」
「はい、ちょっと緊張するけど、大丈夫」

出社時間をずらすことの多かった柊真さんと今日は家から一緒に出社していた。もう気を遣う必要がないことが嬉しい。

出社後、私は一度自席に座ってから、覚悟を決めて村上さんに声をかけた。

「あの、これ、よろしくお願いいたします」
「え、何これ、本気で言ってるの?」

ピリついた村上さんの一言で、オフィスの空気がわずかに揺れる。私を見つめるその表情には、明らかに焦りが滲んでいた。

「本気です。来月末で辞めさせていただきます」

はっきりとした声に、オフィス全体から視線が集まっていた。

「ちょっとよくそんなこと平然と言えるわね!?あなたがいなくなったら、この間決まったプロジェクトはどうなるの? 自分で提案したプロジェクトを捨てるっていうの!?どれだけ責任感がないの……!」

ヒステリックな村上さんの声と集まる視線に動揺してしまう。けれど席に座る柊真さんの視線を感じ、私は静かに息を吸って続けた。

「引き継ぎは残りの期間で滞りなくさせていただくつもりです。それに……村上さん自身が考えたプロジェクトですよね?村上さんは全容を完璧に把握されていると存じておりますし、問題ないかと」

意識的に柔らかく言ったつもりだけど、皮肉は隠しきれなかったかもしれない。村上さんの顔が、みるみるうちに引きつっていく。