――――…



寛貴君が歩けない…?



「―…どうゆう意味?」



『私が病院に着いた頃には
もう遅かったの…‥
寛貴は病室に入れてもくれないから
担当の先生が教えてくれたの。
アンナには言えなかったんだけど
時々、私、大阪に来てたの。』



―――‥そういえば、
寛貴君は巻き髪が好きなんだっけ‥


高校時代、デートの日の結衣は
一目で分かったのに…

面倒くさがりの結衣が、
朝から綺麗に髪を巻いて来て…


なのに私、自分のことばっかりで
結衣が大阪に行ったって聞いた時も
行くとこなくて
結衣を少し恨んだ…‥



「――‥結衣が辛いのに
側にいれなくてごめん…‥
私、自分のことばっかりで‥」


私は下を向いて
精一杯涙をこらえた…‥


目の前のコーヒーを飲んでいる
翔平を見れば、
きっとまた泣いてしまうと思った。



『アンナ、もう大丈夫でしょ?』


「――えっ?」



『知ってんだからね〜。
来た時は寝言で隼士君の名前ばっか
呼んでたけど、
最近、違うから!』


電話の向こうで
結衣が笑った気がした。


「うそっ!」


顔が熱くなるのが分かる。



『もう今のアンナなら大丈夫だよ!
私も、寛貴がいるから大丈夫。
帰ったら話聞かせてよね!』



こんな状況で
結衣は精一杯に私を励ましてくれた。


一番励まさなきゃいけないのは
私の方なのに…‥




「ありがとう…‥」





――――…‥



通話終了ボタンを押した。




「―――‥アンナ?大丈夫か?」


「―っうん!大丈夫!」


私は力いっぱい笑った。



「あっ、やべー!
ちょっと仕事戻んなきゃ!
アンナも着いてこいよ!」



「はあっ!?なんでよ!」



「どーせ暇だろ!」


目の前に置かれた
クリームパスタに
手をつけないまま
翔平は私の手を引っ張った。







翔平はどうして私に
優しくするんだろう…‥