――…‥ギリギリ間に合った。


隼士の部屋を出て、
早足で駅へと向かう。


時間は20時。




大きな荷物を肩から提げる私を
駅の人混みが避ける。


結衣の家に帰るため
切符売り場の料金表を眺める。




――‥もう、この駅に
来る事はないだろうな。



財布からお金を出そうと
鞄に手をかけた時

私の冷たい手が
私の手より、
さらに冷たい手に掴まれた。





「―――…隼士。」




その手は息を切らした
スーツ姿の隼士のものだった。




「こんな別れ方、
納得できない。…来い!」



隼士が私を強引にひっぱった。



「…‥っ。 やめてよっ!」



隼士の背中が小さく見えた。




出会った頃の隼士の背中より

はるかに小さく、小さく見えた。



――――…


――――――……




「ストーップ!!」



‥…隼士が立ち止まった。

隼士の前にいるこの声の主は
私からは見えなかった。



「どけ!」


隼士の声が
行き交う人々を跳ね返すかのように響く。





「お前がどけよ!」



―――“ドサッ”…



目の前の隼士がいきなり倒れた。


「――…っ!」



誰かが私の腕をひっぱり、
人混みを掻き分けて走りだした。

いつかどこかで
見た事のあるサラサラの金髪が
私の目に映った。