結衣の家に来て5日が経った。



「アンナちゃん起きて〜!」


1階から聞こえる
大きなおばさんの声が
私の目を覚まさせる。



結衣の家族には高校時代に
よくお世話になっていた。


おばさんもおじさんも結衣の弟も
私の事には一切触れなかった。


もう5日も泊まらせてもらってるのに…



そんな結衣の家族の優しさが
とても嬉しかった。




――――“トントントントン”…


慌ただしく階段を下りた私に
おばさんが優しく微笑んでくれた。


「おはよう〜!
もう10時よ?
アンナちゃんの好きな
ドラマの再放送始まるよ!」


「うそっ!
私、何時間寝てたんだろ!
結衣は〜?」


私は洗面所へ向かった。


「結衣なら学校よ〜。
今日は午前中授業だからって。
あと、今日はあの子
バイトのはずだから
帰ってくるのは夜になるわね〜。」


「あっ、今日月曜日かあ!
曜日感覚なくなっちゃってる〜!」


「おばさんだってないわよ〜!」

私はリビングのおばさんに
聞こえるように
大きな声で笑った。





――…洗面台の鏡に映る顔が
日に日に私のものに
戻ってきているのを見て安心した。


もう、これくらいなら
ファンデーションで隠せる。





「おばさん、私ちょっと出かけるね。」


「えっ?どこに?」


おばさんは、あからさまに
驚いていた。


「服ないしさ、
一回帰ろうかなあ。」


「服なら結衣の着ればいいでしょう。」


「いつまでも借りてらんないし
それに、ここにも
ずっと居られないから…」


おばさんの表情が暗くなった。


「アンナちゃん……」





―――――……


私はファンデーションを何度も重ね、
化粧を念入りにして
結衣のニット帽を深々と被り
元気良くおばさんに挨拶して
結衣の家を出た。