「そういう人だったのかもしれません」

「彼が?」

「うん」

「そうなんだ」



そういうと目線を手元のカップに落とす。

冷めてしまっておいしくないはずのコーヒーを、ゆっくり飲み進める。

そしてカバンから文庫本を取り出すと、そのまま読み始めた。

私だけを取り残して、自分の世界に入ってしまった気がして、たまらず声をかける。



「あの」

「うん?」

「これ以上、聞かないんですか?」

「聞いてほしいなら、聞くよ?」

「結構です」



なにそれ?そっちから聞いてきたくせに!



「では、ごゆっくり」

「待って」

「まだ、なにか?」

「また聞くから」

「え?」

「一気に聞いたら面白くないでしょ?だから少しずつ、聞いてく」

「やだ」

「何言ってんの、さっき物足りなそうな顔してたくせに」





やな感じ。

何でもお見通しとか思ってるのかな。全く。





「ホール回ってくるので、何かあればどうぞ」



なんなの、もう。



「りえさん、ホール入ります」

「じゃあ私休憩入ってくるね」

「お疲れ様です」

「あそこのお客さん、そろそろお会計だと思うから」

「わかりました」

「朋ちゃん、何かいいことあった?」

「??」

「いい顔してる」

「そうですか?」

「あとよろしくね」