永遠の愛なんて信じません!

○壮平の実父の自宅・畳(夜)

紗奈が1人、ドライヤーで髪の毛を乾かしている。

何も置かれていない20畳ある広い畳の部屋に、1つ敷かれた布団。

紗奈M「(苦笑いしながら)広い……」

○(回想)壮平の実父の自宅・居間(夜)

壮平の実父「まずは、紗奈ちゃんの親御さんにご連絡しないといけないね」

×  ×  ×
時間経過。

紗奈の母と電話をしている壮平の実父。 

紗奈の母「いえいえ、こちらこそ突然泊めていただいてすみません〜」

壮平の実父「すみません、まだ高校生の娘さんを……。私とも壮平とも違う部屋で寝てもらいますので!」

紗奈の母「壮ちゃんのことは、誰よりも信頼してるんで大丈夫です〜!」

苦笑いでその様子を見守る紗奈と壮平。
(回想終わり)

○(回想)壮平の実父の自宅・畳(夜)

壮平の実父「今日はここで紗奈ちゃんに寝てもらおうかな。寝巻きは、ばあちゃんが昔着てたやつしかなくて、ごめんな。これでもいいかな?」

壮平の実父、花柄の寝巻きを紗奈に渡す。

壮平の実父「あと、壮平と俺はそれぞれ奥の部屋で寝るから、なんかあったら呼んでね!
そうだ、壮平。風呂沸かしといてくれるか? 紗奈ちゃんに先に入ってもらおう!」
(回想終わり)

○壮平の実父の自宅・畳(夜)

ドライヤーで髪の毛を乾かしている紗奈。

紗奈M「本当に壮平のお父さんって優しいなぁ〜。壮平はお父さんに似たのかな。ふふふ」

紗奈、微笑む。

紗奈M「今日が土曜日で良かった〜。よし、疲れたし早めに寝ようかな」

×  ×  ×
時間経過。

布団の中に入って、目を開けて仰向けになっている紗奈。

紗奈「寝れない」

畳の部屋の上部の壁には、先祖の遺影や能面が沢山掛けられている。

紗奈、それらを見渡してから、

紗奈「壮平のご先祖さま、能面さま、おやすみなさい」

紗奈、しばらく目を瞑る。

「シーン」静かな空間

紗奈を見ている先祖の遺影と能面。

紗奈、パチリと目を開ける。

紗奈「なんだか見られてるみたい……」

○壮平の実父の自宅・小部屋(夜)
6畳ほどの小さな部屋。

紗奈、枕を片手に抱き、部屋の引き戸を開ける。

紗奈「壮平〜?」

スウェットズボンを履いた、上半身裸の壮平が振り向く。

壮平「ん? 紗奈?」

紗奈「きゃっ」

壮平の上半身を見て、顔を赤くする紗奈。

壮平「あ? これ? わりぃ、気にすんな。風呂上がりなんだけど、着たい服今乾燥機にかけてて。どうした?」

紗奈「怖くて寝れない。一緒に寝てもいい?」

壮平、照れがバレないように、目をそらしながら、

壮平「紗奈の母ちゃんに約束したからそれはできないだろ」

紗奈「ねぇ、お願い!色んな人に見られてるみたいで怖いの」

壮平「あぁ、先祖代々の写真と能面ね! 確かにあれは俺も小さい時怖かったな!」

壮平、大笑いする。

壮平「じゃあ、紗奈が寝るまで隣で見てるから。寝たら、俺戻るから。それでいいだろ?」

紗奈「(嬉しそうに)うん!」

○壮平の実父の自宅・畳(夜)

紗奈、布団の中に入っている。

壮平、上半身裸のまま、紗奈の頭の位置の隣であぐらをかいて座っている。

紗奈のことをじーっと見ている壮平。

紗奈「……これじゃあもっと寝れないよ!」

壮平「(ニヤリとしながら)気にすんな、寝ろ」

紗奈「ねぇ、壮平も一緒に入って?」

紗奈、上目遣いで壮平にお願いする。

壮平「誘ってんのか?」

紗奈「(ニコニコしながら)うん! 誘ってる!」

壮平「あー、もー。馬鹿紗奈」

壮平、頭を掻きながら、

壮平M「鈍感すぎるにもほどがあるだろ。襲われてもしらねーぞ」

紗奈、布団をめくって、

紗奈「(ニコニコしながら)おいで!」

壮平、紗奈に背を向け、布団に入る。

壮平M「やべー、これで手出しちゃいけないって地獄かよ。我慢できんのか?俺。早く寝ろ、紗奈!」

紗奈「今日楽しかったなぁ〜。壮平のお父さんって本当に優しくて大好き!」

壮平「(苦笑いしながら)50のおじさんに大好きとかいうのやめろよ」

紗奈「ねぇ、壮平? なんで壮平のお父さんとお母さんは離婚しちゃったのかな? あんなに優しいお母さんとお父さんなのに」

壮平「……」

紗奈「あ、ごめん。話さなくていいんだ。あんなに優しい人同士で結婚してもそういうことってあるんだなぁって不思議で。……いや、なんか、これも他人が何言ってるんだって話だよね、ごめんごめん。忘れて! おやすみ!」

壮平「親父が家業のぶどう農家継ぎたいって突然言い出したみたいでさ。でも母さんは、今の仕事が好きで続けたかった。それに、この土地も、この土地に住むじいさんばあさんのこともあんまり好きじゃなかったらしい。そのまま、話が進まなくて、次第に喧嘩が増えて、それなら離婚したほうが幸せっていう結論になったみたい。まぁ、俺は小さくて覚えてないから、掻い摘んだ話だけどな」

紗奈「壮平のお母さん、キャリアウーマンだもんね。ふーん……。結婚って難しいね」

壮平「まあな」

紗奈「うちのお母さんはさ、正社員で働けなくて職を転々として、経済的に男の人に頼って生きてきたんだよね。別に、その生き方を否定したいわけじゃないよ? お母さんは、きっと私を育てるために必死に考えてくれてた。感謝してるの」

壮平「うん」

紗奈「でも私は、人に依存しなくても1人だけでもちゃんと生きていけるようになりたいから、壮平のお母さんみたいになりたいと思ってた」

壮平「……うん」

紗奈「でも、逆にそれで離婚しちゃうこともあるんだね」

壮平「そうだな」

紗奈「ねぇ、壮平? 私たちは大丈夫かな」

壮平「何が?」

紗奈「大学も同じ大学に行けるか分からないし、将来だってお互いのやりたいことを優先したら、一緒にいられないかもしれない」

壮平、体の向きを紗奈に向け、手を繋いで目を見つめる。

壮平「俺は、遠距離になっても紗奈のこと好きでい続けられる自信があるし、お互いやりたいことがあって一緒にいられないなら、一緒にいられる方法を納得するまで話し合えばいい。それだけのことだろ?」

紗奈「(涙目になりながら)うん」

壮平「それだけだ。俺を信じろ。深く考えんな」

紗奈、泣きながら頷く。

壮平、紗奈を抱きしめる。

壮平「俺がずっとそばにいる。紗奈も離れんな」

紗奈「うん」

紗奈と壮平、キスを何回もする。

顔を赤くする紗奈。

うつろな目の壮平。

「ドンドンドンドンドン」近づく早い足音。

「ギー!」引き戸が開く音。

壮平の実父「壮平!!!」

紗奈と壮平、ぎょっとした顔。

壮平の実父、上半身裸の壮平が紗奈に抱きついている姿を見て、

壮平の実父「こんのバカ息子―!!!」

○壮平の実父の自宅・外観(夜)

「ボコボコボコ」殴る音。

○壮平の実父の自宅・居間(夜)

土下座する壮平の実父。困惑する紗奈。ボコボコにされた壮平。

壮平の実父「紗奈ちゃん、申し訳ない! 息子が嫁入り前の女の子の部屋に入ってあんな……。はぁ〜」

壮平の実父、ため息をつく。

紗奈「違うんです! 私なんです! ちょっと能面に見られている感じがして、怖くなって壮平に一緒に寝て欲しいって頼んだんです! それに、お父さんが想像するようなことは何もしてません!」

隣で目を瞑り、苦笑いする壮平。

壮平の実父「ほんとか? それでも紗奈ちゃん、申し訳なかった。紗奈ちゃんのお母さんとも約束したのに。とりあえず、能面の部屋に壮平を寝させて、壮平がいた部屋を紗奈ちゃんに使ってもらおう。広いほうがいいかと思ったけど、逆に怖い思いをさせたね。ごめんごめん。おやすみなさい」

○壮平の実父の自宅・畳(夜)

壮平、頭の後ろに手を組み、仰向けで寝そべる。

壮平M「あっぶねー。親父が来てくれて助かった。間違いなく、あのままだったら紗奈のことめちゃくちゃにしてた」

壮平、真顔で天井を見つめる。

×  ×  ×
(フラッシュ)
紗奈の泣き顔。
×  ×  ×

壮平、真顔で天井を見つめる。

○壮平の実父の自宅前(朝)

紗奈「お世話になりました」

紗奈、お辞儀をする。

壮平の実父「いやいや、こちらだよ! 本当に収穫を手伝ってくれて助かったよ、ありがとう。また今度、収穫とは別に壮平と遊びに来てね」

紗奈「(笑顔で)はい!」

壮平の実父「こんなんだけど、仲良くしてやって!」

壮平の実父、壮平の頭をポンポンする。

壮平「やめろよ!」

壮平、壮平の実父の腕を振り払う。

紗奈、2人の様子を微笑んで見る。

○電車・車内

紗奈と壮平、誰もいない車両の席に横並びで座り、手を繋いでいる。

紗奈、壮平の肩にもたれかかり寝ている。

壮平「ずっと俺はいるから」

壮平、寝ている紗奈に語りかける。

紗奈、寝ながら微笑んでいる。

壮平「(ニヤッとしながら)どんな夢見てんだよ」

壮平も目を瞑る。

紗奈M「幸せな夢を見ていた。大好きな人が手を繋いで、ずっとそばにいてくれる夢」

○学校・教室(ホームルーム)

文化祭実行委員の生徒が黒板の前に立っている。

紗奈M「文化祭の季節がやってきました」

文化祭実行委員「うちのクラスは何の出し物をしましょうか。食べ物系、お化け屋敷とか劇とかの出し物系。何かいい案ありませんか?」

クラスがガヤガヤする。

隣の席同士の紗奈と恵も話している。

恵「お化け屋敷とかは準備に時間が掛かりそうだから、食べ物がよくない?」

紗奈「そうだねー。なにがいいかなぁ〜。私チョコバナナ食べたい!」

恵「あー、いいね! 手軽〜!」

前の席の女子生徒が振り返り、

女子生徒A「それいい!!」

女子生徒A、実行委員に向かって大きな声で、

女子生徒A「委員長〜! チョコバナナどうですかー!」

女子生徒B「え、いいじゃん! チョコバナナ! トッピングで可愛くしたい!」

女子生徒C「水色とかピンクのチョコも作りたい!」

男子生徒A「衣装どうする?」

男子生徒B「え、女子にチアの服着てほし〜!」

女子生徒A「そしたらさ…」

盛り上がる生徒たち。

紗奈と恵、目を見合わせて困惑する。

文化祭実行委員「えーっと、それではとりあえず、チョコバナナのお店でいいですか? 次は衣装だったりコンセプトについて話し合いたいと思います」

○学校・教室のベランダ(昼休み)

紗奈と恵がベランダの手すりに腕をかけ、外を眺めながら話している。

恵「紗奈のチョコバナナの案が採用されちゃったねー」

紗奈「うん、まさかあんなスピード感で決まると思わなかったよ。それよりもチアリーディング係になっちゃったよ、どうしよう! チョコバナナを買いに来たお客さんを応援する係って言ってたけど、何をどう応援するの? もう、コンセプトが変なノリで決定しちゃったから、意味分かんないよ〜」

恵「生きててくれてありがと〜!とか言っておけばいいんじゃない?」

紗奈「(笑って吹き出す)ぷっ! 恵は人ごとだからって!」

恵「調理係で良かった〜。ほんと私、ジャンケン強いんだよね」

紗奈「壮平たちのクラスは何だろうね」

○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)

ローテーブルを挟んで勉強をしている紗奈と壮平。

紗奈「そういえば、壮平のクラスは文化祭なにすることになったの?」

壮平「ん? 忘れたー」

紗奈「絶対嘘! 何するの?」

壮平「なんか、劇って言ってたぞー」

紗奈「何それ、他人事! 壮平は何役なの?」

壮平「なんだっけかなー…。召使いAとかそんな感じ? だから、出番も一瞬だから見に来なくていいから」

紗奈「へぇ〜」

壮平「紗奈のクラスはなにするんだよ」

紗奈「私はチアリーディングカフェ……」

壮平「何だそりゃ」

紗奈「(苦笑いしながら)私もチアリーディングになって接客する係になっちゃったんだけど、ちょっと迷走中」

壮平「絶対行くわ! 冷やかしに」

壮平、ニヤニヤ笑う。

紗奈「いや、本当にいい! 本当に恥ずかしい!」

壮平「どこに行くかは客の自由なんで〜」

紗奈、頬を膨らます。

○学校・教室・文化祭当日

テロップ「文化祭当日」

チアリーディングのコスプレ(ミニスカートに肩の出た衣装)をして、恥ずかしそうにしている紗奈。髪は高い位置で1つに結んでいる。

紗奈「恥ずかしいって! 人前に出たくない!」

恵「すっごく似合ってるよ! あとで陽介が青山くんと顔出しに来るって言ってたから、これ見たら青山くんデレデレになっちゃうんじゃない?」

紗奈「いやだ〜」

紗奈、もじもじする。

×  ×  ×
時間経過。

賑わうチアリーディングカフェ。

机同士を合わせて椅子を置き、たくさんのイートインスペースが並んでいる。

机の上には、手作りのメニュー表が置かれていて、店員が席まで注文を取りに行ったり、品を届けに行ったりしている。

教室には、他の学校の制服を着た生徒が多くいる。

チアリーディング担当の女子生徒が客にバナナを届けに行く。

女子生徒A「お待たせしました! ときめきチョコバナナです! あなたの未来に幸あれ☆ よかったら連絡先交換しませんかぁ?」

他学校の男子生徒「(照れた様子で)あ、はい……」

スマートフォンを出し合う2人。その姿を横目にため息をつく紗奈。

紗奈M「はぁ〜、どうしよう」

チョコバナナを持った紗奈。

紗奈M「よしっ!」

客の元に歩いて行く紗奈。

紗奈「お待たせしました。 キラキラチョコバナナです。 今日が良い1日になりますように」

紗奈、控えめに微笑んでチョコバナナを他学校の男子生徒に手渡す。

男子生徒「(顔を赤くしながら)あ、ありがとうございます!」

紗奈、ペコリと会釈して足早に去る。

紗奈M「恥ずかしい〜!」

男子生徒M「か、かわいい〜」

男子生徒、ぽけーっとした顔になる。

×  ×  ×
時間経過。

クラスの女子生徒「竹内さん、あの席にときめきチョコバナナ持っていってくれる?」

紗奈「はーい」

紗奈、チョコバナナを持って、同じ学校の制服を来た男子生徒の元へ向かう。

紗奈「お待たせしました。ときめきチョコバナナです。今日も良い1日になりますように」

紗奈、客と目を合わせたとき、驚いた顔をする。

南沢「ありがとう」

目の前に南沢が1人でニコニコした顔で席に座っている。