○公園(放課後)
紗奈と南沢、ベンチに座っている。
南沢「なんか飲むー?」
紗奈「大丈夫です。その……」
南沢「シーソー2人で乗る?」
紗奈「先輩……」
南沢「もうちょっとで冬なのに全然あったかいね」
紗奈「……」
南沢「ははは、ダサいな俺。焦ってるのバレバレか。俺とは付き合えないんだろ?」
南沢、作り笑いをする。
紗奈「先輩は、いつもひょうひょうとしていて、掴みどころがないんです。だけど、一緒にいると気持ちが軽くなって、なんだか春風みたいな人でした。でも時々私に似た影があって、そこが共鳴できる部分でもあったりして。先輩は、一緒にいるとすっごく楽しいし、理解し合えるので居心地のいい場所でした」
南沢、真っ直ぐ紗奈を見つめる。
紗奈「だけど私、自分の気持ちに気付いて。ずっとそばにいてほしい人がいるんです。私の命よりも大切な存在で……。それなのに、南沢先輩にひどいことしちゃって私、本当に最低……」
紗奈、大粒の涙を流す。
紗奈「こんなに優しくしてくれた南沢先輩を傷つけてしまって……、本当にごめんなさい」
紗奈、大粒の涙を流し、顔がぐちゃぐちゃになる。
南沢「(困ったように笑いながら)泣くなよ。最初に言ったでしょ? 俺が好きなのは紗奈ちゃんの顔面だって! お互いに気持ちがないから、軽い気持ちで試してみようって。俺、全然傷ついてないから」
紗奈、泣き止まないまま、南沢を見つめる。
南沢「……まぁ、全然傷つかないは嘘だけどさ。ほんと、山口離れてこっちに引っ越してから1番幸せな1週間だったよ。それで十分! なぁ、お願い事覚えてる?」
紗奈「……お願い事?」
南沢「卓球勝負のやつ! 俺が立ち止まった時には紗奈ちゃんが全力で応援してくれる約束!」
紗奈、南沢を見つめる。
南沢「あれ? 忘れた? 中学の時、応援団やってたんでしょ?」
紗奈「はい」
南沢「よし。これから東京の大学に行って新しい道を切り開いて行く俺に!」
紗奈「……分かりました」
紗奈、腕でこすって涙を拭く。
紗奈「フレー! フレー! 先輩! フレ! フレ! 先輩! フレ! フレ! 先輩! わー!」
紗奈、大声で叫びながら、リズムに合わせて大きく腕を振る。
南沢、肩を震わせた後、我慢できず大笑いする。
南沢「ははは! 思ってたのと違う! 最高」
南沢、涙を流しながら腹を抱えて笑う。
紗奈「え!? 応援ってこういうことじゃないんですか!」
南沢「なんか、ポジティブな言葉を貰えるのが応援だと思ってた。こっちのが100倍元気でるわ! やっぱり紗奈ちゃん最高だ〜」
紗奈、顔を赤くして照れる。
南沢「今の応援で、前向けそうだわ! ありがとう、紗奈ちゃん。じゃあね!」
紗奈「先輩も……! これから先、辛いことがあったら泣いてもいいんですよ! わがまま言っていきましょうね! 私たち同志なんで、私はいつでも先輩の味方です!」
南沢、ニカっと笑って公園を去る。
南沢「やっぱり、真正面からぶつかったやつには勝てないな」
南沢、清々しい顔で歩き始める。
○コンビニ前・壮平のバイト先(夕方)
紗奈、全速力で走りコンビニに向かう。
紗奈M「最低だ、私。いつも自分のことばっかり。自分が傷つきたくなくて、気持ちに嘘を重ねて。気付いたら、私のせいで人を傷つけていた。もうごまかすのはやめよう。自分の気持ちに正直でいよう。たくさん人を傷つけた分、これからは私が恐れず傷ついてみよう。大丈夫。怖くない」
紗奈、息を切らしながら店内を見渡す。
紗奈、顔見知りの店員に、
紗奈「壮平、いますか!?」
店員「あー、紗奈ちゃん! 青山くんならさっき上がって帰ったばっかりだよ」
紗奈「(会釈しながら)ありがとうございます」
○住宅街・路上(夕方)
紗奈、全力で駆ける。
紗奈M「壮平、壮平」
紗奈、遠くに壮平の後ろ姿を見つける。
紗奈「(大声で)壮平―!!」
壮平、気付かない。
紗奈「(もっと大声で)壮平―!!」
壮平、後ろを振り返る。必死に名前を呼び、こちらに駆けてくる紗奈。壮平も紗奈の方へ走る。
紗奈、壮平の元まで来て、息を切らしながら、
紗奈「壮平……、はぁ、はぁ」
壮平、何も言わず紗奈を抱きしめる。
紗奈「はぁ、はぁ。……壮平。好き。大好き」
壮平「うん」
紗奈「……もう遅いかな?」
紗奈、涙を流す。
壮平「俺には紗奈しかいないって言ったろ」
紗奈「たくさんたくさん傷つけてごめん。私、ばかだ」
壮平「あとでお仕置きな」
紗奈「ずっと一緒にいたい」
壮平「知ってる」
紗奈「壮平がいい」
壮平「だから知ってるって」
壮平、抱きしめていた紗奈を一度離し、紗奈の目を見て、
壮平「ずっと待ってた」
涙が止まらない紗奈。
紗奈「うっ、うっ……」
壮平、優しく紗奈の涙を手で拭い、キスをする。
紗奈M「壮平はいつも、真っ直ぐな言葉を、真っ直ぐに伝えてくれていた。それなのに、私はいつも、ごまかして、避けて、たくさん壮平を傷つけてきた。それでも向き合ってくれた壮平。もうこの人を手放しちゃいけない。これからは、私が壮平を幸せにする番だ」
紗奈と壮平、口を離して見つめ合い、微笑む。
○紗奈の自宅・洗面所(朝)
紗奈、鏡を見ながら前髪を整える。リップを塗って、色んな角度から鏡を見てチェックする。
× × ×
(フラッシュ)
壮平と紗奈がキスをしている前日の場面
× × ×
紗奈、顔を赤くする。
○紗奈の自宅内・玄関(朝)
紗奈「いってきまーす!」
紗奈、玄関を出る。
○紗奈の自宅前・登校前
壮平、廊下で待っている。
紗奈、目を合わせず顔を赤くしながら、
紗奈「おはよー」
壮平、紗奈の目を見ながらいつも通り、
壮平「おはよう」
紗奈と壮平、歩き始める。
○電車・車内(登校中)
紗奈と壮平、ドアの付近に立っている。
壮平「来週模試だなー」
紗奈「……だね〜」
紗奈、目を合わせずぎこちない様子。
壮平「今日の夜、勉強会する?」
紗奈「う、うん」
壮平「なんで今日、ずっと顔赤いの?」
紗奈「え!? な、なんか、今日暑くてさ〜」
紗奈、顔のそばで片手をあおぐ。
壮平、拳を口元に当て、笑いを堪える。
壮平「くくく、分かりやすっ」
紗奈「なんで笑うの!」
紗奈、顔を赤くしながら怒る。
壮平「いや、俺のことやっと意識してくれるようになったんだなと思って」
紗奈「意識しない方が無理だよ! なんで壮平はそんなに平気な顔なの?」
壮平「だって俺は、物心ついた時からずっと好きだったもん。もう慣れてる」
紗奈「へ、へぇ〜」
紗奈、ごまかすように視線を遠くへ向ける。
紗奈M「どうしよう、照れる〜!」
○学校・校庭(授業中)
紗奈と恵、体育の授業で校庭を一緒にウォーキングしている。
恵「私はずっと心の中で、青山くんとくっつけばいいのにって思ってたよ」
紗奈「そうなの!?」
恵「だって、青山くん紗奈に一途だし、過保護だし、付き合ったら絶対大切にしてくれそうじゃん」
紗奈「そうかなぁ」
恵「そうだよ、だって中学の時から、青山くんって紗奈のこと好きだったもん!」
紗奈「なんで恵が知ってるの!?」
恵「だって、変な男が近寄ってこないか目を見張らしてたし……」
○(回想)学校・廊下・中学時代
廊下を歩く紗奈。その姿を横目で見る男子学生2人。男子学生を睨む壮平。
男子学生A「竹内さん、かわいい〜」
男子学生B「告ったら、ワンチャンいけるかな?」
壮平「竹内、好きなやついるからお前らには無理だよ」
そばで見ていた恵。
恵M「(呆れた顔で)いないって!」
(回想終わり)
○(回想)学校・技術室・中学時代
のこぎりを使う授業。紗奈、制服姿のまま、片足を上げて台に乗せてのこぎりで木を切っている。同じ班の男子生徒が紗奈の前にしゃがんでパンツを見ようとしている
男子生徒C「(小声で)何色?」
男子生徒D「(小声で)黒……、いや、紺か?」
壮平、男子生徒2人の目の前にしゃがみこむ。
壮平「(静かに怒りながら)俺のは黒」
男子生徒2人、静かに怖がる。
恵、隣からその様子を苦笑いしながら見ている。
(回想終わり)
○学校・校庭(授業中)
恵M「(苦笑いしながら)……まぁ、こんな事は紗奈には言わないけど」
恵「やっと両想いかぁ。青山くんも長かったね〜。これからたくさん、恋人らしいことできるね!」
紗奈「恋人らしいことって?」
恵「手を繋ぐとか、ハグするとか、キスしたり。……あとは、まぁ」
紗奈「え!? だって私と壮平だよ? 恥ずかしいよ、出来ない出来ない!」
恵「でも、青山くんずっと我慢してたと思うよ? 軽いスキンシップくらいは紗奈から行動してみてもいいんじゃない?」
紗奈「う、うん」
紗奈、俯く。
○壮平の自宅前(夜)
紗奈、顔を赤くしながら深呼吸する。
紗奈「ふぅ〜。よし!」
紗奈、インターフォンを押す。
「ピンポーン」
壮平、ドアを開けて顔を出す。風呂上がりの濡れた髪。
紗奈M「お風呂上がり! 髪濡れてる!」
紗奈、更に顔を赤くする。
壮平「(ニヤッと笑い)よう!入って」
○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)
ローテーブルを挟んで向かい合い、勉強をする紗奈と壮平。
紗奈「……髪、乾かさなくていいの?」
壮平「短いからすぐ乾く」
紗奈「男子っていいよねぇ」
壮平「確かに! 前、紗奈が髪濡れたまま寝ちゃった時に、乾かしてやったことあるけど、めっちゃ時間かかったわ」
紗奈「え、そんなことあったの?」
壮平「おう。今回の再婚したばっかのときくらい?」
紗奈「そうだったんだ、ありがとう。……あのさ、私も壮平の乾かさせて!」
壮平「いいよ、すぐ乾くし!」
紗奈「私が乾かしたい! 壮平にはやってもらってばっかりだから!」
× × ×
時間経過。
壮平、床にあぐらをかいて座っている。紗奈、ベッドに腰掛け、壮平の後ろから髪をドライヤーで乾かしている。
紗奈M「綺麗な髪……」
紗奈、ドライヤーで乾かしながら、見惚れる。
紗奈「熱くない?」
壮平「……うん」
紗奈「なんか、久しぶりだなぁ。小学生の時、髪を結ぶ練習したくて、よく壮平の髪いじってたよね。壮平は嫌がってたけど。ふふふ」
壮平「……だな」
紗奈「なんか、私たちってずっと変わらないよねぇ〜。ははは」
壮平、紗奈をベッドに押し倒す。
紗奈「え!? ちょ、壮平!?」
紗奈、顔を真っ赤にする。
壮平、紗奈の首にキスをする。
紗奈「あっ……」
紗奈、恥ずかしそうな顔をする。
壮平、自分の両手と紗奈の両手を繋いで耳を噛む。
紗奈「やっ……、壮平」
壮平、紗奈の顔を見る。
紗奈、顔を真っ赤にして目を潤ませ、恥ずかしそうにしている。
壮平「可愛い。やべぇ」
壮平、紗奈のキャミソールの中に手を伸ばす。
紗奈「ま、ま、待って!!」
紗奈、両手で壮平を押さえる。2人でベッドに腰掛ける。
壮平「ごめん、我慢できなくて」
紗奈「ううん、私もごめん。まだ心の準備が出来てなくて。もう少し待っててくれるかな?」
壮平「うん。あー、俺、理性保てなさすぎだな。あーサイテー」
壮平、落ち込む。
紗奈、壮平の頬にキスをする。
壮平、驚いた顔で紗奈を見る。
真っ赤な顔の紗奈。
壮平、紗奈の口にキスをして抱きしめる。
壮平「やべぇ。我慢できねぇ。一緒に部屋にいると手が出ちゃうから、今度から外で会わね? 無理すぎる」
壮平、紗奈の肩に顔を埋める。
紗奈「デートってこと?」
壮平「おう」
○電車・車内・休日(朝)
テロップ「土曜日」
私服姿の紗奈と壮平が隣合わせで座っている。ほとんど客のいない車内。
紗奈「(ニコニコした顔で)なんか、壮平と2人きりでこうやって遠出するの初めてじゃない?」
壮平「ごめんな。デートって言っときながら、親父の家業の手伝いに付き合わせちゃって」
紗奈「これもデートじゃん! ぶどう狩り楽しみ!」
壮平、微笑んで紗奈の手を握る。
紗奈も微笑んで、壮平の肩に頭をもたれかける。
紗奈「お父さんに会うのいつぶり?」
壮平「うーん、でも意外と会ってるんだよな。今年の春休みも会いに行って、結構な額のお小遣いもらったし!」
紗奈「なるほど〜。たまに壮平、羽振りがいいなぁって思うときがあるけど、そういう収入源があるんだね」
紗奈、苦笑いする。
壮平「今日も一応、俺らバイト扱いだから、デート代稼ごうぜ!」
紗奈「いいよ、私は! むしろぶどう狩りを楽しみにしてきたから!」
壮平「いいからもらっとけって! 親父も紗奈に会うの楽しみにしてたぞ!」
紗奈「ほんと?」
壮平「うん」
紗奈「私も壮平のお父さんがどんな人なのか、会うの楽しみだなぁ」
○壮平の実父の自宅前
田舎の中にある古い平家。周りに家は少なく、広大な畑が広がっている。
「ピンポーン」インターフォンの音。
家の前に立つ紗奈と壮平。
「ドンドンドンドンドン」大きな足音が近づいてくる。
「ガラガラガラ」ドアを引く音。
壮平の実父「壮平―!! よく来たなぁ!」
壮平の実父、嬉しそうにニコニコした顔で出迎える。
壮平の実父「お! 紗奈ちゃんかな? 今日は遠くまで来てくれてありがとね! おじさん嬉しいよ!」
紗奈「おはようございます、佐藤紗奈です! よろしくお願いします」
紗奈、ニコニコしながらお辞儀する。
壮平の実父「(小声で壮平に向かって)壮平、やるじゃねぇか。こんな可愛い子……」
壮平「(照れながら)うっせぇ、黙れ!」
壮平の実父「(微笑みながら)はいはい、思春期思春期」
紗奈、2人のやりとりを見て笑う。
○ぶどう畑
一面に広がるぶどうの木。
壮平の実父「しっかりぶどうの底を支えて、ここを切る!」
壮平の実父、収穫の仕方を実演しながら説明する。
紗奈「はい!」
× × ×
時間経過。
ハサミを持ちながら、真剣な顔でぶどうを収穫する紗奈と壮平。
壮平の実父「なんか、2人とも慣れてきたなぁ。予定よりもペースが早くて今日終わるかもしれない。ぼちぼち休憩するか」
○壮平の実父の自宅・縁側
紗奈と壮平、座っている。
壮平「あー、ずっと上向いてたから肩凝った〜」
紗奈「壮平のお父さんは、いつも1人でやってるんだもんね! すごいよね! 全農家さんに感謝しなきゃ!」
壮平の実父「紗奈ちゃんは優しいなぁ〜」
壮平の実父、洗ったぶどうをお皿に乗せて持ってきて、縁側に座る。
壮平の実父「たくさん食べてね」
紗奈「ありがとうございます! 嬉しい! いただきます」
紗奈、一口食べて、
紗奈「おいし〜!」
壮平の実父「それは嬉しいな。ありがとう」
壮平、実父の顔を眺めて微笑む。
壮平「俺、ちょっとトイレ!」
壮平、立ち上がる。
壮平の実父「(微笑みながら)紗奈ちゃん、いつも壮平のそばにいてくれてありがとうね。おじさん、心強いよ」
紗奈「いえ! いつも助けてもらってるのは私なんです! 壮平は強くて優しくて……」
壮平の実父「泣き虫だったあいつが強くて優しい……か。それは、紗奈ちゃんのおかげかもしれないね」
紗奈「え?」
壮平の実父「男ってのは、本気で守りたい子がいるとそうなるもんさ! でも、あいつもまだまだ弱い部分があるから、支えてやって!」
紗奈「……はい」
壮平の実父。ニコッと笑う。
× × ×
時間経過。
○駅・ホーム(夕方)
ベンチに座って電車を待つ紗奈と壮平。
壮平「はぁー、疲れたー! 紗奈、今日はありがとな! 親父も紗奈に会えて相当喜んでた」
紗奈「私も嬉しかったよ! また手伝いに来てもいいかな?」
壮平「うわ、親父が聞いたら調子乗るな〜」
笑い合う2人。
駅員のアナウンス「ただいま、強風により運転の目処が立っておりません。お急ぎのところ申し訳ございません」
壮平「まじかー。親父に大きな駅まで車で送ってもらったほうが早いかもな、一旦戻るか」
紗奈「うん」
○壮平の実父の自宅前(夜)
壮平の実父「昨日から車を修理に出していて、今手元にないんだ。そもそもあったら、壮平たちのアパートまで送り迎えしたかったんだけどね」
スマートフォンをいじる壮平。
壮平「電車の運転再開の目処が立ってないな……」
壮平の実父「再開するかも分からないし、再開まで待ってたら、紗奈ちゃんを夜遅くに出歩かせちゃうことになっちゃうから、今日、泊まって行くかい?」
紗奈と壮平、顔を見合わせる。
紗奈と南沢、ベンチに座っている。
南沢「なんか飲むー?」
紗奈「大丈夫です。その……」
南沢「シーソー2人で乗る?」
紗奈「先輩……」
南沢「もうちょっとで冬なのに全然あったかいね」
紗奈「……」
南沢「ははは、ダサいな俺。焦ってるのバレバレか。俺とは付き合えないんだろ?」
南沢、作り笑いをする。
紗奈「先輩は、いつもひょうひょうとしていて、掴みどころがないんです。だけど、一緒にいると気持ちが軽くなって、なんだか春風みたいな人でした。でも時々私に似た影があって、そこが共鳴できる部分でもあったりして。先輩は、一緒にいるとすっごく楽しいし、理解し合えるので居心地のいい場所でした」
南沢、真っ直ぐ紗奈を見つめる。
紗奈「だけど私、自分の気持ちに気付いて。ずっとそばにいてほしい人がいるんです。私の命よりも大切な存在で……。それなのに、南沢先輩にひどいことしちゃって私、本当に最低……」
紗奈、大粒の涙を流す。
紗奈「こんなに優しくしてくれた南沢先輩を傷つけてしまって……、本当にごめんなさい」
紗奈、大粒の涙を流し、顔がぐちゃぐちゃになる。
南沢「(困ったように笑いながら)泣くなよ。最初に言ったでしょ? 俺が好きなのは紗奈ちゃんの顔面だって! お互いに気持ちがないから、軽い気持ちで試してみようって。俺、全然傷ついてないから」
紗奈、泣き止まないまま、南沢を見つめる。
南沢「……まぁ、全然傷つかないは嘘だけどさ。ほんと、山口離れてこっちに引っ越してから1番幸せな1週間だったよ。それで十分! なぁ、お願い事覚えてる?」
紗奈「……お願い事?」
南沢「卓球勝負のやつ! 俺が立ち止まった時には紗奈ちゃんが全力で応援してくれる約束!」
紗奈、南沢を見つめる。
南沢「あれ? 忘れた? 中学の時、応援団やってたんでしょ?」
紗奈「はい」
南沢「よし。これから東京の大学に行って新しい道を切り開いて行く俺に!」
紗奈「……分かりました」
紗奈、腕でこすって涙を拭く。
紗奈「フレー! フレー! 先輩! フレ! フレ! 先輩! フレ! フレ! 先輩! わー!」
紗奈、大声で叫びながら、リズムに合わせて大きく腕を振る。
南沢、肩を震わせた後、我慢できず大笑いする。
南沢「ははは! 思ってたのと違う! 最高」
南沢、涙を流しながら腹を抱えて笑う。
紗奈「え!? 応援ってこういうことじゃないんですか!」
南沢「なんか、ポジティブな言葉を貰えるのが応援だと思ってた。こっちのが100倍元気でるわ! やっぱり紗奈ちゃん最高だ〜」
紗奈、顔を赤くして照れる。
南沢「今の応援で、前向けそうだわ! ありがとう、紗奈ちゃん。じゃあね!」
紗奈「先輩も……! これから先、辛いことがあったら泣いてもいいんですよ! わがまま言っていきましょうね! 私たち同志なんで、私はいつでも先輩の味方です!」
南沢、ニカっと笑って公園を去る。
南沢「やっぱり、真正面からぶつかったやつには勝てないな」
南沢、清々しい顔で歩き始める。
○コンビニ前・壮平のバイト先(夕方)
紗奈、全速力で走りコンビニに向かう。
紗奈M「最低だ、私。いつも自分のことばっかり。自分が傷つきたくなくて、気持ちに嘘を重ねて。気付いたら、私のせいで人を傷つけていた。もうごまかすのはやめよう。自分の気持ちに正直でいよう。たくさん人を傷つけた分、これからは私が恐れず傷ついてみよう。大丈夫。怖くない」
紗奈、息を切らしながら店内を見渡す。
紗奈、顔見知りの店員に、
紗奈「壮平、いますか!?」
店員「あー、紗奈ちゃん! 青山くんならさっき上がって帰ったばっかりだよ」
紗奈「(会釈しながら)ありがとうございます」
○住宅街・路上(夕方)
紗奈、全力で駆ける。
紗奈M「壮平、壮平」
紗奈、遠くに壮平の後ろ姿を見つける。
紗奈「(大声で)壮平―!!」
壮平、気付かない。
紗奈「(もっと大声で)壮平―!!」
壮平、後ろを振り返る。必死に名前を呼び、こちらに駆けてくる紗奈。壮平も紗奈の方へ走る。
紗奈、壮平の元まで来て、息を切らしながら、
紗奈「壮平……、はぁ、はぁ」
壮平、何も言わず紗奈を抱きしめる。
紗奈「はぁ、はぁ。……壮平。好き。大好き」
壮平「うん」
紗奈「……もう遅いかな?」
紗奈、涙を流す。
壮平「俺には紗奈しかいないって言ったろ」
紗奈「たくさんたくさん傷つけてごめん。私、ばかだ」
壮平「あとでお仕置きな」
紗奈「ずっと一緒にいたい」
壮平「知ってる」
紗奈「壮平がいい」
壮平「だから知ってるって」
壮平、抱きしめていた紗奈を一度離し、紗奈の目を見て、
壮平「ずっと待ってた」
涙が止まらない紗奈。
紗奈「うっ、うっ……」
壮平、優しく紗奈の涙を手で拭い、キスをする。
紗奈M「壮平はいつも、真っ直ぐな言葉を、真っ直ぐに伝えてくれていた。それなのに、私はいつも、ごまかして、避けて、たくさん壮平を傷つけてきた。それでも向き合ってくれた壮平。もうこの人を手放しちゃいけない。これからは、私が壮平を幸せにする番だ」
紗奈と壮平、口を離して見つめ合い、微笑む。
○紗奈の自宅・洗面所(朝)
紗奈、鏡を見ながら前髪を整える。リップを塗って、色んな角度から鏡を見てチェックする。
× × ×
(フラッシュ)
壮平と紗奈がキスをしている前日の場面
× × ×
紗奈、顔を赤くする。
○紗奈の自宅内・玄関(朝)
紗奈「いってきまーす!」
紗奈、玄関を出る。
○紗奈の自宅前・登校前
壮平、廊下で待っている。
紗奈、目を合わせず顔を赤くしながら、
紗奈「おはよー」
壮平、紗奈の目を見ながらいつも通り、
壮平「おはよう」
紗奈と壮平、歩き始める。
○電車・車内(登校中)
紗奈と壮平、ドアの付近に立っている。
壮平「来週模試だなー」
紗奈「……だね〜」
紗奈、目を合わせずぎこちない様子。
壮平「今日の夜、勉強会する?」
紗奈「う、うん」
壮平「なんで今日、ずっと顔赤いの?」
紗奈「え!? な、なんか、今日暑くてさ〜」
紗奈、顔のそばで片手をあおぐ。
壮平、拳を口元に当て、笑いを堪える。
壮平「くくく、分かりやすっ」
紗奈「なんで笑うの!」
紗奈、顔を赤くしながら怒る。
壮平「いや、俺のことやっと意識してくれるようになったんだなと思って」
紗奈「意識しない方が無理だよ! なんで壮平はそんなに平気な顔なの?」
壮平「だって俺は、物心ついた時からずっと好きだったもん。もう慣れてる」
紗奈「へ、へぇ〜」
紗奈、ごまかすように視線を遠くへ向ける。
紗奈M「どうしよう、照れる〜!」
○学校・校庭(授業中)
紗奈と恵、体育の授業で校庭を一緒にウォーキングしている。
恵「私はずっと心の中で、青山くんとくっつけばいいのにって思ってたよ」
紗奈「そうなの!?」
恵「だって、青山くん紗奈に一途だし、過保護だし、付き合ったら絶対大切にしてくれそうじゃん」
紗奈「そうかなぁ」
恵「そうだよ、だって中学の時から、青山くんって紗奈のこと好きだったもん!」
紗奈「なんで恵が知ってるの!?」
恵「だって、変な男が近寄ってこないか目を見張らしてたし……」
○(回想)学校・廊下・中学時代
廊下を歩く紗奈。その姿を横目で見る男子学生2人。男子学生を睨む壮平。
男子学生A「竹内さん、かわいい〜」
男子学生B「告ったら、ワンチャンいけるかな?」
壮平「竹内、好きなやついるからお前らには無理だよ」
そばで見ていた恵。
恵M「(呆れた顔で)いないって!」
(回想終わり)
○(回想)学校・技術室・中学時代
のこぎりを使う授業。紗奈、制服姿のまま、片足を上げて台に乗せてのこぎりで木を切っている。同じ班の男子生徒が紗奈の前にしゃがんでパンツを見ようとしている
男子生徒C「(小声で)何色?」
男子生徒D「(小声で)黒……、いや、紺か?」
壮平、男子生徒2人の目の前にしゃがみこむ。
壮平「(静かに怒りながら)俺のは黒」
男子生徒2人、静かに怖がる。
恵、隣からその様子を苦笑いしながら見ている。
(回想終わり)
○学校・校庭(授業中)
恵M「(苦笑いしながら)……まぁ、こんな事は紗奈には言わないけど」
恵「やっと両想いかぁ。青山くんも長かったね〜。これからたくさん、恋人らしいことできるね!」
紗奈「恋人らしいことって?」
恵「手を繋ぐとか、ハグするとか、キスしたり。……あとは、まぁ」
紗奈「え!? だって私と壮平だよ? 恥ずかしいよ、出来ない出来ない!」
恵「でも、青山くんずっと我慢してたと思うよ? 軽いスキンシップくらいは紗奈から行動してみてもいいんじゃない?」
紗奈「う、うん」
紗奈、俯く。
○壮平の自宅前(夜)
紗奈、顔を赤くしながら深呼吸する。
紗奈「ふぅ〜。よし!」
紗奈、インターフォンを押す。
「ピンポーン」
壮平、ドアを開けて顔を出す。風呂上がりの濡れた髪。
紗奈M「お風呂上がり! 髪濡れてる!」
紗奈、更に顔を赤くする。
壮平「(ニヤッと笑い)よう!入って」
○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)
ローテーブルを挟んで向かい合い、勉強をする紗奈と壮平。
紗奈「……髪、乾かさなくていいの?」
壮平「短いからすぐ乾く」
紗奈「男子っていいよねぇ」
壮平「確かに! 前、紗奈が髪濡れたまま寝ちゃった時に、乾かしてやったことあるけど、めっちゃ時間かかったわ」
紗奈「え、そんなことあったの?」
壮平「おう。今回の再婚したばっかのときくらい?」
紗奈「そうだったんだ、ありがとう。……あのさ、私も壮平の乾かさせて!」
壮平「いいよ、すぐ乾くし!」
紗奈「私が乾かしたい! 壮平にはやってもらってばっかりだから!」
× × ×
時間経過。
壮平、床にあぐらをかいて座っている。紗奈、ベッドに腰掛け、壮平の後ろから髪をドライヤーで乾かしている。
紗奈M「綺麗な髪……」
紗奈、ドライヤーで乾かしながら、見惚れる。
紗奈「熱くない?」
壮平「……うん」
紗奈「なんか、久しぶりだなぁ。小学生の時、髪を結ぶ練習したくて、よく壮平の髪いじってたよね。壮平は嫌がってたけど。ふふふ」
壮平「……だな」
紗奈「なんか、私たちってずっと変わらないよねぇ〜。ははは」
壮平、紗奈をベッドに押し倒す。
紗奈「え!? ちょ、壮平!?」
紗奈、顔を真っ赤にする。
壮平、紗奈の首にキスをする。
紗奈「あっ……」
紗奈、恥ずかしそうな顔をする。
壮平、自分の両手と紗奈の両手を繋いで耳を噛む。
紗奈「やっ……、壮平」
壮平、紗奈の顔を見る。
紗奈、顔を真っ赤にして目を潤ませ、恥ずかしそうにしている。
壮平「可愛い。やべぇ」
壮平、紗奈のキャミソールの中に手を伸ばす。
紗奈「ま、ま、待って!!」
紗奈、両手で壮平を押さえる。2人でベッドに腰掛ける。
壮平「ごめん、我慢できなくて」
紗奈「ううん、私もごめん。まだ心の準備が出来てなくて。もう少し待っててくれるかな?」
壮平「うん。あー、俺、理性保てなさすぎだな。あーサイテー」
壮平、落ち込む。
紗奈、壮平の頬にキスをする。
壮平、驚いた顔で紗奈を見る。
真っ赤な顔の紗奈。
壮平、紗奈の口にキスをして抱きしめる。
壮平「やべぇ。我慢できねぇ。一緒に部屋にいると手が出ちゃうから、今度から外で会わね? 無理すぎる」
壮平、紗奈の肩に顔を埋める。
紗奈「デートってこと?」
壮平「おう」
○電車・車内・休日(朝)
テロップ「土曜日」
私服姿の紗奈と壮平が隣合わせで座っている。ほとんど客のいない車内。
紗奈「(ニコニコした顔で)なんか、壮平と2人きりでこうやって遠出するの初めてじゃない?」
壮平「ごめんな。デートって言っときながら、親父の家業の手伝いに付き合わせちゃって」
紗奈「これもデートじゃん! ぶどう狩り楽しみ!」
壮平、微笑んで紗奈の手を握る。
紗奈も微笑んで、壮平の肩に頭をもたれかける。
紗奈「お父さんに会うのいつぶり?」
壮平「うーん、でも意外と会ってるんだよな。今年の春休みも会いに行って、結構な額のお小遣いもらったし!」
紗奈「なるほど〜。たまに壮平、羽振りがいいなぁって思うときがあるけど、そういう収入源があるんだね」
紗奈、苦笑いする。
壮平「今日も一応、俺らバイト扱いだから、デート代稼ごうぜ!」
紗奈「いいよ、私は! むしろぶどう狩りを楽しみにしてきたから!」
壮平「いいからもらっとけって! 親父も紗奈に会うの楽しみにしてたぞ!」
紗奈「ほんと?」
壮平「うん」
紗奈「私も壮平のお父さんがどんな人なのか、会うの楽しみだなぁ」
○壮平の実父の自宅前
田舎の中にある古い平家。周りに家は少なく、広大な畑が広がっている。
「ピンポーン」インターフォンの音。
家の前に立つ紗奈と壮平。
「ドンドンドンドンドン」大きな足音が近づいてくる。
「ガラガラガラ」ドアを引く音。
壮平の実父「壮平―!! よく来たなぁ!」
壮平の実父、嬉しそうにニコニコした顔で出迎える。
壮平の実父「お! 紗奈ちゃんかな? 今日は遠くまで来てくれてありがとね! おじさん嬉しいよ!」
紗奈「おはようございます、佐藤紗奈です! よろしくお願いします」
紗奈、ニコニコしながらお辞儀する。
壮平の実父「(小声で壮平に向かって)壮平、やるじゃねぇか。こんな可愛い子……」
壮平「(照れながら)うっせぇ、黙れ!」
壮平の実父「(微笑みながら)はいはい、思春期思春期」
紗奈、2人のやりとりを見て笑う。
○ぶどう畑
一面に広がるぶどうの木。
壮平の実父「しっかりぶどうの底を支えて、ここを切る!」
壮平の実父、収穫の仕方を実演しながら説明する。
紗奈「はい!」
× × ×
時間経過。
ハサミを持ちながら、真剣な顔でぶどうを収穫する紗奈と壮平。
壮平の実父「なんか、2人とも慣れてきたなぁ。予定よりもペースが早くて今日終わるかもしれない。ぼちぼち休憩するか」
○壮平の実父の自宅・縁側
紗奈と壮平、座っている。
壮平「あー、ずっと上向いてたから肩凝った〜」
紗奈「壮平のお父さんは、いつも1人でやってるんだもんね! すごいよね! 全農家さんに感謝しなきゃ!」
壮平の実父「紗奈ちゃんは優しいなぁ〜」
壮平の実父、洗ったぶどうをお皿に乗せて持ってきて、縁側に座る。
壮平の実父「たくさん食べてね」
紗奈「ありがとうございます! 嬉しい! いただきます」
紗奈、一口食べて、
紗奈「おいし〜!」
壮平の実父「それは嬉しいな。ありがとう」
壮平、実父の顔を眺めて微笑む。
壮平「俺、ちょっとトイレ!」
壮平、立ち上がる。
壮平の実父「(微笑みながら)紗奈ちゃん、いつも壮平のそばにいてくれてありがとうね。おじさん、心強いよ」
紗奈「いえ! いつも助けてもらってるのは私なんです! 壮平は強くて優しくて……」
壮平の実父「泣き虫だったあいつが強くて優しい……か。それは、紗奈ちゃんのおかげかもしれないね」
紗奈「え?」
壮平の実父「男ってのは、本気で守りたい子がいるとそうなるもんさ! でも、あいつもまだまだ弱い部分があるから、支えてやって!」
紗奈「……はい」
壮平の実父。ニコッと笑う。
× × ×
時間経過。
○駅・ホーム(夕方)
ベンチに座って電車を待つ紗奈と壮平。
壮平「はぁー、疲れたー! 紗奈、今日はありがとな! 親父も紗奈に会えて相当喜んでた」
紗奈「私も嬉しかったよ! また手伝いに来てもいいかな?」
壮平「うわ、親父が聞いたら調子乗るな〜」
笑い合う2人。
駅員のアナウンス「ただいま、強風により運転の目処が立っておりません。お急ぎのところ申し訳ございません」
壮平「まじかー。親父に大きな駅まで車で送ってもらったほうが早いかもな、一旦戻るか」
紗奈「うん」
○壮平の実父の自宅前(夜)
壮平の実父「昨日から車を修理に出していて、今手元にないんだ。そもそもあったら、壮平たちのアパートまで送り迎えしたかったんだけどね」
スマートフォンをいじる壮平。
壮平「電車の運転再開の目処が立ってないな……」
壮平の実父「再開するかも分からないし、再開まで待ってたら、紗奈ちゃんを夜遅くに出歩かせちゃうことになっちゃうから、今日、泊まって行くかい?」
紗奈と壮平、顔を見合わせる。
