○学校・屋上(昼休み)
ニコニコしながらお弁当を食べる紗奈。
紗奈の両隣で不機嫌そうに紗奈の手作り弁当を食べる、南沢と壮平。
紗奈「やっぱり、天気がいい日に外で食べると美味しいですね」
南沢「なんでお前がいるんだよ」
南沢、壮平を睨みつける。
壮平「なんで紗奈と飯食ってんすか」
壮平、南沢を睨み返す。
南沢「てゆーか、なんでお前まで紗奈ちゃんに弁当作ってもらってんだよ」
壮平「言っとくけど、紗奈の弁当食うのは、全然俺にしたら特別なことじゃないし、日常なんで。昨日も俺の部屋で一緒に勉強してたし、俺のベッドで寝落ちしてることもよくあるんで!」
南沢「ふーん。じゃあ、壮平は紗奈ちゃんにとって特別な存在じゃなくて、兄弟みたいな存在ってことなんだねぇ。そっか、そっかぁ。ナカヨシデ、ウラヤマシー」
南沢、嫌味っぽく棒読みで羨ましがる。
壮平「……っ!」
壮平、言い返す言葉がなくて、鬼の形相で南沢を睨む。
紗奈「そうなんです! (壮平に向かって)壮平とは物心つく前から一緒だから、お互いなんでも知ってるんだよね〜。良くも悪くも!」
紗奈、ニヤリとする。
壮平「紗奈っ、お前まで! あれは言うなよ!」
紗奈「うふふ」
南沢「なになに、紗奈ちゃん」
壮平「言うな!」
南沢「教えて教えて〜」
ガヤガヤする3人。
「ガチャッ」屋上の扉が開く。
女子生徒C「(呆れた顔で)青山くん、いたいたー! 探したんだから! 保健委員の集まり始まるから行くよー!」
壮平と同じクラスの女子生徒が壮平を呼びにくる。
壮平「あ、わりぃ」
壮平、女子生徒に謝る。
壮平、紗奈と南沢のペアを見る。眉間に皺を寄せて頭を掻きながら、
壮平「あ〜!! 先輩、変なことしたら許さないんで」
壮平、唇を噛みながら女子生徒と屋上を去る。
騒がしかった壮平が去り、静かになる空間。
南沢「行っちゃったね」
紗奈「はい」
南沢「なんかあいつって、台風みたいな奴だな」
紗奈「確かに」
紗奈、大笑いする。
紗奈「あ、そうだ! 友達、熱が下がって来週の月曜から来られるみたいです! 3日間お弁当付き合ってくれて、ありがとうございました」
紗奈、ペコリと会釈する。
南沢「え!? まじかー。寂しいな〜」
2人の間に沈黙が流れる。
南沢「てか、弁当めっちゃ美味しい! この卵焼きの味付け好きだし、なんかおかずが女子の弁当で、新鮮」
紗奈「喜んでもらえて良かったです」
南沢「将来良いお嫁さんになりそう」
紗奈「あー、私、結婚は考えていないので、どうかなぁ〜」
紗奈、苦笑いをする。
南沢「結婚、考えてないの?」
紗奈「はい。なんか、一生誰かに愛されるとか、愛するとか、私にはできる気がしないので」
南沢「まぁ、そんな深いとこまで考えないで、勢いで結婚しちゃってる人も世の中多いと思うけど? 結婚前からそんなに長い目で結婚生活を冷静に見れてる時点で、逆に上手くいきそうだけどねぇ」
紗奈「ありがとうございます。……先輩って本当は優しい人ですよね。いつも、心が軽くなる言葉をくれます」
南沢「俺、紗奈ちゃんが好き」
紗奈「(笑いながら)ふふふ。顔面が?」
南沢「全部?」
紗奈「も〜、軽いですよ。先輩!」
南沢「俺と付き合おう」
紗奈「……え?」
南沢「俺の軽さが紗奈ちゃんには合ってると思うんだけど」
紗奈「本当に言ってます?」
南沢「うん、ガチ」
紗奈「……ごめんなさい。私、誰かと付き合うとかそんな、考えたことなくて……」
紗奈、目を逸らして俯く。
南沢「紗奈ちゃんは、結婚する気ないって言うけど、結婚しないその先のことも考えたことあるの? もちろん、結婚は幸せと直結するものではないし、結婚をしない幸せな人生もたくさんある。けど、最初から否定しなくてもいいんじゃない?」
紗奈「……えーっと、これは、結婚を前提にお付き合いしようというお話ですか?」
紗奈、困惑した表情。
南沢「違う違う! むしろその逆! 軽い気持ちでまずは男と付き合うことからはじめてみない?って話!」
紗奈「でも私、南沢先輩のこと、男の人としては好きじゃないです」
南沢「だから、いいんじゃん! 俺も好きなのは紗奈ちゃんの顔だし、紗奈ちゃんは俺のこと好きでもないし、最初から割り切った関係なら、傷つくこともないと思うんだよね」
紗奈「うーん」
南沢「とりあえずさ、1週間お試しで付き合おうよ! 1週間後、紗奈ちゃんが別れたかったら別れればいいし!」
紗奈「お試し?」
南沢「うん、お試し! じゃあ明日11:00に桜本駅南口に待ち合わせで! ずっと待ってるから絶対来てね!」
紗奈「え、ちょ、待ってください! 私はまだ……」
南沢、屋上から去る。
紗奈「(大声で)私、行きませんよー!」
○住宅街・下校中(放課後)
紗奈M「はぁ〜、南沢先輩の連絡先も知らないから断れないし、本当に勝手な人」
紗奈、げんなりした顔で歩く。
紗奈「(閃いた顔で)よし!明日、待ち合わせ場所まで行って直接断ろう!」
紗奈、公園の横を通る。
○(回想)屋上(昼休み)
南沢「紗奈ちゃんは、結婚する気ないって言うけど、結婚しないその先のことも考えたことあるの?」
(回想終わり)
○公園
小さい子を膝に乗せて、ブランコに一緒に乗っている母親。ベンチで仲良く手を繋ぎ、談笑している老夫婦。
紗奈、路上で立ち止まってその様子を無表情でしばらく眺める。
男の子の声「すみませーん!」
紗奈、ハッとして我に帰った表情。
男の子「すみませーん! 取ってくれますかー!」
男の子が、路上の方向へ転がっていくサッカーボールを追いかけて、こちらに走ってくる。
紗奈、ボールを取って男の子に渡す。
男の子「ありがとうございます!」
男の子、公園に戻って行く。遠くで男の子の父親らしき人が、紗奈に会釈をしている。紗奈も会釈をする。
男の子と父親でまたサッカーをはじめている。
南沢の声(回想)「もちろん、結婚は幸せと直結するものではないし、結婚をしない幸せな人生もたくさんある。けど、最初から否定しなくてもいいんじゃない?」
紗奈「私はどうしたいんだろう……」
○桜本駅・南口
紗奈、ワンピースを着て待ち合わせ場所に行くと、すでに南沢が待っている。
南沢、紗奈の姿を見て、表情が輝く。
南沢「ワンピース姿も可愛い!」
紗奈、顔を赤くする。
紗奈「今日、どこに行くんですか?」
南沢「きっと紗奈ちゃんが気に入るところ!」
○動物園
動物園の入り口の前に立つ2人。
紗奈「動物園?」
南沢「うん、動物園! 行こっ!」
南沢、チケット売り場へ寄らず、入場門へ向かう。
紗奈「先輩、チケット!」
南沢、振り返る。
南沢「もう昨日に2人分、オンラインチケット買ってる」
紗奈「私が来なかったらどうするつもりだったんですか?」
南沢「でも来たでしょ?」
南沢、ニカッと笑う。
× × ×
時間経過。
紗奈「わぁ〜! おっきーい! かわいいー!」
目の前のキリンに見惚れる紗奈。
南沢「やっぱ、大きいと主役感あるよな」
× × ×
時間経過。
モルモットの触れ合いコーナー。
モルモットを膝の上に乗せている紗奈。
紗奈「(泣きそうな顔で)可愛い〜! お利口さんだねぇ。はぁ〜、癒される〜」
南沢、モルモットは見ずに、紗奈の顔に見惚れている。
南沢「(紗奈に向かって)可愛い。連れて帰りたい」
紗奈「ですよね〜! 一緒に寝たいなぁ」
南沢「(紗奈を見ながら)俺も〜」
紗奈「先輩って動物好きなんですね! ふふ」
南沢「ん? う、うん」
南沢、ニコッと笑う。
× × ×
時間経過。
ゴリラの前を通る紗奈と南沢。
紗奈「あ、ゴリラだ! 凛々しいー! なんか、このゴリラすごくイケメン!」
南沢「確かに! シュッとしててカッコいい」
ゴリラ、ウンチを投げる。
紗奈、南沢「わぁ〜!!!」
紗奈と南沢、顔を見合わせて大笑いする。
○動物園・売店前
軽食が売っている売店の前に、テーブル席がたくさん用意されている。
紗奈、1人で椅子に座っている。
紗奈、スマートフォンの中に入っている今日の写真を見返す。モルモットを触る南沢、遠近法で象を手のひらに乗せる南沢、ゴリラとのツーショットで半目の南沢の写真。
紗奈、吹き出して笑う。
南沢「なに笑ってるのー?」
南沢、2人分の焼きそばを持って戻ってくる。
紗奈「ありがとうございます」
紗奈、半目の南川が映った写真を見せる。
南沢「うわっ! 半目じゃんよー!」
紗奈「いい写真」
南沢、わざとらしく紗奈を睨む。
南沢「まっ、いいけど! 食べようぜ!」
焼きそばを食べ始める2人。
紗奈「はぁ〜、本当に楽しかったな〜」
南沢「それは良かった。……ねぇ、なんで今日来てくれたの?」
紗奈「昨日、先輩言いましたよね? 結婚しないその先のことも考えたことあるのって」
南沢「うん」
紗奈「色々考えてみたんです。もちろん仕事を楽しくしているのかもしれないし、新しい友達ができて、旅行とかを満喫しているのかもしれない。だけどなんか、ふと、ずっと1人なのかなって思ったら不安になって、どうしたいのかよく分からなくなってしまったんです」
南沢「うん」
紗奈「ほんと、先輩の言う通りだなぁって思って。最初から選択肢を狭めるんじゃなくて、色々経験してみた上で、決めればいいことだなぁって」
南沢「そっか」
紗奈「……ありがとうございます」
南沢「俺も嬉しい。今日、紗奈ちゃんが来てくれて」
紗奈「好きとか付き合うとか、よく分からないんですけど、1週間よろしくお願いします」
南沢「こちらこそ」
紗奈と南沢、笑い合う。
× × ×
時間経過。
動物がいるエリアを抜けた、芝生に挟まれた通路を歩いている紗奈と南沢。
紗奈「そういえば、待ち合わせした時に、私が気にいるところって言ってましたけど、なんで動物が好きって知ってたんですか?」
南沢「動物を見せたかったわけじゃないんだ」
紗奈「え?」
道のりに沿って歩いて行く紗奈と南沢。前に進むと、一面にケイトウの花畑が広がっている。
紗奈「わぁー!!」
紗奈、キラキラした笑顔で花畑を見つめる。
紗奈「ケイトウ……」
南沢「うん」
○(回想)学校・花壇
南沢「なんの花が好きなの?」
紗奈「今の季節ならケイトウも素敵だなぁ。唯一無二の形してて好きなんです」
(回想終わり)
紗奈「覚えててくれたんですね」
南沢、ニカッと笑う。
南沢「きれいだな、ケイトウって」
紗奈「はい、大好きです」
南沢「(紗奈を見ながら)俺も!」
紗奈「いやっ、私は今、ケイトウが大好きですって言ったんですよ!」
南沢「照れるな照れるな!」
紗奈「照れてません!」
綺麗な花畑。
○紗奈の自宅・紗奈の部屋(夜)
紗奈、部屋着姿でベッドに横になっている。
「ピロン」スマートフォンにメッセージが届いた音。
紗奈、スマートフォンを見る。
スマートフォンの画面「(南沢)今日はありがとう! すっげー楽しかった! お試し期間の1週間、放課後デート付き合ってくれない?」
紗奈、スマートフォンから目を逸らし、ベッドで仰向けになって天井を眺める。
紗奈「1週間か……」
○学校・体育館
紗奈と恵、体操服を着て、他のグループがバレーボールをしている姿をコート外で見学している。
紗奈「熱大変だったね」
恵「でも、3日で治ったから良かったよ。 それよりも3日間ごめんね? 私たちってお互い、仲良い子クラスにいないから」
恵、苦笑いする。
紗奈「ううん、大丈夫だったよ! お昼は南沢先輩が3日間一緒に食べてくれたし」
恵「(驚いた顔で)南沢先輩!? あのサッカー部のキャプテンだった!? なんで!? 知り合いだったの!? どういう流れ!?」
紗奈「先輩って、サッカー部のキャプテンだったんだ……。ちょっと前から顔見知りだったんだけど、たまたまお昼に屋上で会って、一緒に食べてくれることになったの。それでね……」
恵「うん」
紗奈「あの……、1週間お試しで付き合うことになった」
紗奈、バツが悪そうな顔をする。
恵「ごめん、さっきから1つも話が入ってこない!」
× × ×
時間経過。
恵「なるほどねぇ」
紗奈「うん。それで、その期限が今週の金曜日なの」
恵「紗奈は青山くんと付き合うと思ってたよ」
紗奈「いや、まだ南沢先輩とも正式には付き合ってないんだけどね。壮平は家族よりも大切だからこそ、今の関係を守りたいの。絶対に失いたくない」
恵「そっかぁ。まぁ、恋愛に手を出そうとしなかった紗奈が一歩踏み出せたんだから、進歩だよね。私は相手が誰でも応援するよ」
紗奈「ありがとう」
○学校・校門(放課後)
紗奈、校門前で待っている。
南沢「お待たせー」
南沢、紗奈の頭をポンポンする。
紗奈「ちょっ、学校なんで」
紗奈、顔が赤くなる。
南沢「行きますか!」
南沢、紗奈の手を握って歩き出す。
紗奈「ちょっと……」
紗奈、顔を赤くする。
○スポーツ施設
ボーリング、卓球、バスケットボールなどができる広いスポーツ施設。
紗奈と南沢、卓球勝負をしている。ラリーが続く。
南沢、スマッシュを決め、点を取る。
紗奈「あ〜、悔しい!」
南沢「紗奈ちゃん意外と卓球上手だね」
紗奈「意外ってなんですか! 私中学の時はバスケ部だったんですよ! いつも運動神経悪く見られがちなんですけど、50メートル走だって女子で7秒台だし、球技も水泳も人並み以上に出来るんですよ!」
紗奈、頬を膨らませる。
南沢「悪い悪い。俺が悪かったって! なぁ、この勝負買った方が、負けた方にお願い事聞いてもらえるっていうのどう?」
紗奈「うーん。私勝つので、いいですよ!」
ラリーが続く。
× × ×
時間経過。
紗奈「はぁ、はぁ、はぁ」
南沢「はぁ、はぁ、はぁ」
紗奈と南沢、息遣いが荒い。
(2人同時に)
紗奈、膝から崩れ落ちる。
南沢、ガッツポーズをしながら、
南沢「よっしゃー!!」
南沢「さてと、何にしようかな〜」
紗奈「出来る範囲のことしか出来ませんからね!」
南沢、考え込む。
南沢「俺にキスしてよ!」
ニコニコしながらお弁当を食べる紗奈。
紗奈の両隣で不機嫌そうに紗奈の手作り弁当を食べる、南沢と壮平。
紗奈「やっぱり、天気がいい日に外で食べると美味しいですね」
南沢「なんでお前がいるんだよ」
南沢、壮平を睨みつける。
壮平「なんで紗奈と飯食ってんすか」
壮平、南沢を睨み返す。
南沢「てゆーか、なんでお前まで紗奈ちゃんに弁当作ってもらってんだよ」
壮平「言っとくけど、紗奈の弁当食うのは、全然俺にしたら特別なことじゃないし、日常なんで。昨日も俺の部屋で一緒に勉強してたし、俺のベッドで寝落ちしてることもよくあるんで!」
南沢「ふーん。じゃあ、壮平は紗奈ちゃんにとって特別な存在じゃなくて、兄弟みたいな存在ってことなんだねぇ。そっか、そっかぁ。ナカヨシデ、ウラヤマシー」
南沢、嫌味っぽく棒読みで羨ましがる。
壮平「……っ!」
壮平、言い返す言葉がなくて、鬼の形相で南沢を睨む。
紗奈「そうなんです! (壮平に向かって)壮平とは物心つく前から一緒だから、お互いなんでも知ってるんだよね〜。良くも悪くも!」
紗奈、ニヤリとする。
壮平「紗奈っ、お前まで! あれは言うなよ!」
紗奈「うふふ」
南沢「なになに、紗奈ちゃん」
壮平「言うな!」
南沢「教えて教えて〜」
ガヤガヤする3人。
「ガチャッ」屋上の扉が開く。
女子生徒C「(呆れた顔で)青山くん、いたいたー! 探したんだから! 保健委員の集まり始まるから行くよー!」
壮平と同じクラスの女子生徒が壮平を呼びにくる。
壮平「あ、わりぃ」
壮平、女子生徒に謝る。
壮平、紗奈と南沢のペアを見る。眉間に皺を寄せて頭を掻きながら、
壮平「あ〜!! 先輩、変なことしたら許さないんで」
壮平、唇を噛みながら女子生徒と屋上を去る。
騒がしかった壮平が去り、静かになる空間。
南沢「行っちゃったね」
紗奈「はい」
南沢「なんかあいつって、台風みたいな奴だな」
紗奈「確かに」
紗奈、大笑いする。
紗奈「あ、そうだ! 友達、熱が下がって来週の月曜から来られるみたいです! 3日間お弁当付き合ってくれて、ありがとうございました」
紗奈、ペコリと会釈する。
南沢「え!? まじかー。寂しいな〜」
2人の間に沈黙が流れる。
南沢「てか、弁当めっちゃ美味しい! この卵焼きの味付け好きだし、なんかおかずが女子の弁当で、新鮮」
紗奈「喜んでもらえて良かったです」
南沢「将来良いお嫁さんになりそう」
紗奈「あー、私、結婚は考えていないので、どうかなぁ〜」
紗奈、苦笑いをする。
南沢「結婚、考えてないの?」
紗奈「はい。なんか、一生誰かに愛されるとか、愛するとか、私にはできる気がしないので」
南沢「まぁ、そんな深いとこまで考えないで、勢いで結婚しちゃってる人も世の中多いと思うけど? 結婚前からそんなに長い目で結婚生活を冷静に見れてる時点で、逆に上手くいきそうだけどねぇ」
紗奈「ありがとうございます。……先輩って本当は優しい人ですよね。いつも、心が軽くなる言葉をくれます」
南沢「俺、紗奈ちゃんが好き」
紗奈「(笑いながら)ふふふ。顔面が?」
南沢「全部?」
紗奈「も〜、軽いですよ。先輩!」
南沢「俺と付き合おう」
紗奈「……え?」
南沢「俺の軽さが紗奈ちゃんには合ってると思うんだけど」
紗奈「本当に言ってます?」
南沢「うん、ガチ」
紗奈「……ごめんなさい。私、誰かと付き合うとかそんな、考えたことなくて……」
紗奈、目を逸らして俯く。
南沢「紗奈ちゃんは、結婚する気ないって言うけど、結婚しないその先のことも考えたことあるの? もちろん、結婚は幸せと直結するものではないし、結婚をしない幸せな人生もたくさんある。けど、最初から否定しなくてもいいんじゃない?」
紗奈「……えーっと、これは、結婚を前提にお付き合いしようというお話ですか?」
紗奈、困惑した表情。
南沢「違う違う! むしろその逆! 軽い気持ちでまずは男と付き合うことからはじめてみない?って話!」
紗奈「でも私、南沢先輩のこと、男の人としては好きじゃないです」
南沢「だから、いいんじゃん! 俺も好きなのは紗奈ちゃんの顔だし、紗奈ちゃんは俺のこと好きでもないし、最初から割り切った関係なら、傷つくこともないと思うんだよね」
紗奈「うーん」
南沢「とりあえずさ、1週間お試しで付き合おうよ! 1週間後、紗奈ちゃんが別れたかったら別れればいいし!」
紗奈「お試し?」
南沢「うん、お試し! じゃあ明日11:00に桜本駅南口に待ち合わせで! ずっと待ってるから絶対来てね!」
紗奈「え、ちょ、待ってください! 私はまだ……」
南沢、屋上から去る。
紗奈「(大声で)私、行きませんよー!」
○住宅街・下校中(放課後)
紗奈M「はぁ〜、南沢先輩の連絡先も知らないから断れないし、本当に勝手な人」
紗奈、げんなりした顔で歩く。
紗奈「(閃いた顔で)よし!明日、待ち合わせ場所まで行って直接断ろう!」
紗奈、公園の横を通る。
○(回想)屋上(昼休み)
南沢「紗奈ちゃんは、結婚する気ないって言うけど、結婚しないその先のことも考えたことあるの?」
(回想終わり)
○公園
小さい子を膝に乗せて、ブランコに一緒に乗っている母親。ベンチで仲良く手を繋ぎ、談笑している老夫婦。
紗奈、路上で立ち止まってその様子を無表情でしばらく眺める。
男の子の声「すみませーん!」
紗奈、ハッとして我に帰った表情。
男の子「すみませーん! 取ってくれますかー!」
男の子が、路上の方向へ転がっていくサッカーボールを追いかけて、こちらに走ってくる。
紗奈、ボールを取って男の子に渡す。
男の子「ありがとうございます!」
男の子、公園に戻って行く。遠くで男の子の父親らしき人が、紗奈に会釈をしている。紗奈も会釈をする。
男の子と父親でまたサッカーをはじめている。
南沢の声(回想)「もちろん、結婚は幸せと直結するものではないし、結婚をしない幸せな人生もたくさんある。けど、最初から否定しなくてもいいんじゃない?」
紗奈「私はどうしたいんだろう……」
○桜本駅・南口
紗奈、ワンピースを着て待ち合わせ場所に行くと、すでに南沢が待っている。
南沢、紗奈の姿を見て、表情が輝く。
南沢「ワンピース姿も可愛い!」
紗奈、顔を赤くする。
紗奈「今日、どこに行くんですか?」
南沢「きっと紗奈ちゃんが気に入るところ!」
○動物園
動物園の入り口の前に立つ2人。
紗奈「動物園?」
南沢「うん、動物園! 行こっ!」
南沢、チケット売り場へ寄らず、入場門へ向かう。
紗奈「先輩、チケット!」
南沢、振り返る。
南沢「もう昨日に2人分、オンラインチケット買ってる」
紗奈「私が来なかったらどうするつもりだったんですか?」
南沢「でも来たでしょ?」
南沢、ニカッと笑う。
× × ×
時間経過。
紗奈「わぁ〜! おっきーい! かわいいー!」
目の前のキリンに見惚れる紗奈。
南沢「やっぱ、大きいと主役感あるよな」
× × ×
時間経過。
モルモットの触れ合いコーナー。
モルモットを膝の上に乗せている紗奈。
紗奈「(泣きそうな顔で)可愛い〜! お利口さんだねぇ。はぁ〜、癒される〜」
南沢、モルモットは見ずに、紗奈の顔に見惚れている。
南沢「(紗奈に向かって)可愛い。連れて帰りたい」
紗奈「ですよね〜! 一緒に寝たいなぁ」
南沢「(紗奈を見ながら)俺も〜」
紗奈「先輩って動物好きなんですね! ふふ」
南沢「ん? う、うん」
南沢、ニコッと笑う。
× × ×
時間経過。
ゴリラの前を通る紗奈と南沢。
紗奈「あ、ゴリラだ! 凛々しいー! なんか、このゴリラすごくイケメン!」
南沢「確かに! シュッとしててカッコいい」
ゴリラ、ウンチを投げる。
紗奈、南沢「わぁ〜!!!」
紗奈と南沢、顔を見合わせて大笑いする。
○動物園・売店前
軽食が売っている売店の前に、テーブル席がたくさん用意されている。
紗奈、1人で椅子に座っている。
紗奈、スマートフォンの中に入っている今日の写真を見返す。モルモットを触る南沢、遠近法で象を手のひらに乗せる南沢、ゴリラとのツーショットで半目の南沢の写真。
紗奈、吹き出して笑う。
南沢「なに笑ってるのー?」
南沢、2人分の焼きそばを持って戻ってくる。
紗奈「ありがとうございます」
紗奈、半目の南川が映った写真を見せる。
南沢「うわっ! 半目じゃんよー!」
紗奈「いい写真」
南沢、わざとらしく紗奈を睨む。
南沢「まっ、いいけど! 食べようぜ!」
焼きそばを食べ始める2人。
紗奈「はぁ〜、本当に楽しかったな〜」
南沢「それは良かった。……ねぇ、なんで今日来てくれたの?」
紗奈「昨日、先輩言いましたよね? 結婚しないその先のことも考えたことあるのって」
南沢「うん」
紗奈「色々考えてみたんです。もちろん仕事を楽しくしているのかもしれないし、新しい友達ができて、旅行とかを満喫しているのかもしれない。だけどなんか、ふと、ずっと1人なのかなって思ったら不安になって、どうしたいのかよく分からなくなってしまったんです」
南沢「うん」
紗奈「ほんと、先輩の言う通りだなぁって思って。最初から選択肢を狭めるんじゃなくて、色々経験してみた上で、決めればいいことだなぁって」
南沢「そっか」
紗奈「……ありがとうございます」
南沢「俺も嬉しい。今日、紗奈ちゃんが来てくれて」
紗奈「好きとか付き合うとか、よく分からないんですけど、1週間よろしくお願いします」
南沢「こちらこそ」
紗奈と南沢、笑い合う。
× × ×
時間経過。
動物がいるエリアを抜けた、芝生に挟まれた通路を歩いている紗奈と南沢。
紗奈「そういえば、待ち合わせした時に、私が気にいるところって言ってましたけど、なんで動物が好きって知ってたんですか?」
南沢「動物を見せたかったわけじゃないんだ」
紗奈「え?」
道のりに沿って歩いて行く紗奈と南沢。前に進むと、一面にケイトウの花畑が広がっている。
紗奈「わぁー!!」
紗奈、キラキラした笑顔で花畑を見つめる。
紗奈「ケイトウ……」
南沢「うん」
○(回想)学校・花壇
南沢「なんの花が好きなの?」
紗奈「今の季節ならケイトウも素敵だなぁ。唯一無二の形してて好きなんです」
(回想終わり)
紗奈「覚えててくれたんですね」
南沢、ニカッと笑う。
南沢「きれいだな、ケイトウって」
紗奈「はい、大好きです」
南沢「(紗奈を見ながら)俺も!」
紗奈「いやっ、私は今、ケイトウが大好きですって言ったんですよ!」
南沢「照れるな照れるな!」
紗奈「照れてません!」
綺麗な花畑。
○紗奈の自宅・紗奈の部屋(夜)
紗奈、部屋着姿でベッドに横になっている。
「ピロン」スマートフォンにメッセージが届いた音。
紗奈、スマートフォンを見る。
スマートフォンの画面「(南沢)今日はありがとう! すっげー楽しかった! お試し期間の1週間、放課後デート付き合ってくれない?」
紗奈、スマートフォンから目を逸らし、ベッドで仰向けになって天井を眺める。
紗奈「1週間か……」
○学校・体育館
紗奈と恵、体操服を着て、他のグループがバレーボールをしている姿をコート外で見学している。
紗奈「熱大変だったね」
恵「でも、3日で治ったから良かったよ。 それよりも3日間ごめんね? 私たちってお互い、仲良い子クラスにいないから」
恵、苦笑いする。
紗奈「ううん、大丈夫だったよ! お昼は南沢先輩が3日間一緒に食べてくれたし」
恵「(驚いた顔で)南沢先輩!? あのサッカー部のキャプテンだった!? なんで!? 知り合いだったの!? どういう流れ!?」
紗奈「先輩って、サッカー部のキャプテンだったんだ……。ちょっと前から顔見知りだったんだけど、たまたまお昼に屋上で会って、一緒に食べてくれることになったの。それでね……」
恵「うん」
紗奈「あの……、1週間お試しで付き合うことになった」
紗奈、バツが悪そうな顔をする。
恵「ごめん、さっきから1つも話が入ってこない!」
× × ×
時間経過。
恵「なるほどねぇ」
紗奈「うん。それで、その期限が今週の金曜日なの」
恵「紗奈は青山くんと付き合うと思ってたよ」
紗奈「いや、まだ南沢先輩とも正式には付き合ってないんだけどね。壮平は家族よりも大切だからこそ、今の関係を守りたいの。絶対に失いたくない」
恵「そっかぁ。まぁ、恋愛に手を出そうとしなかった紗奈が一歩踏み出せたんだから、進歩だよね。私は相手が誰でも応援するよ」
紗奈「ありがとう」
○学校・校門(放課後)
紗奈、校門前で待っている。
南沢「お待たせー」
南沢、紗奈の頭をポンポンする。
紗奈「ちょっ、学校なんで」
紗奈、顔が赤くなる。
南沢「行きますか!」
南沢、紗奈の手を握って歩き出す。
紗奈「ちょっと……」
紗奈、顔を赤くする。
○スポーツ施設
ボーリング、卓球、バスケットボールなどができる広いスポーツ施設。
紗奈と南沢、卓球勝負をしている。ラリーが続く。
南沢、スマッシュを決め、点を取る。
紗奈「あ〜、悔しい!」
南沢「紗奈ちゃん意外と卓球上手だね」
紗奈「意外ってなんですか! 私中学の時はバスケ部だったんですよ! いつも運動神経悪く見られがちなんですけど、50メートル走だって女子で7秒台だし、球技も水泳も人並み以上に出来るんですよ!」
紗奈、頬を膨らませる。
南沢「悪い悪い。俺が悪かったって! なぁ、この勝負買った方が、負けた方にお願い事聞いてもらえるっていうのどう?」
紗奈「うーん。私勝つので、いいですよ!」
ラリーが続く。
× × ×
時間経過。
紗奈「はぁ、はぁ、はぁ」
南沢「はぁ、はぁ、はぁ」
紗奈と南沢、息遣いが荒い。
(2人同時に)
紗奈、膝から崩れ落ちる。
南沢、ガッツポーズをしながら、
南沢「よっしゃー!!」
南沢「さてと、何にしようかな〜」
紗奈「出来る範囲のことしか出来ませんからね!」
南沢、考え込む。
南沢「俺にキスしてよ!」
