永遠の愛なんて信じません!

○学校・屋上(昼休み)

ニコニコしながらお弁当を食べる紗奈。

紗奈の両隣で不機嫌そうに紗奈の手作り弁当を食べる、南沢と壮平。

紗奈「やっぱり、天気がいい日に外で食べると美味しいですね」

南沢「なんでお前がいるんだよ」

南沢、壮平を睨みつける。

壮平「なんで紗奈と飯食ってんすか」

壮平、南沢を睨み返す。

南沢「てゆーか、なんでお前まで紗奈ちゃんに弁当作ってもらってんだよ」

壮平「言っとくけど、紗奈の弁当食うのは、全然俺にしたら特別なことじゃないし、日常なんで。昨日も俺の部屋で一緒に勉強してたし、俺のベッドで寝落ちしてることもよくあるんで!」

南沢「ふーん。じゃあ、壮平は紗奈ちゃんにとって特別な存在じゃなくて、兄弟みたいな存在ってことなんだねぇ。そっか、そっかぁ。ナカヨシデ、ウラヤマシー」

南沢、嫌味っぽく棒読みで羨ましがる。

壮平「……っ!」

壮平、言い返す言葉がなくて、鬼の形相で南沢を睨む。

紗奈「そうなんです! (壮平に向かって)壮平とは物心つく前から一緒だから、お互いなんでも知ってるんだよね〜。良くも悪くも!」

紗奈、ニヤリとする。

壮平「紗奈っ、お前まで! あれは言うなよ!」

紗奈「うふふ」

南沢「なになに、紗奈ちゃん」

壮平「言うな!」

南沢「教えて教えて〜」

ガヤガヤする3人。

「ガチャッ」屋上の扉が開く。

女子生徒C「(呆れた顔で)青山くん、いたいたー! 探したんだから! 保健委員の集まり始まるから行くよー!」

壮平と同じクラスの女子生徒が壮平を呼びにくる。

壮平「あ、わりぃ」

壮平、女子生徒に謝る。

壮平、紗奈と南沢のペアを見る。眉間に皺を寄せて頭を掻きながら、

壮平「あ〜!! 先輩、変なことしたら許さないんで」

壮平、唇を噛みながら女子生徒と屋上を去る。

騒がしかった壮平が去り、静かになる空間。

南沢「行っちゃったね」

紗奈「はい」

南沢「なんかあいつって、台風みたいな奴だな」

紗奈「確かに」

紗奈、大笑いする。

紗奈「あ、そうだ! 友達、熱が下がって来週の月曜から来られるみたいです! 3日間お弁当付き合ってくれて、ありがとうございました」

紗奈、ペコリと会釈する。

南沢「え!? まじかー。寂しいな〜」

2人の間に沈黙が流れる。

南沢「てか、弁当めっちゃ美味しい! この卵焼きの味付け好きだし、なんかおかずが女子の弁当で、新鮮」

紗奈「喜んでもらえて良かったです」

南沢「将来良いお嫁さんになりそう」

紗奈「あー、私、結婚は考えていないので、どうかなぁ〜」

紗奈、苦笑いをする。

南沢「結婚、考えてないの?」

紗奈「はい。なんか、一生誰かに愛されるとか、愛するとか、私にはできる気がしないので」

南沢「まぁ、そんな深いとこまで考えないで、勢いで結婚しちゃってる人も世の中多いと思うけど? 結婚前からそんなに長い目で結婚生活を冷静に見れてる時点で、逆に上手くいきそうだけどねぇ」

紗奈「ありがとうございます。……先輩って本当は優しい人ですよね。いつも、心が軽くなる言葉をくれます」

南沢「俺、紗奈ちゃんが好き」

紗奈「(笑いながら)ふふふ。顔面が?」

南沢「全部?」

紗奈「も〜、軽いですよ。先輩!」

南沢「俺と付き合おう」

紗奈「……え?」

南沢「俺の軽さが紗奈ちゃんには合ってると思うんだけど」

紗奈「本当に言ってます?」

南沢「うん、ガチ」

紗奈「……ごめんなさい。私、誰かと付き合うとかそんな、考えたことなくて……」

紗奈、目を逸らして俯く。

南沢「紗奈ちゃんは、結婚する気ないって言うけど、結婚しないその先のことも考えたことあるの? もちろん、結婚は幸せと直結するものではないし、結婚をしない幸せな人生もたくさんある。けど、最初から否定しなくてもいいんじゃない?」

紗奈「……えーっと、これは、結婚を前提にお付き合いしようというお話ですか?」

紗奈、困惑した表情。

南沢「違う違う! むしろその逆! 軽い気持ちでまずは男と付き合うことからはじめてみない?って話!」

紗奈「でも私、南沢先輩のこと、男の人としては好きじゃないです」

南沢「だから、いいんじゃん! 俺も好きなのは紗奈ちゃんの顔だし、紗奈ちゃんは俺のこと好きでもないし、最初から割り切った関係なら、傷つくこともないと思うんだよね」

紗奈「うーん」

南沢「とりあえずさ、1週間お試しで付き合おうよ! 1週間後、紗奈ちゃんが別れたかったら別れればいいし!」

紗奈「お試し?」

南沢「うん、お試し! じゃあ明日11:00に桜本駅南口に待ち合わせで! ずっと待ってるから絶対来てね!」

紗奈「え、ちょ、待ってください! 私はまだ……」

南沢、屋上から去る。

紗奈「(大声で)私、行きませんよー!」

○住宅街・下校中(放課後)

紗奈M「はぁ〜、南沢先輩の連絡先も知らないから断れないし、本当に勝手な人」

紗奈、げんなりした顔で歩く。

紗奈「(閃いた顔で)よし!明日、待ち合わせ場所まで行って直接断ろう!」

紗奈、公園の横を通る。

○(回想)屋上(昼休み)

南沢「紗奈ちゃんは、結婚する気ないって言うけど、結婚しないその先のことも考えたことあるの?」

(回想終わり)

○公園

小さい子を膝に乗せて、ブランコに一緒に乗っている母親。ベンチで仲良く手を繋ぎ、談笑している老夫婦。

紗奈、路上で立ち止まってその様子を無表情でしばらく眺める。

男の子の声「すみませーん!」

紗奈、ハッとして我に帰った表情。

男の子「すみませーん! 取ってくれますかー!」

男の子が、路上の方向へ転がっていくサッカーボールを追いかけて、こちらに走ってくる。

紗奈、ボールを取って男の子に渡す。

男の子「ありがとうございます!」

男の子、公園に戻って行く。遠くで男の子の父親らしき人が、紗奈に会釈をしている。紗奈も会釈をする。

男の子と父親でまたサッカーをはじめている。

南沢の声(回想)「もちろん、結婚は幸せと直結するものではないし、結婚をしない幸せな人生もたくさんある。けど、最初から否定しなくてもいいんじゃない?」

紗奈「私はどうしたいんだろう……」

○桜本駅・南口

紗奈、ワンピースを着て待ち合わせ場所に行くと、すでに南沢が待っている。

南沢、紗奈の姿を見て、表情が輝く。

南沢「ワンピース姿も可愛い!」

紗奈、顔を赤くする。

紗奈「今日、どこに行くんですか?」

南沢「きっと紗奈ちゃんが気に入るところ!」

○動物園

動物園の入り口の前に立つ2人。

紗奈「動物園?」

南沢「うん、動物園! 行こっ!」

南沢、チケット売り場へ寄らず、入場門へ向かう。

紗奈「先輩、チケット!」

南沢、振り返る。

南沢「もう昨日に2人分、オンラインチケット買ってる」

紗奈「私が来なかったらどうするつもりだったんですか?」

南沢「でも来たでしょ?」

南沢、ニカッと笑う。

×  ×  ×
時間経過。

紗奈「わぁ〜! おっきーい! かわいいー!」

目の前のキリンに見惚れる紗奈。

南沢「やっぱ、大きいと主役感あるよな」

×  ×  ×
時間経過。

モルモットの触れ合いコーナー。
モルモットを膝の上に乗せている紗奈。

紗奈「(泣きそうな顔で)可愛い〜! お利口さんだねぇ。はぁ〜、癒される〜」

南沢、モルモットは見ずに、紗奈の顔に見惚れている。

南沢「(紗奈に向かって)可愛い。連れて帰りたい」

紗奈「ですよね〜! 一緒に寝たいなぁ」

南沢「(紗奈を見ながら)俺も〜」

紗奈「先輩って動物好きなんですね! ふふ」

南沢「ん? う、うん」

南沢、ニコッと笑う。

×  ×  ×
時間経過。

ゴリラの前を通る紗奈と南沢。

紗奈「あ、ゴリラだ! 凛々しいー! なんか、このゴリラすごくイケメン!」

南沢「確かに! シュッとしててカッコいい」

ゴリラ、ウンチを投げる。

紗奈、南沢「わぁ〜!!!」

紗奈と南沢、顔を見合わせて大笑いする。

○動物園・売店前

軽食が売っている売店の前に、テーブル席がたくさん用意されている。
紗奈、1人で椅子に座っている。

紗奈、スマートフォンの中に入っている今日の写真を見返す。モルモットを触る南沢、遠近法で象を手のひらに乗せる南沢、ゴリラとのツーショットで半目の南沢の写真。
紗奈、吹き出して笑う。

南沢「なに笑ってるのー?」

南沢、2人分の焼きそばを持って戻ってくる。

紗奈「ありがとうございます」

紗奈、半目の南川が映った写真を見せる。

南沢「うわっ! 半目じゃんよー!」

紗奈「いい写真」

南沢、わざとらしく紗奈を睨む。

南沢「まっ、いいけど! 食べようぜ!」

焼きそばを食べ始める2人。

紗奈「はぁ〜、本当に楽しかったな〜」

南沢「それは良かった。……ねぇ、なんで今日来てくれたの?」

紗奈「昨日、先輩言いましたよね? 結婚しないその先のことも考えたことあるのって」

南沢「うん」

紗奈「色々考えてみたんです。もちろん仕事を楽しくしているのかもしれないし、新しい友達ができて、旅行とかを満喫しているのかもしれない。だけどなんか、ふと、ずっと1人なのかなって思ったら不安になって、どうしたいのかよく分からなくなってしまったんです」

南沢「うん」

紗奈「ほんと、先輩の言う通りだなぁって思って。最初から選択肢を狭めるんじゃなくて、色々経験してみた上で、決めればいいことだなぁって」

南沢「そっか」

紗奈「……ありがとうございます」

南沢「俺も嬉しい。今日、紗奈ちゃんが来てくれて」

紗奈「好きとか付き合うとか、よく分からないんですけど、1週間よろしくお願いします」

南沢「こちらこそ」

紗奈と南沢、笑い合う。

×  ×  ×
時間経過。

動物がいるエリアを抜けた、芝生に挟まれた通路を歩いている紗奈と南沢。

紗奈「そういえば、待ち合わせした時に、私が気にいるところって言ってましたけど、なんで動物が好きって知ってたんですか?」

南沢「動物を見せたかったわけじゃないんだ」

紗奈「え?」

道のりに沿って歩いて行く紗奈と南沢。前に進むと、一面にケイトウの花畑が広がっている。

紗奈「わぁー!!」

紗奈、キラキラした笑顔で花畑を見つめる。

紗奈「ケイトウ……」

南沢「うん」

○(回想)学校・花壇

南沢「なんの花が好きなの?」

紗奈「今の季節ならケイトウも素敵だなぁ。唯一無二の形してて好きなんです」

(回想終わり)

紗奈「覚えててくれたんですね」

南沢、ニカッと笑う。

南沢「きれいだな、ケイトウって」

紗奈「はい、大好きです」

南沢「(紗奈を見ながら)俺も!」

紗奈「いやっ、私は今、ケイトウが大好きですって言ったんですよ!」

南沢「照れるな照れるな!」

紗奈「照れてません!」

綺麗な花畑。

○紗奈の自宅・紗奈の部屋(夜)

紗奈、部屋着姿でベッドに横になっている。

「ピロン」スマートフォンにメッセージが届いた音。

紗奈、スマートフォンを見る。

スマートフォンの画面「(南沢)今日はありがとう! すっげー楽しかった! お試し期間の1週間、放課後デート付き合ってくれない?」

紗奈、スマートフォンから目を逸らし、ベッドで仰向けになって天井を眺める。

紗奈「1週間か……」

○学校・体育館

紗奈と恵、体操服を着て、他のグループがバレーボールをしている姿をコート外で見学している。

紗奈「熱大変だったね」

恵「でも、3日で治ったから良かったよ。 それよりも3日間ごめんね? 私たちってお互い、仲良い子クラスにいないから」

恵、苦笑いする。

紗奈「ううん、大丈夫だったよ! お昼は南沢先輩が3日間一緒に食べてくれたし」

恵「(驚いた顔で)南沢先輩!? あのサッカー部のキャプテンだった!? なんで!? 知り合いだったの!? どういう流れ!?」

紗奈「先輩って、サッカー部のキャプテンだったんだ……。ちょっと前から顔見知りだったんだけど、たまたまお昼に屋上で会って、一緒に食べてくれることになったの。それでね……」

恵「うん」

紗奈「あの……、1週間お試しで付き合うことになった」

紗奈、バツが悪そうな顔をする。

恵「ごめん、さっきから1つも話が入ってこない!」

×  ×  ×
時間経過。

恵「なるほどねぇ」

紗奈「うん。それで、その期限が今週の金曜日なの」

恵「紗奈は青山くんと付き合うと思ってたよ」

紗奈「いや、まだ南沢先輩とも正式には付き合ってないんだけどね。壮平は家族よりも大切だからこそ、今の関係を守りたいの。絶対に失いたくない」

恵「そっかぁ。まぁ、恋愛に手を出そうとしなかった紗奈が一歩踏み出せたんだから、進歩だよね。私は相手が誰でも応援するよ」

紗奈「ありがとう」

○学校・校門(放課後)

紗奈、校門前で待っている。

南沢「お待たせー」

南沢、紗奈の頭をポンポンする。

紗奈「ちょっ、学校なんで」

紗奈、顔が赤くなる。

南沢「行きますか!」

南沢、紗奈の手を握って歩き出す。

紗奈「ちょっと……」

紗奈、顔を赤くする。

○スポーツ施設

ボーリング、卓球、バスケットボールなどができる広いスポーツ施設。

紗奈と南沢、卓球勝負をしている。ラリーが続く。
南沢、スマッシュを決め、点を取る。

紗奈「あ〜、悔しい!」

南沢「紗奈ちゃん意外と卓球上手だね」

紗奈「意外ってなんですか! 私中学の時はバスケ部だったんですよ! いつも運動神経悪く見られがちなんですけど、50メートル走だって女子で7秒台だし、球技も水泳も人並み以上に出来るんですよ!」

紗奈、頬を膨らませる。

南沢「悪い悪い。俺が悪かったって! なぁ、この勝負買った方が、負けた方にお願い事聞いてもらえるっていうのどう?」

紗奈「うーん。私勝つので、いいですよ!」

ラリーが続く。

×  ×  ×
時間経過。

紗奈「はぁ、はぁ、はぁ」

南沢「はぁ、はぁ、はぁ」

紗奈と南沢、息遣いが荒い。

(2人同時に)
紗奈、膝から崩れ落ちる。
南沢、ガッツポーズをしながら、

南沢「よっしゃー!!」

南沢「さてと、何にしようかな〜」

紗奈「出来る範囲のことしか出来ませんからね!」

南沢、考え込む。

南沢「俺にキスしてよ!」