永遠の愛なんて信じません!

○公園(夕方)

紗奈と壮平、隣り合ったブランコにそれぞれが座っている。

壮平「これ」

壮平、コンビニで買っておいたホットココアを手渡す。

紗奈「ココアだ、ありがとう」

紗奈、静かに微笑む。

紗奈「急にバイト先に行っちゃってごめんね」

壮平「全然大丈夫」

紗奈「最近避けててごめんね」

壮平「全然大丈夫。待てるから」

紗奈「……」

紗奈、無言になる。

壮平、紗奈の顔を見つめて待つ。

紗奈、地面を見ながら、

紗奈「あのね、私、壮平からの告白、嬉しかったんだ」

壮平、紗奈を見つめる。

紗奈「壮平以上に安心する人はいないし、一緒にいると笑いすぎて辛いこととかも全部吹き飛んじゃう。家族以上に大切な人。だからこそ、今の関係が壊れるのが嫌なの」

壮平「……なんだ、そんなことかよ」

紗奈、壮平を見返す。

壮平「物心ついた時から、紗奈のことが好きだった。ダメなとこも含めて色んな紗奈を俺は知ってるから、今更心が離れるとか絶対ないし、紗奈を大切にできる自信が誰よりもある」

壮平、力強い目で紗奈を見つめる。

紗奈、俯いて地面を見つめている。

紗奈、顔を上げて壮平を見ながら、

紗奈「そんなことってなに? なんで絶対って言えるの? 絶対なんて存在しないよ」

壮平「俺を信じろ! 結婚しよう」

紗奈「今までのお父さんたちも、みんなそうだった。最初は優しくて、お母さんのことも私のこともたくさん愛してくれた……。でも、一緒に生活する中で、お父さんもお母さんも最初の頃とは性格が変わっちゃって。人って変わるものなんだ、言葉は単に道具であって、言葉自体は愛じゃないんだって思ったの。」

壮平「でも、俺は!」

紗奈「(食い気味に)もちろん、壮平が伝えてくれた言葉は、今の真っ直ぐな気持ちで、嘘が1つもないことは分かってるよ。分かってるんだけど、本当に本当に壮平だけは失いたくないから、そういう関係にはなれないの。壮平だからこそダメなの」

紗奈、困った笑顔で話す。

紗奈「ごめん、理解できないよね」

壮平「理解はできる。いや……、本当の意味では俺も理解できてないんだろうな。紗奈が17年間見てきて感じたものは、紗奈にしか分からないもんな」

紗奈、俯く。

壮平「それでも俺は、紗奈を一生大切にする自信がある。何回でも告白する」

紗奈「……壮平。あのね、私、自分にも自信がないんだ。ずっと人を愛せる自信もない。壮平のことも傷つけちゃうかもしれない。それが怖いの! この気持ちは壮平が待っても変わるものじゃないの! だから私に構わないで! ずっと幼馴染のままでいたいの! 分かって!」

考え込む壮平。

壮平「……幼馴染のままでいたいんだったら、また一緒に登校したり勉強しようぜ。いいだろ? 幼馴染なんだから」

壮平、不貞腐れた顔で話す。

紗奈「……壮平。うん。ありがとう」

○紗奈の自宅前(夜)

壮平「じゃあ、また明日からよろしく」

紗奈「うん、また明日」

紗奈、手を振って玄関のドアを開け、家の中に入る。

壮平「(独り言で)諦めねーからな」

○学校・廊下(休み時間)

紗奈と恵、体操着姿で体育館に向かっている。

向こうから壮平が複数の友達と歩いてくる。

壮平、通りすがりに

壮平「よう! 紗奈!」

紗奈、にっこり笑って手を振る。

壮平「(ニヤリと笑いながら)今日紗奈のお弁当つまみ食いしに行っていい?」

紗奈「だめー! お弁当とは別に家で作ってあげるから!」

紗奈、頬を膨らます。

紗奈たちと壮平たちがすれ違い、それぞれ逆方向に歩いている。

壮平の友達A「お前、もはや竹内さんと彼氏彼女の仲だろ!」

壮平の友達B「もう付き合ってたりして〜」

紗奈、後ろから声が聞こえて、気まずそうに俯いて歩く。

壮平「ちげーよ、ただの幼馴染!」

紗奈、ハッとして後ろを振り返る。

壮平も振り返り、紗奈の顔を見て、ニコッと笑う。

紗奈も小さく微笑む。

恵「紗奈と青山くん、仲直りしたの?」

紗奈「え、なんで仲が上手くいってないこと知ってるの?」

恵「だって、あんなに仲良かった2人が、修学旅行の自由行動の後から、全然喋んなくなっちゃったんだもん。(というより、紗奈が一方的に避けてた感があるけど)私と陽介も、結構責任感じてたのよ。自由行動で2人きりにさせちゃったから」

紗奈「ごめんごめん、余計な心配させちゃったね。もう大丈夫!」

恵「何があったか分からないけど、青山くんは大丈夫なの?」

紗奈「うん、納得してくれた!」

恵「……ふーん」

○紗奈の自宅・リビング(夕方)

帰宅してリビングに入る紗奈。

紗奈「ただいまー」

隆「おかえりなさいー!」

紗奈「あれ、隆さん、今日早いんですね」

隆「そうなんだよ、今日は取引先から直帰だったから、定時前だけどごまかして帰ってきちゃった」

紗奈「ははは! たまには早い日があってもいいじゃないですか」

隆「ありがとう。紗奈ちゃんに言われると、なんだか救われるなぁ。そうだ、ハンバーグ作ってみたんだけど、よかったらどうかな?」

紗奈「わーい、ハンバーグ大好きです! ありがとうございます。あ、じゃあ私、スープよそいますね!」

隆「ありがとう」

×  ×  ×
時間経過。

ダイニングテーブルに向かい合って座る紗奈と隆。

紗奈「(手を合わせて)いただきまーす! 嬉しいなぁ」

紗奈、一口食べる。顔面蒼白になる。

紗奈M「しょっ、しょっぱい……!」

隆、ハンバーグを食べずに、紗奈の感想をニコニコしながら待っている。

紗奈「(慌てた様子で)お、おいし〜! ご飯が進むなぁ!」

紗奈、白米を勢いよく口の中に入れる。

隆「紗奈ちゃんに、そんなにたくさん食べてもらえて嬉しいな。じゃあ、僕もいただきまーす」

隆、ハンバーグを口にする。顔面蒼白。急いで水を飲み込む。

隆「紗奈ちゃんごめん! まずいじゃないか!」

紗奈「全然全然!! 私味濃いの好きなんで、美味しいです!」

紗奈、作り笑いをする。

隆「いやぁ〜、ごめん! あ、今からお弁当屋さんのお弁当買ってくるよ!」

紗奈「いや、ほら、おいしいです!(一口食べる) ゴホゴホッ。(咳が出る)」

隆「ほら、咳出てる! ごめん!」

○紗奈の自宅・リビング(深夜)

紗奈の母と隆がダイニングテーブルに座っている。

隆「里奈ちゃん(←紗奈の母の名前)、……紗奈ちゃんって本当に良い子だよね」

紗奈の母「何急に」

紗奈の母、お茶を2人分の湯呑みに入れながら尋ねる。

隆「いや、今日、味見もせずにハンバーグを振る舞ったんだよ。それが実はすっごくまずいのに、笑顔で美味しいって言ってくれたの。紗奈ちゃん、やっぱり優しい子だなぁって改めて思ったんだけど、それと同時にすごく気を遣われてるなぁとも思って……。なんか切ない気持ちになっちゃって……」

○紗奈の自宅・紗奈の部屋(深夜)

真っ暗な部屋で引き戸を閉じている状態。紗奈、布団の中で横になっているが、目は開けていて、リビングの会話をこっそり聞いている。

紗奈の母の声「だって2ヶ月前までは他人だったのよ? 当たり前じゃない。それに、細かく言えば、私たち夫婦だって血は繋がっていないから、他人といえば他人よ」

紗奈、憂いのある顔。

○学校・教室・ホームルームの時間(朝)

先生が教壇に立ち、出欠確認をしている。

先生「え〜と、渡辺は発熱でお休みになります。最近感染症が流行ってきているから、みんなもしっかり手洗いうがいをするように!」

生徒たち「はーい」

紗奈、恵の座っていない隣の空席を見る。

○学校・教室(昼休み)

紗奈のスマートフォンの画面「(紗奈)大丈夫? ゆっくり休んでね、お大事にね!」に対して、「(恵)ありがとう。しばらく休むかも、ごめんね」

紗奈M「さてと、ぼっちお弁当か」

紗奈、周りを見渡す。

紗奈M「私、親しい友達、恵しかいないって、少なすぎるよね」

紗奈、苦笑いする。

紗奈M「そうだ、天気も良いし、せっかくだから外で食べよう! うんうん」

紗奈、1人で微笑む。

○学校・屋上(昼休み)

誰もいない静かな屋上。

紗奈、屋上の扉を開けて、屋上に出る。青空が広がっている。両腕を上に伸ばし、大きく伸びをする。

紗奈「気持ち〜い」

地べたに座り、お弁当を広げる。

紗奈「ピクニックみたいで楽しいな、恵とも今度しよ〜っと」

紗奈、ご満悦でお弁当を少しずつ、つついて食べている。

「ガチャッ」(屋上の扉が開く音)

紗奈M「誰だろう」

紗奈、扉を見つめる。

扉から南沢が出てくる。

紗奈「え!?」

紗奈の声に気付き、紗奈の方を向く南沢。

南沢「え、紗奈ちゃんだー! 何でここにいるの?」

紗奈「友達が熱でしばらくお休みで、ぼっちだし、天気もいいので……」

南沢「あぁ、その子以外、一緒に食べれるお友達いなかったのね」

南沢、憐れむ顔で紗奈を見る。

紗奈「別に、気の合う友達が1人いればそれでいいんです! あと、天気が良かったので外で食べたかっただけです!」

紗奈、汗をかきながら必死に説明する。

紗奈「南沢先輩こそ、なんでここにいるんですか? ぼっちですか?」

南沢「なんか、風に当たりながら寝たくて」

紗奈「よく分からないけど、寝るのが好きなんですね。初めて会った時も寝てましたもんね」

南沢「それは紗奈ちゃんもね。ねぇ、隣座っていい?」

紗奈「結構です! 寝に来たんですよね? どうぞ寝てください!」

南沢「え、紗奈ちゃんとお喋りして、紗奈ちゃんのこともっと知りたい」

紗奈、不審な顔をして、

紗奈「南沢先輩って、初めて会った時もそうですけど、なんで私に構うんですか?」

南沢「顔面が好きだから。とにかく顔がタイプ!」

紗奈、引いた顔で、

紗奈「うわ、露骨……」

南沢「だって、人間変わらないのは顔だけでしょ。気持ちや人格は変わるけど、顔は裏切らないもん!」

南沢、平然と話を続ける。

紗奈「……確かに! なんか初めて南沢先輩の言葉で響いたかもしれない」

南沢「え? 紗奈ちゃんに今の言葉が? なんかちょっと意外かも」

紗奈「そうですか? 私、きっと先輩が思ってるよりも薄情な人間ですよ?」

紗奈、切ない表情を浮かべてお弁当を見つめる。

南沢、紗奈の顔を見つめる。

南沢「いや、紗奈ちゃんは薄情じゃないよ。現実主義者なだけでしょ? 俺はそんな紗奈ちゃんが好きだけどなー」

紗奈「(ボソボソ言いながら)……ありがとうございます。なんか先輩って、適当な人なのか、物事を深く考える人なのか、よく分からない」

南沢「いいねいいね、俺のこと、どんどん気になってきた?」

紗奈「いえ」

紗奈、虚無の顔。

南沢「休みのお友達、明日も来れないの?」

紗奈「はい、多分」

南沢「それなら、その友達が治るまで、ここで一緒にお昼食べようよ。俺と話してたら暇つぶしになるよ」

○学校・屋上(昼休み)

テロップ「次の日」

紗奈、屋上の扉を開ける。

南沢、先に屋上の地べたにあぐらをかいて待っている。

×  ×  ×
時間経過。

紗奈、お弁当を広げている。南沢、購買で買った菓子パンを食べている。

南沢「(ニカッと笑って)やっぱり来てくれると思った!」

紗奈「昨日、楽しかったから……」

紗奈、少し照れて話す。

南沢「今日は素直じゃん!」

紗奈「多分、初めの出会い方が間違っていなければ、割とすぐ仲良くなれていたと思います」

紗奈、ムッとした顔で答える。

南沢「ごめん。ほんとに寝顔が天使みたいだったから。一目惚れしたんだ、顔面に」

紗奈「ははは! 顔面って! なんかずっと潔すぎて逆に気持ちいいです!」

南沢「俺、今の父ちゃん、血が繋がってなくて、母ちゃんの再婚相手なんだ。まぁ、悪い人ではないんだろうけど、なんか、馬が合わなくて。そうこうしてるうちに、俺の恋愛の信念は“浅く広く、そして顔面”になった」

紗奈、無言になる。

南沢「(ニヤリとしながら)嫌いになった?」

紗奈「うちも、親再婚してるんです。しかも4回目。今、学校では竹内紗奈ですけど、戸籍上は佐藤紗奈なんです」

南沢、驚いた顔をする。

紗奈「私のところの新しいお父さんはすっごく優しい人なんです。でも、3回もお父さんがいなくなっちゃったから、あんまり信じられなくて。だから、南沢先輩の気持ち、分かる気がします。それに、先輩はもう割り切ってて、私よりも考えが一歩先ですごいなぁって思います」

南沢、頭を掻きながら、

南沢「調子狂うなぁ。……あ、その卵焼き食べたい!」

紗奈「……食べます?」

南沢「いいの!?」

紗奈「普通の味ですけど、それでも良かったら」

南沢、手で卵焼きを掴み、口に入れる。

南沢「(目をキラキラさせながら)うめぇー!」

紗奈、照れ笑いする。

南沢「なぁ。明日、俺にお弁当作ってきてくれねえ?」

紗奈「いいですよ。1人分も2人分も手間は変わらないので!」

南沢「よっしゃー! 紗奈ちゃんの手料理食べられるー!」

南沢、叫ぶ。

紗奈「(微笑みながら)大袈裟です!」

○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)

ローテーブルを挟んで向かい合い、勉強をしている紗奈と壮平。

壮平「そういえば、渡辺、風邪こじらせてるんだって? 陽介から聞いた。 クラスで一緒にいれる友達いんの?」

壮平、ニヤニヤした表情。

紗奈「いないけど、平気だもん〜」

壮平「昼飯、一緒に食べるか?」

紗奈「あ、そういえば恵が学校に来るまで、南沢先輩と一緒にお弁当食べることになったよ!」

壮平「はぁ!? あんなことがあったのに!? 何考えてんだよ! 隙ありすぎだろ」

壮平、カッとなる。

紗奈「聞いて、壮平! 南沢先輩、話してみたら全然ちゃんとした人だったよ! 明日、お弁当も作って行くことになったし、全然仲良く過ごせてるから大丈夫!」

壮平「何が大丈夫だよ、良くねーよ! お弁当!? いらねーだろ!」

紗奈「(ニッコリしながら)心配してくれて、ありがとう。あ、そうだ。それだったら壮平も一緒にお昼食べる?」