永遠の愛なんて信じません!

○宿泊先・朝食会場・修学旅行2日目

紗奈と恵、向かい合った席に座って朝食を食べている。

紗奈「はぁ〜、今日の自由行動楽しみだね! 私、牡蠣食べたい!」

恵「(笑いながら)ご飯中に別のご飯のこと考えてるの?」

紗奈「うん、食べるの大好き! 恵は陽介くんとデート楽しみだね!」

恵「え、4人で一緒に回ろうよ」

紗奈「(ニヤニヤしながら)壮平が、陽介くんが恵と2人きりにしてくれって頼まれてるって言ってたよ」

恵「陽介のやつ〜。ごめん〜」

紗奈「(ニコニコしながら)いいって、いいって! 私も壮平とだから楽しいし! 夜、また一緒に楽しもうよ」

恵「ありがとう」

○宿泊先の駐車場

学年で集まり整列し、体育座りで先生の話を聞いている。

先生「今から自由行動になりますが、15:00までには必ずここに戻ってくるように! 時間は厳守ですよ!」

生徒たち「はーい」

×  ×  ×
時間経過。

恵と陽介が一緒にいる。

陽介「ありがとな、お言葉に甘えてデートさせてもらいます!」

恵「(手を合わせて謝るポーズをしながら)ほんとごめんねぇ」

紗奈「デート楽しんでね〜!」

紗奈の隣に壮平が立っている。

4人で手を振り合い、紗奈と壮平はお見送りをする。

壮平「さてと、俺たちもデートするか!」

紗奈「するー!」

×  ×  ×
時間経過。

○参道

紗奈「ここのソフトクリーム食べたーい!」

壮平「おう」

ソフトクリームを食べている紗奈。

紗奈「天気がいい日に外で食べるソフトクリームって美味しいよね」

壮平M「(微笑みながら)なんかバカっぽい発言」

満足げに食べている紗奈。

紗奈「はい、壮平もどうぞ」

紗奈、食べかけのソフトクリームを壮平の口元に近づける。

壮平、顔を少し赤くし困惑した顔をする。

壮平「ついてるぞ」

壮平、紗奈の口の端についていたソフトクリームを手のひらで雑に拭き取る。

紗奈「わっ、もっと優しく拭いてよ〜」

壮平、照れた表情で紗奈を眺める。

紗奈「あ、あそこに牡蠣のお店あるよ! 食べよ〜!」

壮平「(笑いながら)それ食べ終わってからにしろよ」

×  ×  ×
時間経過。

お店の席に向かい合って座り、牡蠣を食べる紗奈と壮介。

(2人同時に)
紗奈「おいし〜!」
壮平「うま〜!」

紗奈・壮平「やばいね!」

声がハモって2人で大笑いする。

紗奈「一粒が大きいよ! 見て! 私の鼻より大きい!」

紗奈、牡蠣を箸でつかんで自分の鼻の近くまで持ってくる。

壮平「(呆れた顔で)例えがおかしいだろ! 紗奈の鼻、そもそも大きくないし」

紗奈「あと10個食べれる!」

壮平「まだ他にも食べたいもんあるんなら、腹残しとけよ!」

紗奈「私、生しらす丼も食べたい!」

壮平「ほんと食いもんばっかだな!」

壮平、ニカっと笑う。

×  ×  ×
時間経過。

○海岸

人が少ない場所。紗奈と壮平、海岸に沿って砂浜を歩く。

紗奈「はぁ〜、お腹いっぱい!」

紗奈、お腹をポンポン叩いて満足げな顔。

壮平「しらす丼とお好み焼きも食べたもんな! THE炭水化物!」

紗奈「夜ご飯、食べれないかも〜」

壮平「夜ご飯のデザートにケーキ出るって言ってたぞ」

紗奈「うそ! それは食べる〜!」

壮平「食べる意欲が凄まじいな」

紗奈「へへ。……恵たちも今頃、楽しんでるかな」

壮平「あいつらのことだから、よろしくやってるだろ! ……俺、紗奈と2人で旅行できて本当に良かった。やっぱ、紗奈といるときが1番楽しい」

紗奈「私も楽しい。こんなに大笑いした1日、久しぶりかも。」

壮平「陽介たちに感謝だ」

紗奈「うん」

壮平「これ、あげる」

壮平、昨日の宿内の土産屋で一緒に見ていた可愛くない顔をした人参のマスコットのキーホルダーを渡す。

紗奈「ははは!」

紗奈、腹を抱えて笑う。

紗奈「ありがとう、いつ買ってくれたの? きっと、この子の顔見るたびに、今日の楽しかった日のことを思い出すよ」

紗奈と壮平、近くのベンチに座る。

壮平「……あのさ」

紗奈「うん」

壮平「ずっと好きだった」

紗奈「何が?」

壮平「紗奈のことが」

紗奈「へ?」

紗奈、キョトンとした表情で壮平を見る。

壮平「俺、紗奈のことが好きだ」

紗奈、一瞬戸惑った表情を見せるが、ごまかすように作り笑いをしながら、

紗奈「私も好きだよ! だって幼馴染じゃん!」

壮平、拳を握り、

壮平「紗奈。気づいてないフリすんの、やめろ」

紗奈、真顔で壮平を見つめる。

壮平「一生、紗奈の隣にいたい。大切にする。だから……」

紗奈「ごめん」

紗奈、悲しそうな表情でうつむく。

紗奈「壮平とは、そういう関係になりたくない」

壮平「俺は諦めない。紗奈が振り向いてくれるまで想い続ける」

紗奈「壮平はモテるし、時間がもったいないよ……」

壮平「こんなに紗奈のこと好きなのは俺しかいないし、幸せにする自信がある。お願いだから、俺とちゃんと向き合ってくれよ」

壮平、切ない表情を浮かべる。

紗奈「……」

「ザザーン」波の音が聞こえる。

壮平「もう14:30だ。集合場所に戻るか」

紗奈「うん」

○宿泊先・夕食会場

紗奈と恵、向き合って夕食を食べている。

恵「今日はありがとうね! 紗奈たちのおかげで本当に楽しかったよ! 牡蠣食べれた?」

紗奈「……」

紗奈、ご飯が進まず元気がない様子。

恵「紗奈、大丈夫? 食欲ない?」

紗奈「……」

うつろな紗奈。

恵「青山くんと何かあったの?」

紗奈、ハッとする。

紗奈「ううん、何にもないよ! 私もすっごく楽しかった! 牡蠣もソフトクリームもしらす丼もお好み焼きも、食べたいもの全部食べられたよ!」

空元気な紗奈を心配そうに見つめる恵。

恵「とにかく食べたいって意気込んでたもんね」

紗奈「うん。だからちょっと今、食欲ないかも」

恵「そっかそっか。無理しないのが1番だね」

恵、心配そうに紗奈を見つめる。

○地元の大きな駅(帰路)・3日目

学年で集合し、整列している。先生が前に立って話している。

先生「えーと、ここで解散になりますが、疲れも溜まっていると思うので、寄り道せず各自お家に帰ってください。お家に着くまでが旅行ですからね」

生徒たち「はーい」

紗奈、ぼーっとしながら立っている。

壮平、紗奈の後ろ姿を、遠くの後ろから眺めている。

×  ×  ×
時間経過。

各々が解散し始める。

壮平「紗奈!」

紗奈、後ろを振り返ると壮平が立っている。

壮平「一緒に帰ろうぜ」

紗奈「(無理に笑顔を作りながら)ごめん、ちょっと駅で寄りたいところあるから、先に帰ってて」

壮平「(真剣な顔で)避けてる?」

紗奈「ううん、お買い物して帰りたいだけだから。ごめん、またね」

紗奈、去っていく。

壮平、納得のいかない様子で後ろ姿を見つめる。

○カフェ

窓際の2人掛けテーブル席に座って、ホットココアを飲んでいる紗奈。

紗奈、マグカップを持ち、浮かない顔をしている。

○(回想)砂浜・修学旅行

壮平「俺、紗奈のことが好きだ」

壮平「一生、紗奈の隣にいたい。大切にする」

壮平「俺は諦めない。紗奈が振り向いてくれるまで想い続ける」

(回想終わり)

紗奈M「嬉しかった。壮平の真っ直ぐな気持ちは本当に痛いほど伝わってきた。でも、それ以上に私は、壮平とこの関係がいつか壊れることの方が怖い。誓った愛が、脆くて永遠には続かないことを身をもって知っているから」

×  ×  ×
(フラッシュ)
母親と元父親が大喧嘩している様子。
元父親が大きな荷物を持って出て行く様子。
母親が泣き崩れている様子。
それを悲しい顔で見ている幼い頃の紗奈。
×  ×  ×

紗奈M「そんな終わり方を迎えて大切な壮平を失うくらいなら、最初から愛を誓わない方がいい」

紗奈、手元のココアを一口飲む。

南沢の声「紗奈ちゃん」

紗奈、声がした方を見上げる。

ニコニコした笑顔の南沢。

紗奈「南沢先輩! なんでここに……」

南沢、紗奈の向かいの空いている席に座る。

紗奈M「座るんだ……」

南沢「街歩いてて、たまたまこのカフェの前通ったら、今にも泣き出しそうな紗奈ちゃんがいたから、放っておけなくて」

紗奈「え! 私、そんな顔してました?」

南沢「(にっこりしながら)うん」

紗奈「恥ずかしー」

紗奈、顔を赤くする。

南沢「恥ずかしくないよ、泣きたい時は誰にだってあるさ」

紗奈「え、先輩でも泣きたい時あるんですか?」

南沢「あるよ、紗奈ちゃんに冷たくあしらわれた時とか」

紗奈、虚無の顔になる。

南沢「あ、でも俺Mだから、こうやって冷たくあしらわれるのも好きかも」

紗奈「(軽蔑した目で)やっぱり変な人。 変な人って言われません?」

南沢「調子戻ってきたじゃん、よかった」

南沢、くしゃっと笑う。

紗奈、頬を膨らまして怒る。

南沢「ま、何で悩んでるのかは知らないけど、きっと時が解決してくれるよ。何も考えず甘いもの食べるのが1番」

南沢、カフェで買った焼き菓子をポケットから取り出し、テーブルの上に置く。

南沢「それでも悩みが消えないなら、俺の胸の中においで!」

紗奈「はははっ」

紗奈、呆れて大笑いする。

南沢「じゃ! 暗くなる前に帰れよ!」

南沢、去ろうとするが、立ち止まって振り返り、

南沢「あ! そういえばあの時、キスしてないから。 安心して!」

南沢、ニヤリと笑って立ち去る。

紗奈M「いい人なのかどうなのか、掴めない人だなぁ。でも、心が少し軽くなった気がする」

紗奈、微笑む。

○紗奈の自宅前(登校前)

制服姿の壮平、紗奈の自宅のインターフォンを鳴らす。

「ピンポーン」

紗奈の母の声「は〜い」

玄関の扉が開き、紗奈の母が出る。

紗奈の母「あら、壮ちゃん! おはよう!」

壮平「いや、えっと……」

紗奈の母「紗奈? 紗奈なら朝早くに出て行ったわよ?」

壮平「(無表情で)そうですか……」

紗奈の母「あらやだ、あの子、壮ちゃんに連絡しないで先に出て行っちゃったの? ごめんねぇ〜」

壮平、会釈して立ち去ろうとする。

紗奈の母、心配そうな目で壮平を見る。

紗奈の母「あ、待って、壮ちゃん!」

壮平、振り返る。

○学校・教室(休み時間)

紗奈と恵、席に座って談笑している。

壮平「紗奈―!」

壮平、教室のドアから大きな声で呼んでいる。

紗奈、俯いて困った顔をする。

恵「青山くん、呼んでるよ?」

紗奈「うん」

紗奈、壮平の元へ向かう。

壮平「これ、紗奈の母ちゃんが紗奈に渡してって」

壮平、紗奈の水筒を手渡す。

紗奈「あ、忘れてたごめんね。わざわざ持ってきてくれてありがとう。それじゃあ」

紗奈、すぐに立ち去ろうとする。

壮平、紗奈の手首を掴む。

壮平「今日一緒帰ろ」

紗奈「今日委員会だからごめん」

壮平「終わるまで待ってる」

紗奈「(俯きがちに目を合わせないで)終わったら寄るところあるし……」

壮平「俺もついてく」

紗奈「いや、ちょっと、1人で見たいところがあって……」

壮平「じゃあ、用事終わったら家行っていい?」

紗奈「いや、模試に向けてしばらく1人で勉強した方がいいかなって思って……。あと、朝早く学校に行って勉強もしたいから、これからは別々に登校しよう! 勝手に決めてごめんね」

紗奈、壮平に背を向けて席に向かう。

壮平「紗奈!」

「キーンコーンカーンコーン」次の授業の始まりを知らせるチャイムが鳴る。

壮平「諦めないから」

壮平、紗奈を真剣な目で見つめてから立ち去る。

紗奈、悲しい表情をする。

その様子を心配そうに見つめる恵。

○学校の花壇(放課後)

紗奈と南沢、軍手をはめて花壇に花を植えている。

南沢「学校に花っているのかなー」

紗奈「花はストレスを軽減させる効果があるらしいですよ! あと、犯罪抑止に繋がるみたいで、とにかくメリットばっかりなんです!」

南沢「ふーん、委員会で花植える係にされたとき、あんなに嫌がってたのに、花は好きなんだ」

紗奈「それは、南沢先輩と2人でやるのが嫌だったんです! 花は他の人のことなんて気にもしないし……。ただ自分が美しく咲くために頑張っている佇まいが好きなんです」

南沢「え、めっちゃ哲学っぽい。花に対してこんな尊敬の念抱いている人と初めて会った。なんの花が好きなの?」

紗奈「全部の花が好きですけど、今の季節ならケイトウも素敵だなぁ。唯一無二の形してて好きなんです」

南沢「聞いといてごめんだけど、全然ビジュアルが思い浮かばないわ」

紗奈「聞かないでくださいよ!」

紗奈と南沢、笑い合う。

南沢「……別に何があったかは言わなくていいんだけどさ。この間の悩みは解決できた?」

紗奈「あー……。それがもう、どうしたらいいのか分からなくなっちゃって。相手のこと傷つけたくないのに、傷つけちゃって。でも、自分の想いは曲げられなくて」

南沢「その想いをそのまま伝えてみればいいんじゃない?」

紗奈「そのまま?」

南沢「うん、今の言葉そのまま。ちゃんと向き合った上で、それでも事が上手くいかなかったら、それはそれでいいんじゃない?」

紗奈「そっかぁ。そうですよね! 先輩、ありがとうございます!」

紗奈、満面の笑み。

南沢、紗奈の顔に見惚れる。

○コンビニ・壮平のバイト先(夕方)

壮平、レジを担当している。

紗奈、チョコをレジのカウンターに置く。

壮平、チョコをレジに通し、

壮平「110円になりま……」

壮平、目の前に紗奈がいて驚く。

壮平「待って! あと10分で終わるから! すぐ支度終わらせるから!」

壮平、食い気味に話す。

紗奈「うん。ゆっくりで大丈夫だよ、待ってる」

×  ×  ×
時間経過。

紗奈、イートインスペースで待っている。

○コンビニ・バックヤード(夕方)

壮平、コンビニの制服から学校の制服に着替えている。

壮平M「何の話をしにきた? 落ち着け、俺。焦んな!」

壮平、深呼吸する。

壮平M「とりあえず、急ぐな。紗奈の気持ちをちゃんと聞こう」

○コンビニ・イートインスペース(夕方)

他に誰もいないイートインスペースに座っている紗奈。

壮平「おまたせ、行こっか」

紗奈「うん」