永遠の愛なんて信じません!

○学校・教室(放課後)

暗い顔で席に座り、カバンを整理している紗奈。

紗奈M「はぁ。最近いい感じになってきたと思ったんだけどなぁ。なんか上手くいかないなぁ。……家族って難しい」

壮平「帰ろうぜ!」

ぼーっとしている紗奈。暗い紗奈の顔を見て、

壮平「なぁ、今日駅寄ってかねぇ?」

○駅・ゲームセンター(放課後)

ゲームセンター内を歩く壮平と紗奈。

紗奈「なんかゲームセンターなんて久しぶり」

壮平「だな。中学の頃、2人でクレーンゲームはまって、取れないのに諦めつかなくて無駄金使って、お互いの親にめっちゃ怒られたよな!」

紗奈「懐かしい! 次は取れるとか思っちゃうんだよね。もうクレーンゲームは懲りた」

壮平「あれやろうぜ!」

壮平、車のレースをテーマにしたゲームを指差す。

紗奈と壮平、それぞれ車の座席に座る。

「レディー、GO!」画面から音声が流れる。

紗奈「なに、なに!? もう始まるの!? 操作方法分からないよ!」

壮平「とりあえず、足元のやつ踏む!」

紗奈「え! ここ!?」

紗奈、足元を見る。

壮平「おい! 俺に衝突すんなよ!」

紗奈「え!? これ、壮平の車!?」

壮平「(笑いながら)おい俺ビリになったじゃねぇか!」

紗奈「え、なんか私の車、何もしてないのに急に早くなったんだけど! 怖い怖い! え!ゴール?」

紗奈の画面に、「1位」と表示される。

爆笑する壮平。

壮平「紗奈、運良すぎだろ!」

紗奈「なんで、なんで? 私全然何もしてないんだけど! 1位だけど、全然達成感ない!」

紗奈、顔をくしゃっとして笑う。

○カフェ(放課後)

テーブル席で向かい合って座る紗奈と壮平。

メロンソーダを飲む壮平とクレープを頬張る紗奈。

紗奈「大学生になったら、車の免許取りたいなぁ」

壮平「(ニヤリとしながら)あの運転で?」

紗奈「練習したらきっと大丈夫だもん! それに、さっきのレース、壮平に勝ってるもんね!」

壮平「奇跡的な1位だけどな! あー、さっきのレース、思い出すだけで面白れ〜」

紗奈「もういいから!」

紗奈、クレープを頬張る。

壮平「なんかまた家のことであったか?」

紗奈「え? ……やっぱり壮平に隠し事はできないねぇ。なんかさ、家族ってやっぱり難しいよね。大切なんだけど、たまに何もかも放り出して遠くに行きたくなっちゃう。私って薄情?」

壮平「ううん、素直なだけだろ? 俺さ、大学入ったらすぐに車の免許取るよ」

紗奈「え?」

壮平「もう18歳だし、高校卒業したらある程度俺らの自由だろ? 紗奈が遠くに行きたいって言ったら、どこまでも遠くに連れ出してやるよ! 隣に乗せて」

紗奈「……壮平〜。大好き」

壮平「(ドヤ顔で)知ってる」

紗奈「ふはは!」

笑い合う2人。

紗奈M「壮平は、こういう時にいつも心を軽くしてくれる。本当に本当に私は壮平のことが大好きだ。絶対に手放しちゃいけない人」

○紗奈の自宅前(放課後)

壮平「じゃ!」

紗奈「うん、また明日! 今日はありがとう」

紗奈、手を振って家に入る。

○紗奈の自宅・リビング

紗奈M「はぁ〜、楽しかった。切り替えて勉強勉強!」

○紗奈の自宅・紗奈の部屋

紗奈、部屋の扉を開ける。

部屋の扉の裏に隠れていた康二が飛び出し、紗奈を後ろから抱きしめる。

康二「紗奈ちゃん」

紗奈「……!?」

血の気が引く紗奈。

康二「紗奈ちゃん、俺のこと好きなんだって? 嬉しい。男の経験豊富って聞いたよ。色々すっ飛ばして仲良くなろう?」

紗奈M「何言ってるの? なんで康二さんが私の家に入ってるの? 何がどうなってるのか分からない」

康二、紗奈を乱暴にベッドに押し倒し、覆い被さる。

康二、瞳孔が開き異様な目をして紗奈を見つめる。

紗奈M「怖い、怖い、怖い」

紗奈、手足をジタバタさせて、壁に当たる。

康二「大人しくしてよ、やりづらいじゃん」

康二、紗奈の制服のブラウスの第3ボタンを外し始める。

紗奈「いや……」

紗奈、涙目になる。

康二「好きでしょ? こういうの」

康二、紗奈の口にキスをしようとする。

壮平「やめろ!」

紗奈の部屋のベランダに壮平がいる。

康二「は? 誰だよ、アイツ。邪魔すんなよ」

康二、ベランダ側のカーテンをしめる。

康二「紗奈ちゃん、続きしようぜ」

康二、再び紗奈にキスをしようとすると、

「ガシャン!」窓ガラスが割れる音。

植木鉢で窓ガラスを割った壮平が、腕を血だらけにしながら紗奈の部屋に入る。

怖気付く康二。腕から血を流しながら、無言で近づく壮平。

康二「な、なんだよ。こえーよ」

壮平、思い切り康二の顔面を殴る。

康二「痛っ……」

うずくまる康二。冷たい目で上から見下ろす壮平。

康二「か、帰るよ!」

康二、慌てて部屋から逃げ去る。

壮平の腕からポタポタと血が垂れている。

紗奈「壮平!!」

壮平の元に駆け寄る紗奈。

紗奈「(泣きながら)大変。早く止血しないと! 止血できるもの持ってくるね!」

壮平「紗奈! 怖かったな」

紗奈を抱きしめる壮平。

紗奈M「こんなに血が出てるのに、私の心配しないで」

紗奈「(泣きながら)私は大丈夫だから! 壮平の血を止めないと! そこに座って待ってて!」

息遣いが荒い壮平。

×  ×  ×
時間経過。

ベッドに座っている壮平と紗奈。紗奈、包帯を壮平の腕に巻き付けている。

壮平「もっと早く来れてたらな。ごめんな、紗奈……」

紗奈「壮平は早く来てくれたよ。ありがとう。腕こんなになっちゃってごめんね」

壮平「俺の腕なんてすぐ治るからなんてことない。それより紗奈が……」

壮平、唇を噛み、怒りの表情。

紗奈「私は大丈夫! キスもされてない!」

壮平「……俺が大丈夫じゃない」

壮平、康二に外された紗奈のブラウスの第3ボタンを閉じる。

壮平、紗奈の胸に顔をうずめ、抱きしめる。

壮平「……紗奈」

紗奈「壮平が、私のサインに気付いてすぐに飛んできてくれたから、何もされなかったんだよ。ありがとう」

○(回想)学校・教室(放課後)

紗奈「はは。今まで連れ子同士の再婚ってしたことなかったから、私もどう接すればいいのかよく分からないや。まぁ、1週間だし仲良くやるよ」

壮平「なんかあったらすぐ呼べよ。……あー、心配だー。そうだ! なんかあったらうちと繋がってる壁を思い切り3回叩け。すぐ飛んでくから!」

紗奈「ありがとう」

(回想終わり)

○紗奈の自宅・紗奈の部屋

壮平「まさかあの約束が役に立つとはな。あいつ、誰だよ。警察呼ぼう」

紗奈「待って、知り合いなの……。亮さんのお友達……」

壮平「友達だからって、犯罪は犯罪だろう」

紗奈「でも、確かめたいことがあるの」

壮平「確かめたいことってなんだよ……」

「ガチャン」家の玄関の扉が開く音。

警戒する2人。紗奈の部屋に近づく足音。

壮平「紗奈、ここにいろ」

壮平、ボールペンを持ってドアの近くまで歩く。

「ガチャ」紗奈の部屋の扉が開き、亮が現れる。

亮「君が邪魔するとは想定外だったな〜。あ〜あ、窓ガラスも割れちゃってる」

壮平「お前が仕組んだのか?」

亮「あぁ、そうだよ。康二が紗奈ちゃんのことえらく気に入ってたから、紗奈ちゃんも康二のこと好きって言ってたよ、男の経験豊富だから何しても喜ぶよって嘘ついて鍵渡したら、あいつもまじになっちゃって!」

亮、腹を抱えて笑う。

紗奈「(声を震わせ)……なんで?」

亮「紗奈ちゃんが嫌いだから!」

壮平「てめぇー!」

亮「良い子ちゃんぶっちゃってさ。本当は心にどろどろの感情抱えてるくせに、それを出さないで取り繕ってる姿に反吐が出るんだよね。そもそも、俺の両親が離婚した原因って、知ってる? 親父の不倫だよ? 母親はそこから病んじゃって、まともな生活も送れてないのに、自分だけ何事もなかったかのように幸せになろうとして、気持ち悪いんだよ。家の中なのにお互い気を遣いあってヘコヘコしちゃって、そんな家族ごっこしてて、あんたはそれで満足?」

紗奈、亮を見つめる。

壮平「お前なぁ、紗奈は関係ないだろ! お前の親父さんがどんなクズなのかは知らないけど、子どもは親についていくしかなくて、紗奈は必死に笑顔作って順応しようと頑張ってたんだぞ。紗奈の気持ちを踏みにじるな!」

亮「お前が分かった気になって、喋ってんじゃねーよ」

亮、壮平の胸ぐらを掴んで殴ろうとする。

隆「亮!!」

紗奈の部屋に仕事帰りの隆が現れる。

隆「(怒鳴りながら)お前、何してる!!」

壮平の胸ぐらを掴んでいる亮、割れた窓ガラス、血で汚れた床、涙目の紗奈を見る隆。

○紗奈の自宅・母親の部屋(夜)

ブランケットを羽織り、ベッドに腰掛ける紗奈。紗奈の母、その隣に座り、紗奈の背中を深刻な表情でさすっている。

紗奈の母「本当にごめん。お母さんが悪かった」

無言の紗奈。

紗奈の母「紗奈の部屋は窓ガラスの修理をしなきゃいけないから、しばらくお母さんの部屋で2人で寝よう。隆さんたちには、しばらくビジネスホテルに泊まってもらうことになったから。壮ちゃんの腕は、明日念の為私が病院に連れて行くわ。壮ちゃんに怪我をさせてしまって申し訳なかったけど、壮ちゃんがいてくれて本当に良かった」

紗奈の母、紗奈の顔を覗き込む。

紗奈の母「明日、学校休んでいいからね。お母さんもお仕事休んで一緒にお家にいるから」

終始無言の紗奈。

○紗奈の自宅・リビング(翌朝)

明るい太陽。

紗奈の母、台所で朝ごはんを作っている。

制服に着替えた紗奈、無言でリビングに現れる。

紗奈の母「おはよう」

無言の紗奈。

紗奈の母「今日、学校大丈夫なの? 無理しなくていいのよ」

紗奈、かばんを持って玄関に向かう。

紗奈の母「紗奈、朝ごはんは?」

紗奈、家を出る。

「ガチャン」玄関のドアが閉まる音。

○紗奈の自宅前(登校前)

紗奈の自宅前で待っていた壮平。

壮平「おはよ」

紗奈「おはよ」

無表情の2人。

○住宅街・路上(登校中)

手を繋いで無言で歩く紗奈と壮平。

紗奈「……腕、どう?」

壮平「あぁ、こんなん大したことないから大丈夫。気にすんな」

紗奈、指で壮平の怪我した箇所を押す。

壮平「(大声で)いってぇー!!」

紗奈「やっぱり痛いじゃん」

壮平「それは紗奈が押すからな! このヤロ」

壮平、紗奈の頭を両方の拳でグリグリする。

紗奈「わー! ごめんごめん!」

笑い合う2人。

○駅・外観

紗奈「はぁ〜あ。このままずっと壮平と2人でいたいな。遠くに消えたい」

壮平「消えるか!」

紗奈「え?」

○電車・車内

テロップ「高校と逆方向の電車」

ガラガラに空いている車内。席に隣り合わせで座っている紗奈と壮平。

紗奈「私、学校サボるの初めて。しかも制服着たまま。ねぇ、どこ行くの?」

壮平「決めてな〜い」

紗奈「え?」

壮平「あの街から消えたいんだろ? この電車の終点駅まで乗ってみようぜ!」

紗奈「ふはは! なにそれ!」

紗奈と壮平、手を繋いで電車に揺られる。

○終点駅・外観

商業施設もコンビニもない田舎の駅前に立つ紗奈と壮平。

紗奈「(苦笑いしながら)なんにもないね」

壮平「(ニヤッと笑って)俺とずっと2人でいられればそれでいいんだろ?」

紗奈「……うん。あ、マップある! 見よ〜!」

駅前の街案内のマップを見る2人。

紗奈「すっごく大きい神社がある! 花田原神社だって! 聞いたことある?」

壮平、スマートフォンで調べる。

壮平「おお、結構有名な神社みたいだぞ。……縁切りで」

紗奈「縁切り?」

壮平「(苦笑いしながら)おう。なんかめっちゃタイムリーだな。俺、頭にいくつか顔が浮かぶよ」

紗奈「(苦笑いしながら)ははは。この街何もないし、行ってみようか」

○花田原神社・参道

紗奈・壮平「はぁはぁはぁ」

息を切らし、ぐったりしている紗奈と壮平。

紗奈「階段、何段あった? すっごく山の高い所まで来たよね」

壮平「俺も部活辞めてから運動不足だな」

紗奈「あ、見てこれ」

参道脇に縁切りの説明書きがある。

紗奈「(説明書きを読んでいる)縁切りとは、人間関係だけではなく、病気、悪習慣、己の弱さ・醜さなど、様々な事柄を差します……だって」

紗奈「なんだろうなぁ。辞めたい悪習慣はいっぱいあるよね。髪乾かさないで寝ちゃうところとか、日焼け止め塗り忘れちゃうところとか……」

壮平「(吹き出して)そんなんでいいの?」

紗奈「髪と肌へのダメージがきてるからね」

壮平「そんなの神頼みしないで、己で頑張れよ」

紗奈「えー」

○花田原神社・賽銭箱前

2拍手をして、目を瞑り、手を合わせる紗奈と壮平。

紗奈、途中でうっすら目を開けて、壮平の顔を見る。真剣な顔の壮平。

○花田原神社・高台

見晴らしのいい高台。街と水平線がきれいに見える。紗奈と壮平、柵に腕をもたれかけ、景色を眺めている。

紗奈「なんか本当に遠くに来た気分」

壮平「まぁ、本当にそれなりに遠いからな」

紗奈「ねぇ、壮平。何願ってたの?」

壮平「教えない。紗奈は?」

紗奈「髪の毛乾かして寝れますようにってお願いした!」

壮平「(呆れた顔で)まじで?」

紗奈「うん、本当! なんかね、亮さんの言ってたこと、腑に落ちたんだよね。反論するどころか、図星過ぎて言い返せなかった。まぁ、亮さんがやったことは許せないけど」

壮平「は?」

紗奈「順応しようと今まで私なりに頑張ってきたつもりだった。嫌だなぁって思うことがあっても、自分さえ我慢すればことが上手く運ぶと思ってたし、それでいいと思ってた。でも、この十数年、再婚が続いたことはなかったし、私が我慢したところで上手くいくわけでもなかった。むしろ、もっと家族としてお母さんに気持ちをぶつけていた方が、お母さんも向き合ってくれていい方向に行っていたのかもしれない。結局、私も逃げていたんだと思う」

壮平、紗奈の話を真剣な表情で聞いている。

紗奈「私が縁切りしたいのは、逃げていた私。でも、それは神頼みじゃなくて、自分自身で変わらなきゃいけないことだと思うから! 帰ったら、お母さんとちゃんと向き合ってみようと思う」

壮平「やっぱ紗奈はすげーよ。敵わないな」

壮平、紗奈の頬に手を添えて話す。

紗奈「壮平のおかげだよ?」

にっこり微笑む壮平。

照れる紗奈。

紗奈「……ねぇ、キスして?」

壮平、優しく紗奈の口にキスをする。

紗奈「好き。大好き」

紗奈、壮平に抱きつく。

壮平「なんか今日は、甘えん坊だな。そっちのが嬉しいけど」

壮平も強く紗奈のことを抱きしめる。

壮平M「紗奈の不安ごと抱きしめるよ。その不安がなくなる日まで、俺にも分けさせて。愛してる、紗奈」