永遠の愛なんて信じません!

○学校・教室(授業中)

紗奈M「2学期が始まりました。夏休みが明け、教室もいよいよ受験ムードです」

授業に集中するクラスメイトたち。

紗奈M「壮平は、花火大会の日以来、より勉強に熱が入っているように見えます」

斜め前の前の席に座っている壮平の後ろ姿を微笑んで眺める紗奈。

紗奈M「そして、私も佐藤紗奈になって1周年を迎えました」

○(回想)紗奈の小学生時代

紗奈「え、もう竹内に戻るのー? 5ヶ月前に武者小路になったばっかりなのに?」

紗奈の母「ごめんねぇ」

紗奈「(泣きながら)クラスの子にからかわれちゃうよ〜。やだ〜!」

(回想終わり)

紗奈M「1周年を迎えられないこともあったので、これはとても喜ばしいことなのです」

紗奈のノートに「1周年お祝いパーティー計画  ①ケーキを作る ②お部屋の飾り付け
③プレゼント贈呈」と書かれている。ノートを見つめる紗奈。

紗奈M「隆さんとは相変わらずの距離感だけど、お母さんと私のことを大切に思ってくれているのはよく分かる。2人に喜んでくれるといいなぁ」

○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)

ローテーブルで勉強をしている壮平。その向かいでいくつもの風船を膨らましている紗奈。

壮平「(苦笑いしながら)おい、うちでやるなよ」

紗奈「だって、明日のお祝いパーティー、サプライズでしたいんだもん! 壮平の家の冷蔵庫も借りるね、ケーキを隠したいんだ!」

壮平「別にいいけど。……楽しそうだな」

紗奈「だって、喜んでほしいからね!」

壮平「喜んでくれるといいな」

紗奈「うん!」

風船を1つの紐に楽しそうに繋げる紗奈。

壮平、その姿を微笑んで見ている。

○紗奈の自宅・リビング・お祝いパーティー当日(夜)

風船でデコレーションされたリビング。

紗奈M「よし! 準備オッケー! あとは帰ってくるのを待つだけ!」

「ガチャガチャ」玄関の鍵が開く音。

紗奈M「来た来た」

リビングで待つ紗奈。

「ドンドンドン」リビングに歩いてくる足音が聞こえる。

扉を開けてリビングに入る紗奈の母と隆。

紗奈「隆さん、お母さん、1周年おめでとう〜!」

紗奈、クラッカーを放つ。

紗奈の母と隆、驚いた後、2人で目を見合わせて涙目になる。

隆「紗奈ちゃん、ありがとう〜」

隆、涙を流す。

紗奈「(笑いながら)隆さん、泣かないで!」

隆「だって、紗奈ちゃんがこんなことしてくれるなんて……。うぅ」

隆、涙が止まらない。

紗奈「ご飯は食べてきたんでしょ? ケーキ作ったから食べよー!」

紗奈、手作りのホールケーキを運んでくる。ケーキには「祝1周年」とチョコペンで書かれている。

隆「また泣いちゃうよ」

隆、紗奈の母に向かって呟き、また泣く。

紗奈「隆さん、家族になってくれてありがとうございます! 隆さんといるお母さんは本当に楽しそうで、お母さんと結婚してくれて本当に良かったです。これからもお母さんのことよろしくお願いします」

紗奈の母、泣く。

隆「紗奈ちゃんの家族になれて、僕もとっても幸せです。年頃の女の子で、こんな他人のおじさんと一緒に暮らすことに、きっと色々思うこともあったと思うんだ。それでも紗奈ちゃんはいつも僕に笑顔で接してくれて……。いつもその笑顔に救われていたよ。結婚したことはもちろんだけど、こんなに素敵な子と家族になれたことも本当に嬉しいんだ。ありがとう、紗奈ちゃん」

紗奈、泣きながら微笑む。

×  ×  ×
時間経過。

3人でダイニングテーブルにつき、ケーキを食べている。

紗奈M「隆さんも、今まで色々思っていた部分がきっとあったんだよね。私も隆さんの気持ちをちゃんと言葉で聞けて嬉しい! パーティー開いて良かった!」

紗奈、ニコニコしながらケーキを食べる。

○学校・教室(ホームルーム)

担任が前に立っている。

担任「はいー、この間受けた模試の結果、返しますー」

男子生徒A「げー」

ザワザワする教室。

×  ×  ×
時間経過。

担任「佐藤〜」

担任の元まで行き、結果の用紙を受け取る紗奈。

「上林大学 法学部 A判定」の記載。

紗奈M「え!?」

席に戻る途中で、壮平の席の隣を通る。

紗奈のことを見ている壮平。

紗奈、壮平に向かって笑顔でガッツポーズをする。

壮平、ニカっと笑う。

○住宅街・路上・下校中

紗奈と壮平、横並びで歩いている。

壮平「紗奈、まじで頑張ったな! ほんとすごいよ」

壮平、紗奈の髪をくしゃくしゃに撫でる。

紗奈、嬉しそうに笑う。

紗奈「慶智大学法学部をC判定からA判定に短期間でしちゃう壮平の方がすごすぎだよ!」

壮平「俺が本気出せばこんなもんさ」

紗奈「なんか、2人とも受かるような気がしてきた! 絶対受かろうね!」

壮平「おう!」

紗奈「受かったら、たくさんデートしよ! また河原で一緒にお花見もしたいし、水族館も行きたい! それに、旅行も行きたいでしょ〜? ……あとね〜」

壮平「行きたいとこ、全部行こうぜ。俺は、大学合格して紗奈とベッドでの続きができればそれで……」

紗奈「ちょっ、壮平!」

紗奈、顔を赤くして恥ずかしがる。

壮平「楽しみ!」

紗奈「壮平の変態……」

壮平、紗奈の手を繋ぎ、

壮平「会えなくなる時間を上回るくらいの思い出作ろうぜ」

紗奈「うん!」

紗奈と壮平、笑顔で手を繋いで歩く。

○紗奈の自宅・リビング

紗奈、リビングの扉を開けて、

紗奈「ただいまー」

腰に白いタオルだけを巻いた、見知らぬ裸の男・佐藤 亮(大学3年生)が立っている。

紗奈「きゃー!」

紗奈、叫んで尻餅をつく。

亮「紗奈ちゃん、おかえり〜」

尻餅をついて動けない紗奈の元に歩いてくる亮。紗奈の目の前でしゃがんで、

亮「大丈夫〜?」

紗奈「だ、だ、だ、誰ですか!? 警察呼びますよ!」

亮「え〜、ひどい。一応、紗奈ちゃんのお兄ちゃんなのに」

紗奈「え?」

亮「だ・か・ら、紗奈ちゃんのお兄ちゃん!」

紗奈「……隆さんの息子さんの……亮さん?」

亮「そう!」

「ドンドンドンドン」大きくて早い足音がリビングに近づいてくる。

「ガチャ」勢いよくリビングの扉が開き、壮平が現れる。

尻餅をついた紗奈に、顔を近づけているほぼ裸の亮。

壮平「てめー、紗奈に何してんだよ!」

壮平、亮に馬乗りになって殴ろうとする。

紗奈「(大声で)待って! 私のお兄ちゃんなの!」

×  ×  ×
時間経過。

ソファに、紗奈を真ん中にして両端に座る壮平と亮。

亮「“隣から悲鳴が聞こえて駆けつけたら、裸の男が彼女を襲ってた”って勘違いしたわけ?僕のこと殴ろうとしたよね? はやとちりすぎない?」

壮平「勘違いもなにも、人の彼女の前で裸なのがおかしいだろ」

亮「こっちは身内なんで、そんなの普通です〜」

壮平「でも、初対面だろ。 な?」

壮平、紗奈に話しかける。

紗奈「結婚する前に私たち親子と、隆さん親子の4人で会うはずだったんですけど、日にちの都合が悪くなっちゃったんですよね?」

亮「ううん、はじめから同居なんて嫌だしね。意図的に顔合わせをバックれただけだよ。もう大学生だし、今は一人暮らしさせてもらって自由にしてる〜」

紗奈「今日はどうしたんですか?」

亮「それがさ〜、聞いてよ紗奈ちゃん! 住んでたアパート、上の階から水が漏れてきちゃってさ。工事に1週間かかるみたいだから、少しの間、居候させてもらうことにしたよ。よろしくね!」

紗奈M「え〜!?」

○紗奈の自宅・ダイニング(夜)

紗奈、紗奈の母、隆、亮の4人で夕食を食べている。

紗奈の母「亮くん、災難だったわね。大事な荷物は濡れてない? 大丈夫?」

亮「なんとか大丈夫でした〜」

隆「亮、鍵は渡したけど、来る時は連絡しなさいって言ったよな? 紗奈ちゃんをびっくりさせないでくれ」

紗奈「(苦笑いしながら)あの、私は大丈夫なんで」

亮「だってよ〜?」

隆「亮!」

亮「おばさん、これウマイ〜」

亮、煮物を手に取る。

紗奈の母「そう、亮くんのお口に合って良かったわ」

紗奈M「(苦笑いしながら)なんか、あの隆さんの息子さんとは思えない人。本心がよく分からないし、なんというか……、ふてぶてしい」

紗奈、自分の空になったコップに麦茶を入れる。隆のコップも空なのに気付き、

紗奈「あ、隆さん! 麦茶飲みます?」

隆「あぁ、ありがとう! 紗奈ちゃんは本当に気が効くね」

リビングの棚の上に、結婚1周年パーティーで撮った3人の写真が飾られている。

亮、ちらっと冷めた目で見てから、ご飯を食べる。

紗奈の母「狭くて申し訳ないんだけど、部屋は2部屋しかないから、私と紗奈、隆さんと亮くんの組み合わせで使ってもらうわね」

亮「2部屋しかないんだー。分かった、おばさんありがとうー」

紗奈M「この人と仲良く1週間暮らせるかな」

○学校・教室(放課後)

壮平、紗奈の席まで来て、

壮平「ごめん紗奈、今日、田中先生んとこ寄ってくから、先帰ってて!」

紗奈「分かった! また明日!」

壮平「あいつって、もうこの時間家いるの?」

紗奈「あいつ? (苦笑いしながら)……あぁ、亮さんね。どうかなぁ。大学生だし忙しいから、まだ帰ってきてないんじゃないかな? ちょっと掴み所のない人だよね」

壮平「いや、ちょっとどころじゃなくて、だいぶ変わってるぞ? あいつ」

紗奈「はは。今まで連れ子同士の再婚ってしたことなかったから、私もどう接すればいいのかよく分からないや。まぁ、1週間だし仲良くやるよ」

壮平「なんかあったらすぐ呼べよ。……あー、心配だー」

紗奈「ありがとう」

○住宅街・路上(下校中)

家に向かい歩いている紗奈。

紗奈M「今日は、数学から勉強しよう! なんか最近、上林大学に行ける気しかしない!」

紗奈、晴れやかな表情で公園の前を通る。

亮「あれ? 紗奈ちゃんじゃーん!」

公園の小さな柵に亮とその友人3名が腰掛けている。ピアスを開けていたり、ストリート系のファッションをしている友人たち。

紗奈「(にっこり笑いながら)ど、どうも」

紗奈M「えー! 怖めのお兄さんたち……。あんまり絡みたくないな」

紗奈「じゃあ」

紗奈、満面の作り笑顔を向けて、立ち去ろうとする。

友人A「えー、めっちゃ可愛い!」

友人B「本当に妹いたんだ。現役JKじゃん! やばー」

友人C「え、妹ちゃんと一緒に遊びたい!」

亮「うち来る?」

紗奈M「(青ざめた顔で)え!? ……今なんて?」

○紗奈の自宅・リビング

ソファや床でくつろいでいる亮たち4人。立ち尽くす紗奈。

紗奈M「なんだろう、この光景……。まるで不良の溜まり場!!」

友人A「あー、ソファ最高!」

友人B「あー、酒飲みてぇー」

友人C「昼だろまだ! でも飲んじゃうか? 買ってきたやつ! 昼飲みサイコー!」

紗奈M「え! うち、不良の溜まり場になっちゃったの!? ……帰りたい。あ、ここうちなんだった……。はぁ〜。ここはこっそり退散しよう」

紗奈、忍足で自分の部屋へ向かう。

亮「紗奈ちゃん、どこ行くの? 1週間しかお兄ちゃんいないんだから、家にいるときくらい仲良くしようよ」

×  ×  ×
時間経過。

紗奈、ソファの真ん中に座り、亮たちに囲まれながら麦茶を飲んでいる。

友人A「てか、紗奈ちゃんモテるでしょ? 可愛すぎるもん!」

紗奈「いや〜、そんなことは……」

友人B「俺が同級生だったら告ってるね!」

友人C「(手を上げながら)俺も俺も〜!」

紗奈M「(呆れて苦笑いしながら)いやだ、酔っ払い」

友人B「制服が萌えるよね、戻りてぇ、高校生! あ、酒ねぇじゃん。買ってこよーぜ」

亮「コンビニの場所、分かんねぇだろ。俺も行く」

友人C「俺もタバコ買いに行く!」

紗奈M「ホッ。 その隙に部屋に戻ろう!」

友人A「俺いるわ。いってらっしゃーい!」

友人Aをじっと見る亮。

紗奈M「え、行かないの?」

友人Aを凝視する紗奈。視線に気付き、紗奈に向かってニコッと笑う友人A。

×  ×  ×
時間経過。

紗奈と友人Aの2人きりのリビング。

友人A「ごめんね? 紗奈ちゃんの家なのにうるさかったよね。しかも初対面で」

紗奈「いえ……」

友人A「紗奈ちゃん今、高3なんだよね? どこ大行きたいの?」

紗奈「上林大学目指してます」

友人A「すっげー、紗奈ちゃん頭いいんだね」

紗奈「亮さんたちはどこ大なんですか?」

友人A「あ、俺らは青町大!」

紗奈「頭いいじゃないですか! 親友もそこ目指してるんですけど、問題が独特で難しいって言ってました」

友人A「そうなんだよね〜、特に数学の問題が変にこだわっててさ! でも、過去問10年分×5回解いたら、だんだん掴めてくるから大丈夫だよってお友達に言っておいて!」

紗奈「そうなんですね、ありがとうございます!」

友人A「あ、俺、康二。なんかT大のことで聞きたいことあったらいつでも言ってね」

紗奈「(にっこりしながら)ありがとうございます。なんか、過去問50回も解いてたこと聞いたら、康二さんのイメージ変わりました」

康二「え、それいい意味?」

紗奈「ははは。いい意味です」

康二「第一印象良くなかったってこと!?」

紗奈「(笑いながら)まぁ、はい。不良に家に溜まられて終わったと思ってました」

康二「なんだよ、紗奈ちゃん! 結構言うじゃん!」

紗奈「ははは。亮さんも話すと、康二さんに似てますか? 私、ほとんど喋ったことがなくて」

康二「亮はあのまんまだよ。図々しいっていうか、良く言えば懐に入るのが上手いというか。でも、人の中にはズケズケ入るくせに、自分のことになると急に一線引いたりするから、本音が分かんなかったりする不思議なやつ」

紗奈「ふーん」

康二「気になる?」

紗奈「まぁ。どんな人なのかなーって」

○紗奈の自宅・リビング(夜)

紗奈、紗奈の母、隆、亮の4人で食卓で夜ご飯を食べている。

隆「亮は今日、何時に帰ってきてたんだ」

亮「んー? 親父が帰ってくる数分前」

紗奈M「嘘です!」

隆「勉強忙しいのか?」

亮「めーっちゃ忙しい。遊ぶ暇ない。頑張ってるからドレックスの時計買って〜」

隆「無事就職できたら、考えてもいいぞ」

亮「チッ、けち〜」

亮、煮物を口にする。

亮「ん! 今日の煮物ちょっとしょっぱいかも、おばさん」

紗奈の母「あら、ごめんねぇ。お醤油入れすぎちゃったかしら!」

亮「そうかも〜」

隆「亮! 一生懸命作ってくれたんだ、そんなこと言うな!」

紗奈の母「いいのよいいのよ、本当にちょっとしょっぱいから!」

沈黙が流れる食卓。

紗奈「そ、そういえば、駅前に美味しいベーグル屋さんできたの知ってますか? すごく有名なベーグル屋さんらしくて、友達が分けてくれたの食べたら美味しかったんで、今度みんなで食べましょ〜!」

紗奈、笑顔で必死に会話をする。

亮「俺、ベーグル固くて好きじゃないからいらない〜」

隆「亮!」

隆、怒鳴る。

紗奈「いいんです、いいんです! ベーグルって好み分かれますもんね! 焼き菓子も売ってるんで、亮さんにはそっち買ってきますね!」

紗奈、にっこり笑う。

亮「俺、先風呂もらうね〜」

亮、立ち上がってリビングを去る。

隆「紗奈ちゃん、ごめんねぇ」

紗奈「いえいえ! 全然気にしてません! 男の人ってあんまりそういうの興味ないですもんね! いいんですいいんです! あ、お母さん、この煮物、私は好きだよ!」

紗奈の母、眉毛を下げながら微笑む。 

亮、洗面所の内側のドアの前に立って話を聞いている。