○学校・教室(授業中)
紗奈M「2学期が始まりました。夏休みが明け、教室もいよいよ受験ムードです」
授業に集中するクラスメイトたち。
紗奈M「壮平は、花火大会の日以来、より勉強に熱が入っているように見えます」
斜め前の前の席に座っている壮平の後ろ姿を微笑んで眺める紗奈。
紗奈M「そして、私も佐藤紗奈になって1周年を迎えました」
○(回想)紗奈の小学生時代
紗奈「え、もう竹内に戻るのー? 5ヶ月前に武者小路になったばっかりなのに?」
紗奈の母「ごめんねぇ」
紗奈「(泣きながら)クラスの子にからかわれちゃうよ〜。やだ〜!」
(回想終わり)
紗奈M「1周年を迎えられないこともあったので、これはとても喜ばしいことなのです」
紗奈のノートに「1周年お祝いパーティー計画 ①ケーキを作る ②お部屋の飾り付け
③プレゼント贈呈」と書かれている。ノートを見つめる紗奈。
紗奈M「隆さんとは相変わらずの距離感だけど、お母さんと私のことを大切に思ってくれているのはよく分かる。2人に喜んでくれるといいなぁ」
○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)
ローテーブルで勉強をしている壮平。その向かいでいくつもの風船を膨らましている紗奈。
壮平「(苦笑いしながら)おい、うちでやるなよ」
紗奈「だって、明日のお祝いパーティー、サプライズでしたいんだもん! 壮平の家の冷蔵庫も借りるね、ケーキを隠したいんだ!」
壮平「別にいいけど。……楽しそうだな」
紗奈「だって、喜んでほしいからね!」
壮平「喜んでくれるといいな」
紗奈「うん!」
風船を1つの紐に楽しそうに繋げる紗奈。
壮平、その姿を微笑んで見ている。
○紗奈の自宅・リビング・お祝いパーティー当日(夜)
風船でデコレーションされたリビング。
紗奈M「よし! 準備オッケー! あとは帰ってくるのを待つだけ!」
「ガチャガチャ」玄関の鍵が開く音。
紗奈M「来た来た」
リビングで待つ紗奈。
「ドンドンドン」リビングに歩いてくる足音が聞こえる。
扉を開けてリビングに入る紗奈の母と隆。
紗奈「隆さん、お母さん、1周年おめでとう〜!」
紗奈、クラッカーを放つ。
紗奈の母と隆、驚いた後、2人で目を見合わせて涙目になる。
隆「紗奈ちゃん、ありがとう〜」
隆、涙を流す。
紗奈「(笑いながら)隆さん、泣かないで!」
隆「だって、紗奈ちゃんがこんなことしてくれるなんて……。うぅ」
隆、涙が止まらない。
紗奈「ご飯は食べてきたんでしょ? ケーキ作ったから食べよー!」
紗奈、手作りのホールケーキを運んでくる。ケーキには「祝1周年」とチョコペンで書かれている。
隆「また泣いちゃうよ」
隆、紗奈の母に向かって呟き、また泣く。
紗奈「隆さん、家族になってくれてありがとうございます! 隆さんといるお母さんは本当に楽しそうで、お母さんと結婚してくれて本当に良かったです。これからもお母さんのことよろしくお願いします」
紗奈の母、泣く。
隆「紗奈ちゃんの家族になれて、僕もとっても幸せです。年頃の女の子で、こんな他人のおじさんと一緒に暮らすことに、きっと色々思うこともあったと思うんだ。それでも紗奈ちゃんはいつも僕に笑顔で接してくれて……。いつもその笑顔に救われていたよ。結婚したことはもちろんだけど、こんなに素敵な子と家族になれたことも本当に嬉しいんだ。ありがとう、紗奈ちゃん」
紗奈、泣きながら微笑む。
× × ×
時間経過。
3人でダイニングテーブルにつき、ケーキを食べている。
紗奈M「隆さんも、今まで色々思っていた部分がきっとあったんだよね。私も隆さんの気持ちをちゃんと言葉で聞けて嬉しい! パーティー開いて良かった!」
紗奈、ニコニコしながらケーキを食べる。
○学校・教室(ホームルーム)
担任が前に立っている。
担任「はいー、この間受けた模試の結果、返しますー」
男子生徒A「げー」
ザワザワする教室。
× × ×
時間経過。
担任「佐藤〜」
担任の元まで行き、結果の用紙を受け取る紗奈。
「上林大学 法学部 A判定」の記載。
紗奈M「え!?」
席に戻る途中で、壮平の席の隣を通る。
紗奈のことを見ている壮平。
紗奈、壮平に向かって笑顔でガッツポーズをする。
壮平、ニカっと笑う。
○住宅街・路上・下校中
紗奈と壮平、横並びで歩いている。
壮平「紗奈、まじで頑張ったな! ほんとすごいよ」
壮平、紗奈の髪をくしゃくしゃに撫でる。
紗奈、嬉しそうに笑う。
紗奈「慶智大学法学部をC判定からA判定に短期間でしちゃう壮平の方がすごすぎだよ!」
壮平「俺が本気出せばこんなもんさ」
紗奈「なんか、2人とも受かるような気がしてきた! 絶対受かろうね!」
壮平「おう!」
紗奈「受かったら、たくさんデートしよ! また河原で一緒にお花見もしたいし、水族館も行きたい! それに、旅行も行きたいでしょ〜? ……あとね〜」
壮平「行きたいとこ、全部行こうぜ。俺は、大学合格して紗奈とベッドでの続きができればそれで……」
紗奈「ちょっ、壮平!」
紗奈、顔を赤くして恥ずかしがる。
壮平「楽しみ!」
紗奈「壮平の変態……」
壮平、紗奈の手を繋ぎ、
壮平「会えなくなる時間を上回るくらいの思い出作ろうぜ」
紗奈「うん!」
紗奈と壮平、笑顔で手を繋いで歩く。
○紗奈の自宅・リビング
紗奈、リビングの扉を開けて、
紗奈「ただいまー」
腰に白いタオルだけを巻いた、見知らぬ裸の男・佐藤 亮(大学3年生)が立っている。
紗奈「きゃー!」
紗奈、叫んで尻餅をつく。
亮「紗奈ちゃん、おかえり〜」
尻餅をついて動けない紗奈の元に歩いてくる亮。紗奈の目の前でしゃがんで、
亮「大丈夫〜?」
紗奈「だ、だ、だ、誰ですか!? 警察呼びますよ!」
亮「え〜、ひどい。一応、紗奈ちゃんのお兄ちゃんなのに」
紗奈「え?」
亮「だ・か・ら、紗奈ちゃんのお兄ちゃん!」
紗奈「……隆さんの息子さんの……亮さん?」
亮「そう!」
「ドンドンドンドン」大きくて早い足音がリビングに近づいてくる。
「ガチャ」勢いよくリビングの扉が開き、壮平が現れる。
尻餅をついた紗奈に、顔を近づけているほぼ裸の亮。
壮平「てめー、紗奈に何してんだよ!」
壮平、亮に馬乗りになって殴ろうとする。
紗奈「(大声で)待って! 私のお兄ちゃんなの!」
× × ×
時間経過。
ソファに、紗奈を真ん中にして両端に座る壮平と亮。
亮「“隣から悲鳴が聞こえて駆けつけたら、裸の男が彼女を襲ってた”って勘違いしたわけ?僕のこと殴ろうとしたよね? はやとちりすぎない?」
壮平「勘違いもなにも、人の彼女の前で裸なのがおかしいだろ」
亮「こっちは身内なんで、そんなの普通です〜」
壮平「でも、初対面だろ。 な?」
壮平、紗奈に話しかける。
紗奈「結婚する前に私たち親子と、隆さん親子の4人で会うはずだったんですけど、日にちの都合が悪くなっちゃったんですよね?」
亮「ううん、はじめから同居なんて嫌だしね。意図的に顔合わせをバックれただけだよ。もう大学生だし、今は一人暮らしさせてもらって自由にしてる〜」
紗奈「今日はどうしたんですか?」
亮「それがさ〜、聞いてよ紗奈ちゃん! 住んでたアパート、上の階から水が漏れてきちゃってさ。工事に1週間かかるみたいだから、少しの間、居候させてもらうことにしたよ。よろしくね!」
紗奈M「え〜!?」
○紗奈の自宅・ダイニング(夜)
紗奈、紗奈の母、隆、亮の4人で夕食を食べている。
紗奈の母「亮くん、災難だったわね。大事な荷物は濡れてない? 大丈夫?」
亮「なんとか大丈夫でした〜」
隆「亮、鍵は渡したけど、来る時は連絡しなさいって言ったよな? 紗奈ちゃんをびっくりさせないでくれ」
紗奈「(苦笑いしながら)あの、私は大丈夫なんで」
亮「だってよ〜?」
隆「亮!」
亮「おばさん、これウマイ〜」
亮、煮物を手に取る。
紗奈の母「そう、亮くんのお口に合って良かったわ」
紗奈M「(苦笑いしながら)なんか、あの隆さんの息子さんとは思えない人。本心がよく分からないし、なんというか……、ふてぶてしい」
紗奈、自分の空になったコップに麦茶を入れる。隆のコップも空なのに気付き、
紗奈「あ、隆さん! 麦茶飲みます?」
隆「あぁ、ありがとう! 紗奈ちゃんは本当に気が効くね」
リビングの棚の上に、結婚1周年パーティーで撮った3人の写真が飾られている。
亮、ちらっと冷めた目で見てから、ご飯を食べる。
紗奈の母「狭くて申し訳ないんだけど、部屋は2部屋しかないから、私と紗奈、隆さんと亮くんの組み合わせで使ってもらうわね」
亮「2部屋しかないんだー。分かった、おばさんありがとうー」
紗奈M「この人と仲良く1週間暮らせるかな」
○学校・教室(放課後)
壮平、紗奈の席まで来て、
壮平「ごめん紗奈、今日、田中先生んとこ寄ってくから、先帰ってて!」
紗奈「分かった! また明日!」
壮平「あいつって、もうこの時間家いるの?」
紗奈「あいつ? (苦笑いしながら)……あぁ、亮さんね。どうかなぁ。大学生だし忙しいから、まだ帰ってきてないんじゃないかな? ちょっと掴み所のない人だよね」
壮平「いや、ちょっとどころじゃなくて、だいぶ変わってるぞ? あいつ」
紗奈「はは。今まで連れ子同士の再婚ってしたことなかったから、私もどう接すればいいのかよく分からないや。まぁ、1週間だし仲良くやるよ」
壮平「なんかあったらすぐ呼べよ。……あー、心配だー」
紗奈「ありがとう」
○住宅街・路上(下校中)
家に向かい歩いている紗奈。
紗奈M「今日は、数学から勉強しよう! なんか最近、上林大学に行ける気しかしない!」
紗奈、晴れやかな表情で公園の前を通る。
亮「あれ? 紗奈ちゃんじゃーん!」
公園の小さな柵に亮とその友人3名が腰掛けている。ピアスを開けていたり、ストリート系のファッションをしている友人たち。
紗奈「(にっこり笑いながら)ど、どうも」
紗奈M「えー! 怖めのお兄さんたち……。あんまり絡みたくないな」
紗奈「じゃあ」
紗奈、満面の作り笑顔を向けて、立ち去ろうとする。
友人A「えー、めっちゃ可愛い!」
友人B「本当に妹いたんだ。現役JKじゃん! やばー」
友人C「え、妹ちゃんと一緒に遊びたい!」
亮「うち来る?」
紗奈M「(青ざめた顔で)え!? ……今なんて?」
○紗奈の自宅・リビング
ソファや床でくつろいでいる亮たち4人。立ち尽くす紗奈。
紗奈M「なんだろう、この光景……。まるで不良の溜まり場!!」
友人A「あー、ソファ最高!」
友人B「あー、酒飲みてぇー」
友人C「昼だろまだ! でも飲んじゃうか? 買ってきたやつ! 昼飲みサイコー!」
紗奈M「え! うち、不良の溜まり場になっちゃったの!? ……帰りたい。あ、ここうちなんだった……。はぁ〜。ここはこっそり退散しよう」
紗奈、忍足で自分の部屋へ向かう。
亮「紗奈ちゃん、どこ行くの? 1週間しかお兄ちゃんいないんだから、家にいるときくらい仲良くしようよ」
× × ×
時間経過。
紗奈、ソファの真ん中に座り、亮たちに囲まれながら麦茶を飲んでいる。
友人A「てか、紗奈ちゃんモテるでしょ? 可愛すぎるもん!」
紗奈「いや〜、そんなことは……」
友人B「俺が同級生だったら告ってるね!」
友人C「(手を上げながら)俺も俺も〜!」
紗奈M「(呆れて苦笑いしながら)いやだ、酔っ払い」
友人B「制服が萌えるよね、戻りてぇ、高校生! あ、酒ねぇじゃん。買ってこよーぜ」
亮「コンビニの場所、分かんねぇだろ。俺も行く」
友人C「俺もタバコ買いに行く!」
紗奈M「ホッ。 その隙に部屋に戻ろう!」
友人A「俺いるわ。いってらっしゃーい!」
友人Aをじっと見る亮。
紗奈M「え、行かないの?」
友人Aを凝視する紗奈。視線に気付き、紗奈に向かってニコッと笑う友人A。
× × ×
時間経過。
紗奈と友人Aの2人きりのリビング。
友人A「ごめんね? 紗奈ちゃんの家なのにうるさかったよね。しかも初対面で」
紗奈「いえ……」
友人A「紗奈ちゃん今、高3なんだよね? どこ大行きたいの?」
紗奈「上林大学目指してます」
友人A「すっげー、紗奈ちゃん頭いいんだね」
紗奈「亮さんたちはどこ大なんですか?」
友人A「あ、俺らは青町大!」
紗奈「頭いいじゃないですか! 親友もそこ目指してるんですけど、問題が独特で難しいって言ってました」
友人A「そうなんだよね〜、特に数学の問題が変にこだわっててさ! でも、過去問10年分×5回解いたら、だんだん掴めてくるから大丈夫だよってお友達に言っておいて!」
紗奈「そうなんですね、ありがとうございます!」
友人A「あ、俺、康二。なんかT大のことで聞きたいことあったらいつでも言ってね」
紗奈「(にっこりしながら)ありがとうございます。なんか、過去問50回も解いてたこと聞いたら、康二さんのイメージ変わりました」
康二「え、それいい意味?」
紗奈「ははは。いい意味です」
康二「第一印象良くなかったってこと!?」
紗奈「(笑いながら)まぁ、はい。不良に家に溜まられて終わったと思ってました」
康二「なんだよ、紗奈ちゃん! 結構言うじゃん!」
紗奈「ははは。亮さんも話すと、康二さんに似てますか? 私、ほとんど喋ったことがなくて」
康二「亮はあのまんまだよ。図々しいっていうか、良く言えば懐に入るのが上手いというか。でも、人の中にはズケズケ入るくせに、自分のことになると急に一線引いたりするから、本音が分かんなかったりする不思議なやつ」
紗奈「ふーん」
康二「気になる?」
紗奈「まぁ。どんな人なのかなーって」
○紗奈の自宅・リビング(夜)
紗奈、紗奈の母、隆、亮の4人で食卓で夜ご飯を食べている。
隆「亮は今日、何時に帰ってきてたんだ」
亮「んー? 親父が帰ってくる数分前」
紗奈M「嘘です!」
隆「勉強忙しいのか?」
亮「めーっちゃ忙しい。遊ぶ暇ない。頑張ってるからドレックスの時計買って〜」
隆「無事就職できたら、考えてもいいぞ」
亮「チッ、けち〜」
亮、煮物を口にする。
亮「ん! 今日の煮物ちょっとしょっぱいかも、おばさん」
紗奈の母「あら、ごめんねぇ。お醤油入れすぎちゃったかしら!」
亮「そうかも〜」
隆「亮! 一生懸命作ってくれたんだ、そんなこと言うな!」
紗奈の母「いいのよいいのよ、本当にちょっとしょっぱいから!」
沈黙が流れる食卓。
紗奈「そ、そういえば、駅前に美味しいベーグル屋さんできたの知ってますか? すごく有名なベーグル屋さんらしくて、友達が分けてくれたの食べたら美味しかったんで、今度みんなで食べましょ〜!」
紗奈、笑顔で必死に会話をする。
亮「俺、ベーグル固くて好きじゃないからいらない〜」
隆「亮!」
隆、怒鳴る。
紗奈「いいんです、いいんです! ベーグルって好み分かれますもんね! 焼き菓子も売ってるんで、亮さんにはそっち買ってきますね!」
紗奈、にっこり笑う。
亮「俺、先風呂もらうね〜」
亮、立ち上がってリビングを去る。
隆「紗奈ちゃん、ごめんねぇ」
紗奈「いえいえ! 全然気にしてません! 男の人ってあんまりそういうの興味ないですもんね! いいんですいいんです! あ、お母さん、この煮物、私は好きだよ!」
紗奈の母、眉毛を下げながら微笑む。
亮、洗面所の内側のドアの前に立って話を聞いている。
紗奈M「2学期が始まりました。夏休みが明け、教室もいよいよ受験ムードです」
授業に集中するクラスメイトたち。
紗奈M「壮平は、花火大会の日以来、より勉強に熱が入っているように見えます」
斜め前の前の席に座っている壮平の後ろ姿を微笑んで眺める紗奈。
紗奈M「そして、私も佐藤紗奈になって1周年を迎えました」
○(回想)紗奈の小学生時代
紗奈「え、もう竹内に戻るのー? 5ヶ月前に武者小路になったばっかりなのに?」
紗奈の母「ごめんねぇ」
紗奈「(泣きながら)クラスの子にからかわれちゃうよ〜。やだ〜!」
(回想終わり)
紗奈M「1周年を迎えられないこともあったので、これはとても喜ばしいことなのです」
紗奈のノートに「1周年お祝いパーティー計画 ①ケーキを作る ②お部屋の飾り付け
③プレゼント贈呈」と書かれている。ノートを見つめる紗奈。
紗奈M「隆さんとは相変わらずの距離感だけど、お母さんと私のことを大切に思ってくれているのはよく分かる。2人に喜んでくれるといいなぁ」
○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)
ローテーブルで勉強をしている壮平。その向かいでいくつもの風船を膨らましている紗奈。
壮平「(苦笑いしながら)おい、うちでやるなよ」
紗奈「だって、明日のお祝いパーティー、サプライズでしたいんだもん! 壮平の家の冷蔵庫も借りるね、ケーキを隠したいんだ!」
壮平「別にいいけど。……楽しそうだな」
紗奈「だって、喜んでほしいからね!」
壮平「喜んでくれるといいな」
紗奈「うん!」
風船を1つの紐に楽しそうに繋げる紗奈。
壮平、その姿を微笑んで見ている。
○紗奈の自宅・リビング・お祝いパーティー当日(夜)
風船でデコレーションされたリビング。
紗奈M「よし! 準備オッケー! あとは帰ってくるのを待つだけ!」
「ガチャガチャ」玄関の鍵が開く音。
紗奈M「来た来た」
リビングで待つ紗奈。
「ドンドンドン」リビングに歩いてくる足音が聞こえる。
扉を開けてリビングに入る紗奈の母と隆。
紗奈「隆さん、お母さん、1周年おめでとう〜!」
紗奈、クラッカーを放つ。
紗奈の母と隆、驚いた後、2人で目を見合わせて涙目になる。
隆「紗奈ちゃん、ありがとう〜」
隆、涙を流す。
紗奈「(笑いながら)隆さん、泣かないで!」
隆「だって、紗奈ちゃんがこんなことしてくれるなんて……。うぅ」
隆、涙が止まらない。
紗奈「ご飯は食べてきたんでしょ? ケーキ作ったから食べよー!」
紗奈、手作りのホールケーキを運んでくる。ケーキには「祝1周年」とチョコペンで書かれている。
隆「また泣いちゃうよ」
隆、紗奈の母に向かって呟き、また泣く。
紗奈「隆さん、家族になってくれてありがとうございます! 隆さんといるお母さんは本当に楽しそうで、お母さんと結婚してくれて本当に良かったです。これからもお母さんのことよろしくお願いします」
紗奈の母、泣く。
隆「紗奈ちゃんの家族になれて、僕もとっても幸せです。年頃の女の子で、こんな他人のおじさんと一緒に暮らすことに、きっと色々思うこともあったと思うんだ。それでも紗奈ちゃんはいつも僕に笑顔で接してくれて……。いつもその笑顔に救われていたよ。結婚したことはもちろんだけど、こんなに素敵な子と家族になれたことも本当に嬉しいんだ。ありがとう、紗奈ちゃん」
紗奈、泣きながら微笑む。
× × ×
時間経過。
3人でダイニングテーブルにつき、ケーキを食べている。
紗奈M「隆さんも、今まで色々思っていた部分がきっとあったんだよね。私も隆さんの気持ちをちゃんと言葉で聞けて嬉しい! パーティー開いて良かった!」
紗奈、ニコニコしながらケーキを食べる。
○学校・教室(ホームルーム)
担任が前に立っている。
担任「はいー、この間受けた模試の結果、返しますー」
男子生徒A「げー」
ザワザワする教室。
× × ×
時間経過。
担任「佐藤〜」
担任の元まで行き、結果の用紙を受け取る紗奈。
「上林大学 法学部 A判定」の記載。
紗奈M「え!?」
席に戻る途中で、壮平の席の隣を通る。
紗奈のことを見ている壮平。
紗奈、壮平に向かって笑顔でガッツポーズをする。
壮平、ニカっと笑う。
○住宅街・路上・下校中
紗奈と壮平、横並びで歩いている。
壮平「紗奈、まじで頑張ったな! ほんとすごいよ」
壮平、紗奈の髪をくしゃくしゃに撫でる。
紗奈、嬉しそうに笑う。
紗奈「慶智大学法学部をC判定からA判定に短期間でしちゃう壮平の方がすごすぎだよ!」
壮平「俺が本気出せばこんなもんさ」
紗奈「なんか、2人とも受かるような気がしてきた! 絶対受かろうね!」
壮平「おう!」
紗奈「受かったら、たくさんデートしよ! また河原で一緒にお花見もしたいし、水族館も行きたい! それに、旅行も行きたいでしょ〜? ……あとね〜」
壮平「行きたいとこ、全部行こうぜ。俺は、大学合格して紗奈とベッドでの続きができればそれで……」
紗奈「ちょっ、壮平!」
紗奈、顔を赤くして恥ずかしがる。
壮平「楽しみ!」
紗奈「壮平の変態……」
壮平、紗奈の手を繋ぎ、
壮平「会えなくなる時間を上回るくらいの思い出作ろうぜ」
紗奈「うん!」
紗奈と壮平、笑顔で手を繋いで歩く。
○紗奈の自宅・リビング
紗奈、リビングの扉を開けて、
紗奈「ただいまー」
腰に白いタオルだけを巻いた、見知らぬ裸の男・佐藤 亮(大学3年生)が立っている。
紗奈「きゃー!」
紗奈、叫んで尻餅をつく。
亮「紗奈ちゃん、おかえり〜」
尻餅をついて動けない紗奈の元に歩いてくる亮。紗奈の目の前でしゃがんで、
亮「大丈夫〜?」
紗奈「だ、だ、だ、誰ですか!? 警察呼びますよ!」
亮「え〜、ひどい。一応、紗奈ちゃんのお兄ちゃんなのに」
紗奈「え?」
亮「だ・か・ら、紗奈ちゃんのお兄ちゃん!」
紗奈「……隆さんの息子さんの……亮さん?」
亮「そう!」
「ドンドンドンドン」大きくて早い足音がリビングに近づいてくる。
「ガチャ」勢いよくリビングの扉が開き、壮平が現れる。
尻餅をついた紗奈に、顔を近づけているほぼ裸の亮。
壮平「てめー、紗奈に何してんだよ!」
壮平、亮に馬乗りになって殴ろうとする。
紗奈「(大声で)待って! 私のお兄ちゃんなの!」
× × ×
時間経過。
ソファに、紗奈を真ん中にして両端に座る壮平と亮。
亮「“隣から悲鳴が聞こえて駆けつけたら、裸の男が彼女を襲ってた”って勘違いしたわけ?僕のこと殴ろうとしたよね? はやとちりすぎない?」
壮平「勘違いもなにも、人の彼女の前で裸なのがおかしいだろ」
亮「こっちは身内なんで、そんなの普通です〜」
壮平「でも、初対面だろ。 な?」
壮平、紗奈に話しかける。
紗奈「結婚する前に私たち親子と、隆さん親子の4人で会うはずだったんですけど、日にちの都合が悪くなっちゃったんですよね?」
亮「ううん、はじめから同居なんて嫌だしね。意図的に顔合わせをバックれただけだよ。もう大学生だし、今は一人暮らしさせてもらって自由にしてる〜」
紗奈「今日はどうしたんですか?」
亮「それがさ〜、聞いてよ紗奈ちゃん! 住んでたアパート、上の階から水が漏れてきちゃってさ。工事に1週間かかるみたいだから、少しの間、居候させてもらうことにしたよ。よろしくね!」
紗奈M「え〜!?」
○紗奈の自宅・ダイニング(夜)
紗奈、紗奈の母、隆、亮の4人で夕食を食べている。
紗奈の母「亮くん、災難だったわね。大事な荷物は濡れてない? 大丈夫?」
亮「なんとか大丈夫でした〜」
隆「亮、鍵は渡したけど、来る時は連絡しなさいって言ったよな? 紗奈ちゃんをびっくりさせないでくれ」
紗奈「(苦笑いしながら)あの、私は大丈夫なんで」
亮「だってよ〜?」
隆「亮!」
亮「おばさん、これウマイ〜」
亮、煮物を手に取る。
紗奈の母「そう、亮くんのお口に合って良かったわ」
紗奈M「(苦笑いしながら)なんか、あの隆さんの息子さんとは思えない人。本心がよく分からないし、なんというか……、ふてぶてしい」
紗奈、自分の空になったコップに麦茶を入れる。隆のコップも空なのに気付き、
紗奈「あ、隆さん! 麦茶飲みます?」
隆「あぁ、ありがとう! 紗奈ちゃんは本当に気が効くね」
リビングの棚の上に、結婚1周年パーティーで撮った3人の写真が飾られている。
亮、ちらっと冷めた目で見てから、ご飯を食べる。
紗奈の母「狭くて申し訳ないんだけど、部屋は2部屋しかないから、私と紗奈、隆さんと亮くんの組み合わせで使ってもらうわね」
亮「2部屋しかないんだー。分かった、おばさんありがとうー」
紗奈M「この人と仲良く1週間暮らせるかな」
○学校・教室(放課後)
壮平、紗奈の席まで来て、
壮平「ごめん紗奈、今日、田中先生んとこ寄ってくから、先帰ってて!」
紗奈「分かった! また明日!」
壮平「あいつって、もうこの時間家いるの?」
紗奈「あいつ? (苦笑いしながら)……あぁ、亮さんね。どうかなぁ。大学生だし忙しいから、まだ帰ってきてないんじゃないかな? ちょっと掴み所のない人だよね」
壮平「いや、ちょっとどころじゃなくて、だいぶ変わってるぞ? あいつ」
紗奈「はは。今まで連れ子同士の再婚ってしたことなかったから、私もどう接すればいいのかよく分からないや。まぁ、1週間だし仲良くやるよ」
壮平「なんかあったらすぐ呼べよ。……あー、心配だー」
紗奈「ありがとう」
○住宅街・路上(下校中)
家に向かい歩いている紗奈。
紗奈M「今日は、数学から勉強しよう! なんか最近、上林大学に行ける気しかしない!」
紗奈、晴れやかな表情で公園の前を通る。
亮「あれ? 紗奈ちゃんじゃーん!」
公園の小さな柵に亮とその友人3名が腰掛けている。ピアスを開けていたり、ストリート系のファッションをしている友人たち。
紗奈「(にっこり笑いながら)ど、どうも」
紗奈M「えー! 怖めのお兄さんたち……。あんまり絡みたくないな」
紗奈「じゃあ」
紗奈、満面の作り笑顔を向けて、立ち去ろうとする。
友人A「えー、めっちゃ可愛い!」
友人B「本当に妹いたんだ。現役JKじゃん! やばー」
友人C「え、妹ちゃんと一緒に遊びたい!」
亮「うち来る?」
紗奈M「(青ざめた顔で)え!? ……今なんて?」
○紗奈の自宅・リビング
ソファや床でくつろいでいる亮たち4人。立ち尽くす紗奈。
紗奈M「なんだろう、この光景……。まるで不良の溜まり場!!」
友人A「あー、ソファ最高!」
友人B「あー、酒飲みてぇー」
友人C「昼だろまだ! でも飲んじゃうか? 買ってきたやつ! 昼飲みサイコー!」
紗奈M「え! うち、不良の溜まり場になっちゃったの!? ……帰りたい。あ、ここうちなんだった……。はぁ〜。ここはこっそり退散しよう」
紗奈、忍足で自分の部屋へ向かう。
亮「紗奈ちゃん、どこ行くの? 1週間しかお兄ちゃんいないんだから、家にいるときくらい仲良くしようよ」
× × ×
時間経過。
紗奈、ソファの真ん中に座り、亮たちに囲まれながら麦茶を飲んでいる。
友人A「てか、紗奈ちゃんモテるでしょ? 可愛すぎるもん!」
紗奈「いや〜、そんなことは……」
友人B「俺が同級生だったら告ってるね!」
友人C「(手を上げながら)俺も俺も〜!」
紗奈M「(呆れて苦笑いしながら)いやだ、酔っ払い」
友人B「制服が萌えるよね、戻りてぇ、高校生! あ、酒ねぇじゃん。買ってこよーぜ」
亮「コンビニの場所、分かんねぇだろ。俺も行く」
友人C「俺もタバコ買いに行く!」
紗奈M「ホッ。 その隙に部屋に戻ろう!」
友人A「俺いるわ。いってらっしゃーい!」
友人Aをじっと見る亮。
紗奈M「え、行かないの?」
友人Aを凝視する紗奈。視線に気付き、紗奈に向かってニコッと笑う友人A。
× × ×
時間経過。
紗奈と友人Aの2人きりのリビング。
友人A「ごめんね? 紗奈ちゃんの家なのにうるさかったよね。しかも初対面で」
紗奈「いえ……」
友人A「紗奈ちゃん今、高3なんだよね? どこ大行きたいの?」
紗奈「上林大学目指してます」
友人A「すっげー、紗奈ちゃん頭いいんだね」
紗奈「亮さんたちはどこ大なんですか?」
友人A「あ、俺らは青町大!」
紗奈「頭いいじゃないですか! 親友もそこ目指してるんですけど、問題が独特で難しいって言ってました」
友人A「そうなんだよね〜、特に数学の問題が変にこだわっててさ! でも、過去問10年分×5回解いたら、だんだん掴めてくるから大丈夫だよってお友達に言っておいて!」
紗奈「そうなんですね、ありがとうございます!」
友人A「あ、俺、康二。なんかT大のことで聞きたいことあったらいつでも言ってね」
紗奈「(にっこりしながら)ありがとうございます。なんか、過去問50回も解いてたこと聞いたら、康二さんのイメージ変わりました」
康二「え、それいい意味?」
紗奈「ははは。いい意味です」
康二「第一印象良くなかったってこと!?」
紗奈「(笑いながら)まぁ、はい。不良に家に溜まられて終わったと思ってました」
康二「なんだよ、紗奈ちゃん! 結構言うじゃん!」
紗奈「ははは。亮さんも話すと、康二さんに似てますか? 私、ほとんど喋ったことがなくて」
康二「亮はあのまんまだよ。図々しいっていうか、良く言えば懐に入るのが上手いというか。でも、人の中にはズケズケ入るくせに、自分のことになると急に一線引いたりするから、本音が分かんなかったりする不思議なやつ」
紗奈「ふーん」
康二「気になる?」
紗奈「まぁ。どんな人なのかなーって」
○紗奈の自宅・リビング(夜)
紗奈、紗奈の母、隆、亮の4人で食卓で夜ご飯を食べている。
隆「亮は今日、何時に帰ってきてたんだ」
亮「んー? 親父が帰ってくる数分前」
紗奈M「嘘です!」
隆「勉強忙しいのか?」
亮「めーっちゃ忙しい。遊ぶ暇ない。頑張ってるからドレックスの時計買って〜」
隆「無事就職できたら、考えてもいいぞ」
亮「チッ、けち〜」
亮、煮物を口にする。
亮「ん! 今日の煮物ちょっとしょっぱいかも、おばさん」
紗奈の母「あら、ごめんねぇ。お醤油入れすぎちゃったかしら!」
亮「そうかも〜」
隆「亮! 一生懸命作ってくれたんだ、そんなこと言うな!」
紗奈の母「いいのよいいのよ、本当にちょっとしょっぱいから!」
沈黙が流れる食卓。
紗奈「そ、そういえば、駅前に美味しいベーグル屋さんできたの知ってますか? すごく有名なベーグル屋さんらしくて、友達が分けてくれたの食べたら美味しかったんで、今度みんなで食べましょ〜!」
紗奈、笑顔で必死に会話をする。
亮「俺、ベーグル固くて好きじゃないからいらない〜」
隆「亮!」
隆、怒鳴る。
紗奈「いいんです、いいんです! ベーグルって好み分かれますもんね! 焼き菓子も売ってるんで、亮さんにはそっち買ってきますね!」
紗奈、にっこり笑う。
亮「俺、先風呂もらうね〜」
亮、立ち上がってリビングを去る。
隆「紗奈ちゃん、ごめんねぇ」
紗奈「いえいえ! 全然気にしてません! 男の人ってあんまりそういうの興味ないですもんね! いいんですいいんです! あ、お母さん、この煮物、私は好きだよ!」
紗奈の母、眉毛を下げながら微笑む。
亮、洗面所の内側のドアの前に立って話を聞いている。
