○紗奈の自宅・紗奈の部屋
「ガチャ」玄関が開く音がする。
紗奈、慌てて模試の結果の用紙を2つ折りにし、元の場所に戻す。
壮平、部屋に入ってローテーブルの前に座る。
壮平「じゃ、続きやるかー」
紗奈「う、うん」
紗奈、勉強を始める壮平の顔をチラッと見つめる。
真剣な顔で参考書を見る壮平。
紗奈M「壮平、上林大学に行くの無理してる?」
○紗奈の自宅・紗奈の部屋・朝(夏休み中)
紗奈、布団の中でうずくまる。
紗奈「うー、眠い。出たくないー」
紗奈、目を閉じる。
紗奈、再び目を開けて飛び上がり、
紗奈「ダメだダメだ、家にいると集中できない! 学校の図書館に行こう!」
○学校・昇降口(夏休み中)
制服姿の紗奈、下駄箱に向かう。
南沢の声「あれ? 紗奈ちゃん?」
紗奈、後ろを振り返ると南沢がいる。
紗奈「え、先輩! なんでここに?」
南沢「今大学が夏休みだから帰省してて、ちょっと宮澤先生にでも顔出そうかなと思って」
髪が伸び、ピアスをして大人っぽくなっている南沢。
紗奈「なんかもう、大学生って感じですね。大学は楽しいですか?」
南沢「めっちゃ楽しい! 紗奈ちゃんの応援のおかげかな?」
紗奈「はは! なら良かったです」
南沢「紗奈ちゃんは勉強?」
紗奈「あ、はい。家だと集中できなくて」
南沢「受験生だもんね。あ、そういえば壮平もこの間、うちのオープンキャンパスに来てたな。俺が慶智大学だって知らなかったから、偶然会った時はすごーく嫌な顔されたけど」
紗奈「……慶智大学?」
× × ×
(フラッシュ)
「第一志望 慶智大学 法学部 C判定」
「第二志望 早院大学 法学部 B判定」
「第3希望 教央大学 法学部 B判定」
× × ×
南沢「紗奈ちゃんも慶智大学志望なの?」
紗奈「いや、私は違います」
南沢「なんだー、紗奈ちゃんも一緒に来るのかな〜って期待しちゃった」
紗奈「ははは」
上手く笑えていない紗奈。
○学校・図書館
紗奈、1人で図書館の席に座り参考書を開いているが、ぼーっとしている。
× × ×
(フラッシュ)
南沢「受験生だもんなぁ。あ、そういえば壮平もこの間、うちのオープンキャンパスに来てたな。俺が慶智大学だって知らなかったから、偶然会った時はすごーく嫌な顔されたけど」
× × ×
紗奈、ハッとして、
紗奈M「集中、集中!」
勉強を始める紗奈。
○紗奈の自宅・リビング・花火大会当日
母親に浴衣を着付けしてもらっている紗奈。
紗奈の母「よし! これで完璧! 可愛いよ!」
紗奈「ありがとう〜!」
髪をアップにし、浴衣姿の紗奈。
紗奈の母「壮ちゃんに喜んでもらえるといいわね!」
紗奈「え!?」
紗奈の母「(ニヤニヤしながら)付き合ったこと、知らないとでも思ってたの? 2人の様子見てたら分かるわよ、母親だもの」
紗奈「知ってたなら言ってよー!」
くすくす笑う紗奈の母。
紗奈の母「壮ちゃんが彼氏だったら、お母さんも安心。絶対離しちゃダメな人よ!」
紗奈「うん。知ってる」
紗奈、俯く。
紗奈「じゃあ、行ってきまーす」
○紗奈の自宅前
玄関から浴衣姿で出てくる紗奈。
目の前で待っていた壮平が、口を開けて紗奈を見つめる。
紗奈「(照れながら)お、お待たせ〜」
壮平、手のひらで自分の口元を押さえ、照れる。
壮平「……まじで可愛い」
紗奈「ほんと?」
壮平「誰にも見られたくない。家帰る?」
紗奈「え、ちょっと今出たばっかりだよ〜!」
紗奈、笑いながら壮平の腕を組む。
紗奈「(上目遣いで)行こ?」
壮平「……おう」
頭を掻く壮平。
○河原・花火大会会場(夕方)
陽介と浴衣を着ている恵が立っている。
紗奈「あ! いたいた! やっほ〜!」
手を振る陽介と恵。
恵「なんか久しぶり! 終業式ぶりじゃない?」
陽介「確かに! もう勉強飽きたよ、早く受験終われ〜」
恵「ねぇ! 花火までまだ時間あるし、屋台見に行かない?」
紗奈「行く!」
屋台の通りを歩く4人。
恵「あ! 射的あるよ! やりたい!」
片目を瞑って射的をやり、お目当ての大きなお菓子セットを当てる。
壮平「俺もやりたい!」
紗奈「壮平、射的好きだもんね!」
壮平、目を瞑って射的をやる。
同級生A「え! 陽介? てか、ダブルデート!?」
後ろから男3人組の同級生が声をかける。
陽介「あぁ、いいだろ。羨ましいだろ〜」
同級生B「青春しやがってさ! 俺らだって来年彼女いる予定だもんな?」
同級生C「そうそう、全然羨ましくない! 男同士の方が楽しいから敢えてつるんでるだけ!」
恵、苦笑いする。
同級生たち「じゃあな! また2学期!」
笑顔で別れる。
壮平「あ、紗奈。りんご飴あるぞ。食うか?」
紗奈「(笑顔で)うん!」
壮平「隣にクレープ屋もあるぞ。模試のご褒美でどっちも買ってやる!」
紗奈「(キラキラした笑顔で)いいの?」
恵、陽介に向かって、
恵「本当に青山くんって、紗奈に甘々だよね」
陽介「別人かと思うくらい俺には厳しいけどね」
目を合わせながら笑顔で歩く紗奈と壮平。
× × ×
時間経過。
河原にシートを広げて座り、花火の時間まで待っている4人。
陽介「そういえば、みんな模試の判定どうだった?」
恵「私は青町大学がB判定! 秋までにはAに行きたいなぁ」
紗奈「同じ! 私も上林大学、B判定だった! 頑張ろうね〜」
陽介「壮平は? 上林大学、何判定だったの?」
壮平「……Aだけど」
紗奈、暗い表情で俯く。
陽介「やっぱ、壮平は頭いいな〜。俺は明習大学がC判定。どうしよっかな〜」
恵「ていうか、紗奈と青山くんは県外組だから、来年はこうやってなかなか会えなくなるねぇ。なんか今この瞬間ってすごく貴重なんだね」
壮平「あぁ、そうだな」
俯く紗奈。
紗奈「……私、そこの自販機で飲み物買ってくる!」
紗奈、立ち上がる。
壮平「俺も行くよ」
紗奈「すぐそこだから待ってて! ありがとう」
すぐに立ち去る紗奈。見つめる壮平。
人混みの中を涙目になりながら歩く紗奈。
紗奈M「なんで? なんで? なんで、壮平は本当のことを言ってくれないの?」
自動販売機を通り越して、人混みの中を歩き続ける。
紗奈M「本当は慶智大学に行きたいの? 本当のことを言ってよ、壮平」
通行人に下駄を踏まれ、転ぶ紗奈。
膝から血が出て、痛がる。
転んでひざまずいた姿勢のまま、脱げた右足の下駄を探そうとするが、人混みで紛失する。
すれ違う人たちが紗奈を見ていく。
紗奈、大粒の涙を流しながら、ひとけのない影の方へ歩く。
ベンチに座り、肩をひくひくさせながら泣く紗奈。
若い男が1人近寄ってくる。
若い男「お姉ちゃん、どうしたの? 転んでいたかったの? 手当てするから俺の車乗りな?」
紗奈、血相を変えて固まる。
若い男、紗奈の手首を無理矢理つかんで引っ張る。
紗奈M「怖い。怖い。どうしよう。声も出ない。体も動かない」
若い男「そんなに怖がらなくて大丈夫だよ。可愛いね」
紗奈M「……壮平たすけて!」
壮平「てめー、なにしてんだよ!」
壮平が現れる。
若い男「あ? お前には関係ないだろ!」
壮平「関係ないのはお前だろ! 今すぐ失せろ!」
若い男「は? やんのかてめー」
壮平「警察呼んだんで」
若い男「は? おっ、俺、何もしてねーだろ。なぁ? お姉ちゃん……」
若い男、作り笑いで紗奈に同意を求める。
紗奈、大粒の涙を流す。
若い男「俺は……、た、助けようとしただけだから、な? じゃあ、帰るわ!」
若い男、挙動不審に去る。
壮平「紗奈、大丈夫か!」
壮平、紗奈を抱きしめる。
壮平「怖かったな。もう大丈夫だからな。俺がいるから」
壮平、体を離し、紗奈の顔を見る。
紗奈の涙を親指で拭う。膝のあたりが血だらけになっている浴衣と裸足の右足に気づく。
壮平「これ、どうしたんだよ! まさかあの男……!」
紗奈「違う! 人混みで自分で転んだの」
壮平「そうか、痛かったな。ハンカチあるか?」
紗奈「うん」
紗奈、巾着からハンカチを取り出す。
壮平、紗奈の前に立膝をつく。紗奈の浴衣をめくり、流血している膝にきつくハンカチを結ぶ。
壮平、止血を終えて紗奈の隣に座る。
壮平「どうして、すぐに戻ってこなかった?」
紗奈「……」
壮平「なんかあった? 俺には言えないことか?」
俯く紗奈。
壮平「俺には何でも言えよ」
紗奈、キリッと壮平の顔を見て、
紗奈「私にだってなんでも言って欲しかったよ……」
壮平、不思議そうに見返す。
紗奈「慶智大学、行きたいんでしょ?」
壮平、紗奈を見つめたまま。
紗奈「模試の判定、見ちゃったんだ。志望大学に上林大学が入ってなかった。それに、慶智大学のオープンキャンパス、行ったんでしょ? たまたま学校で南沢先輩に会った時に聞いた。……なんで言ってくれないの?」
壮平、地面を見ながら、
壮平「上林大学は、安全圏なのは分かってたからわざわざ書かなかった。ただ、俺の学力がどの程度のものなのか試してみたくて慶智大学を書いただけ。オープンキャンパスも試しに行ってみただけだから、気にすんな」
壮平、微笑む。
紗奈「本当のこと言いなよ。私に気を遣ってるの? それなら間違ってる。自分の人生、自分で決めなきゃダメだよ! いつも壮平は正しいけど、これだけは間違ってる!」
紗奈、怒りながら話す。
壮平、空を見上げる。
壮平「俺も分かんないんだ。慶智大学の法学部は正直めっちゃ興味ある。カリキュラムも充実してて、周りの奴らのレベルも高いから、学ぶには良い環境だと思ってる。それは本当。でもさ……、俺の人生の真ん中には紗奈がいるんだ。紗奈がいないと意味ないし、俺にとっての進路は紗奈なんだ」
紗奈「壮平、前にお父さんのお家に泊まった時、言ってくれたよね? お互いやりたいことがあって一緒にいられないなら、一緒にいられる方法を、納得するまで話し合えばいいって。俺を信じろって。私のことは信じられない? 信じてよ! いつも私ばっかり背中押されてるんだから、1回くらい、私にも背中押させてよ!」
壮平、俯く。
紗奈「壮平、ずっと大好きだよ。テレビ電話だって出来るし、夜行バス使ったら安いんだよ。大学卒業したら同棲しようよ! 楽しみが先延ばしになっただけ! 私は、壮平に慶智大学に行って欲しい!」
しばらくの沈黙。
壮平「紗奈……。ごめんな。俺……、慶智大学に行って、めっちゃ勉強して、弁護士なって、紗奈と早く結婚する」
紗奈「(切ない笑顔で)そっちの方が壮平らしいよ! 早く迎えに来てよね!」
壮平、ズボンのポケットの中をゴソゴソ探す。
壮平「紗奈、左手出して」
紗奈「え? 左手?」
紗奈、左手を壮平に向けて出す。
壮平、偽物の大きな丸い宝石がついたおもちゃの指輪を紗奈の左手薬指にはめる。
紗奈「(壮平の顔を見ながら)え!?」
壮平「結婚してください。一生大切にする」
紗奈、涙目になる。
紗奈「……はい」
紗奈と壮平、見つめ合い、笑う。
紗奈「てか、これどこで買ったの? 可愛い」
紗奈、指輪を触ってクスッと笑う。
壮平「紗奈にあげたくて、さっき射的で取ったんだ。今はこんなんだけど、弁護士なったら、えげつないダイヤの指輪贈るから待ってろ」
壮平、ニヤッと笑う。
紗奈「ううん、 これが1番いい! 一生大切にする!」
壮平「おい、俺のプロポーズパクるな」
紗奈「ははは」
「ドーン」花火が上がる音。
壮平「あ、花火」
夜空に上がるたくさんの花火。
紗奈「きれーい」
2人で夜空を見上げる。
壮平「てか、こんなに綺麗に見えるのに誰もいないぞ?」
紗奈「穴場見つけちゃったね。ここまで歩いてきて良かった」
壮平「(呆れた顔で)お前、調子乗んなよ。切り替え早ぇーな、おい」
紗奈「あ、そういえばさっき警察呼んだって……」
壮平「あー、あれ嘘嘘。猛烈に殴りたかったけど、警察沙汰になりたくなかったから、穏便に済ませた」
紗奈「ありがとう。壮平たすけてって思ってたら本当に来てくれたんだよ。やっぱり、壮平ってすごい」
壮平「まぁ、紗奈の行動はだいたい読める」
紗奈「(にっこりしながら)じゃあ、大学が離れても安心だ」
壮平「おう。紗奈に何かあったらいつでも駆けつけるから安心しろ! まぁ、その前にまず2人ともちゃんと大学受かんなきゃな」
紗奈「そうだね。あ、恵たち、心配してるよね。戻らなきゃ!」
壮平、紗奈の手首を掴む。
壮平「もう少しこのままでいたい」
壮平、紗奈の目を真っ直ぐ見つめる。
紗奈「(頬を赤らめて)……うん」
「ドンドーン」たくさん打ち上がる花火。
紗奈と壮平、手を繋ぎながらベンチに座って空を見上げる。
紗奈M「私たちは、きっとこれからも壁にぶつかるだろう。それでも、その度にこうやって向き合って、一緒に人生を歩んでいきたい」
「ガチャ」玄関が開く音がする。
紗奈、慌てて模試の結果の用紙を2つ折りにし、元の場所に戻す。
壮平、部屋に入ってローテーブルの前に座る。
壮平「じゃ、続きやるかー」
紗奈「う、うん」
紗奈、勉強を始める壮平の顔をチラッと見つめる。
真剣な顔で参考書を見る壮平。
紗奈M「壮平、上林大学に行くの無理してる?」
○紗奈の自宅・紗奈の部屋・朝(夏休み中)
紗奈、布団の中でうずくまる。
紗奈「うー、眠い。出たくないー」
紗奈、目を閉じる。
紗奈、再び目を開けて飛び上がり、
紗奈「ダメだダメだ、家にいると集中できない! 学校の図書館に行こう!」
○学校・昇降口(夏休み中)
制服姿の紗奈、下駄箱に向かう。
南沢の声「あれ? 紗奈ちゃん?」
紗奈、後ろを振り返ると南沢がいる。
紗奈「え、先輩! なんでここに?」
南沢「今大学が夏休みだから帰省してて、ちょっと宮澤先生にでも顔出そうかなと思って」
髪が伸び、ピアスをして大人っぽくなっている南沢。
紗奈「なんかもう、大学生って感じですね。大学は楽しいですか?」
南沢「めっちゃ楽しい! 紗奈ちゃんの応援のおかげかな?」
紗奈「はは! なら良かったです」
南沢「紗奈ちゃんは勉強?」
紗奈「あ、はい。家だと集中できなくて」
南沢「受験生だもんね。あ、そういえば壮平もこの間、うちのオープンキャンパスに来てたな。俺が慶智大学だって知らなかったから、偶然会った時はすごーく嫌な顔されたけど」
紗奈「……慶智大学?」
× × ×
(フラッシュ)
「第一志望 慶智大学 法学部 C判定」
「第二志望 早院大学 法学部 B判定」
「第3希望 教央大学 法学部 B判定」
× × ×
南沢「紗奈ちゃんも慶智大学志望なの?」
紗奈「いや、私は違います」
南沢「なんだー、紗奈ちゃんも一緒に来るのかな〜って期待しちゃった」
紗奈「ははは」
上手く笑えていない紗奈。
○学校・図書館
紗奈、1人で図書館の席に座り参考書を開いているが、ぼーっとしている。
× × ×
(フラッシュ)
南沢「受験生だもんなぁ。あ、そういえば壮平もこの間、うちのオープンキャンパスに来てたな。俺が慶智大学だって知らなかったから、偶然会った時はすごーく嫌な顔されたけど」
× × ×
紗奈、ハッとして、
紗奈M「集中、集中!」
勉強を始める紗奈。
○紗奈の自宅・リビング・花火大会当日
母親に浴衣を着付けしてもらっている紗奈。
紗奈の母「よし! これで完璧! 可愛いよ!」
紗奈「ありがとう〜!」
髪をアップにし、浴衣姿の紗奈。
紗奈の母「壮ちゃんに喜んでもらえるといいわね!」
紗奈「え!?」
紗奈の母「(ニヤニヤしながら)付き合ったこと、知らないとでも思ってたの? 2人の様子見てたら分かるわよ、母親だもの」
紗奈「知ってたなら言ってよー!」
くすくす笑う紗奈の母。
紗奈の母「壮ちゃんが彼氏だったら、お母さんも安心。絶対離しちゃダメな人よ!」
紗奈「うん。知ってる」
紗奈、俯く。
紗奈「じゃあ、行ってきまーす」
○紗奈の自宅前
玄関から浴衣姿で出てくる紗奈。
目の前で待っていた壮平が、口を開けて紗奈を見つめる。
紗奈「(照れながら)お、お待たせ〜」
壮平、手のひらで自分の口元を押さえ、照れる。
壮平「……まじで可愛い」
紗奈「ほんと?」
壮平「誰にも見られたくない。家帰る?」
紗奈「え、ちょっと今出たばっかりだよ〜!」
紗奈、笑いながら壮平の腕を組む。
紗奈「(上目遣いで)行こ?」
壮平「……おう」
頭を掻く壮平。
○河原・花火大会会場(夕方)
陽介と浴衣を着ている恵が立っている。
紗奈「あ! いたいた! やっほ〜!」
手を振る陽介と恵。
恵「なんか久しぶり! 終業式ぶりじゃない?」
陽介「確かに! もう勉強飽きたよ、早く受験終われ〜」
恵「ねぇ! 花火までまだ時間あるし、屋台見に行かない?」
紗奈「行く!」
屋台の通りを歩く4人。
恵「あ! 射的あるよ! やりたい!」
片目を瞑って射的をやり、お目当ての大きなお菓子セットを当てる。
壮平「俺もやりたい!」
紗奈「壮平、射的好きだもんね!」
壮平、目を瞑って射的をやる。
同級生A「え! 陽介? てか、ダブルデート!?」
後ろから男3人組の同級生が声をかける。
陽介「あぁ、いいだろ。羨ましいだろ〜」
同級生B「青春しやがってさ! 俺らだって来年彼女いる予定だもんな?」
同級生C「そうそう、全然羨ましくない! 男同士の方が楽しいから敢えてつるんでるだけ!」
恵、苦笑いする。
同級生たち「じゃあな! また2学期!」
笑顔で別れる。
壮平「あ、紗奈。りんご飴あるぞ。食うか?」
紗奈「(笑顔で)うん!」
壮平「隣にクレープ屋もあるぞ。模試のご褒美でどっちも買ってやる!」
紗奈「(キラキラした笑顔で)いいの?」
恵、陽介に向かって、
恵「本当に青山くんって、紗奈に甘々だよね」
陽介「別人かと思うくらい俺には厳しいけどね」
目を合わせながら笑顔で歩く紗奈と壮平。
× × ×
時間経過。
河原にシートを広げて座り、花火の時間まで待っている4人。
陽介「そういえば、みんな模試の判定どうだった?」
恵「私は青町大学がB判定! 秋までにはAに行きたいなぁ」
紗奈「同じ! 私も上林大学、B判定だった! 頑張ろうね〜」
陽介「壮平は? 上林大学、何判定だったの?」
壮平「……Aだけど」
紗奈、暗い表情で俯く。
陽介「やっぱ、壮平は頭いいな〜。俺は明習大学がC判定。どうしよっかな〜」
恵「ていうか、紗奈と青山くんは県外組だから、来年はこうやってなかなか会えなくなるねぇ。なんか今この瞬間ってすごく貴重なんだね」
壮平「あぁ、そうだな」
俯く紗奈。
紗奈「……私、そこの自販機で飲み物買ってくる!」
紗奈、立ち上がる。
壮平「俺も行くよ」
紗奈「すぐそこだから待ってて! ありがとう」
すぐに立ち去る紗奈。見つめる壮平。
人混みの中を涙目になりながら歩く紗奈。
紗奈M「なんで? なんで? なんで、壮平は本当のことを言ってくれないの?」
自動販売機を通り越して、人混みの中を歩き続ける。
紗奈M「本当は慶智大学に行きたいの? 本当のことを言ってよ、壮平」
通行人に下駄を踏まれ、転ぶ紗奈。
膝から血が出て、痛がる。
転んでひざまずいた姿勢のまま、脱げた右足の下駄を探そうとするが、人混みで紛失する。
すれ違う人たちが紗奈を見ていく。
紗奈、大粒の涙を流しながら、ひとけのない影の方へ歩く。
ベンチに座り、肩をひくひくさせながら泣く紗奈。
若い男が1人近寄ってくる。
若い男「お姉ちゃん、どうしたの? 転んでいたかったの? 手当てするから俺の車乗りな?」
紗奈、血相を変えて固まる。
若い男、紗奈の手首を無理矢理つかんで引っ張る。
紗奈M「怖い。怖い。どうしよう。声も出ない。体も動かない」
若い男「そんなに怖がらなくて大丈夫だよ。可愛いね」
紗奈M「……壮平たすけて!」
壮平「てめー、なにしてんだよ!」
壮平が現れる。
若い男「あ? お前には関係ないだろ!」
壮平「関係ないのはお前だろ! 今すぐ失せろ!」
若い男「は? やんのかてめー」
壮平「警察呼んだんで」
若い男「は? おっ、俺、何もしてねーだろ。なぁ? お姉ちゃん……」
若い男、作り笑いで紗奈に同意を求める。
紗奈、大粒の涙を流す。
若い男「俺は……、た、助けようとしただけだから、な? じゃあ、帰るわ!」
若い男、挙動不審に去る。
壮平「紗奈、大丈夫か!」
壮平、紗奈を抱きしめる。
壮平「怖かったな。もう大丈夫だからな。俺がいるから」
壮平、体を離し、紗奈の顔を見る。
紗奈の涙を親指で拭う。膝のあたりが血だらけになっている浴衣と裸足の右足に気づく。
壮平「これ、どうしたんだよ! まさかあの男……!」
紗奈「違う! 人混みで自分で転んだの」
壮平「そうか、痛かったな。ハンカチあるか?」
紗奈「うん」
紗奈、巾着からハンカチを取り出す。
壮平、紗奈の前に立膝をつく。紗奈の浴衣をめくり、流血している膝にきつくハンカチを結ぶ。
壮平、止血を終えて紗奈の隣に座る。
壮平「どうして、すぐに戻ってこなかった?」
紗奈「……」
壮平「なんかあった? 俺には言えないことか?」
俯く紗奈。
壮平「俺には何でも言えよ」
紗奈、キリッと壮平の顔を見て、
紗奈「私にだってなんでも言って欲しかったよ……」
壮平、不思議そうに見返す。
紗奈「慶智大学、行きたいんでしょ?」
壮平、紗奈を見つめたまま。
紗奈「模試の判定、見ちゃったんだ。志望大学に上林大学が入ってなかった。それに、慶智大学のオープンキャンパス、行ったんでしょ? たまたま学校で南沢先輩に会った時に聞いた。……なんで言ってくれないの?」
壮平、地面を見ながら、
壮平「上林大学は、安全圏なのは分かってたからわざわざ書かなかった。ただ、俺の学力がどの程度のものなのか試してみたくて慶智大学を書いただけ。オープンキャンパスも試しに行ってみただけだから、気にすんな」
壮平、微笑む。
紗奈「本当のこと言いなよ。私に気を遣ってるの? それなら間違ってる。自分の人生、自分で決めなきゃダメだよ! いつも壮平は正しいけど、これだけは間違ってる!」
紗奈、怒りながら話す。
壮平、空を見上げる。
壮平「俺も分かんないんだ。慶智大学の法学部は正直めっちゃ興味ある。カリキュラムも充実してて、周りの奴らのレベルも高いから、学ぶには良い環境だと思ってる。それは本当。でもさ……、俺の人生の真ん中には紗奈がいるんだ。紗奈がいないと意味ないし、俺にとっての進路は紗奈なんだ」
紗奈「壮平、前にお父さんのお家に泊まった時、言ってくれたよね? お互いやりたいことがあって一緒にいられないなら、一緒にいられる方法を、納得するまで話し合えばいいって。俺を信じろって。私のことは信じられない? 信じてよ! いつも私ばっかり背中押されてるんだから、1回くらい、私にも背中押させてよ!」
壮平、俯く。
紗奈「壮平、ずっと大好きだよ。テレビ電話だって出来るし、夜行バス使ったら安いんだよ。大学卒業したら同棲しようよ! 楽しみが先延ばしになっただけ! 私は、壮平に慶智大学に行って欲しい!」
しばらくの沈黙。
壮平「紗奈……。ごめんな。俺……、慶智大学に行って、めっちゃ勉強して、弁護士なって、紗奈と早く結婚する」
紗奈「(切ない笑顔で)そっちの方が壮平らしいよ! 早く迎えに来てよね!」
壮平、ズボンのポケットの中をゴソゴソ探す。
壮平「紗奈、左手出して」
紗奈「え? 左手?」
紗奈、左手を壮平に向けて出す。
壮平、偽物の大きな丸い宝石がついたおもちゃの指輪を紗奈の左手薬指にはめる。
紗奈「(壮平の顔を見ながら)え!?」
壮平「結婚してください。一生大切にする」
紗奈、涙目になる。
紗奈「……はい」
紗奈と壮平、見つめ合い、笑う。
紗奈「てか、これどこで買ったの? 可愛い」
紗奈、指輪を触ってクスッと笑う。
壮平「紗奈にあげたくて、さっき射的で取ったんだ。今はこんなんだけど、弁護士なったら、えげつないダイヤの指輪贈るから待ってろ」
壮平、ニヤッと笑う。
紗奈「ううん、 これが1番いい! 一生大切にする!」
壮平「おい、俺のプロポーズパクるな」
紗奈「ははは」
「ドーン」花火が上がる音。
壮平「あ、花火」
夜空に上がるたくさんの花火。
紗奈「きれーい」
2人で夜空を見上げる。
壮平「てか、こんなに綺麗に見えるのに誰もいないぞ?」
紗奈「穴場見つけちゃったね。ここまで歩いてきて良かった」
壮平「(呆れた顔で)お前、調子乗んなよ。切り替え早ぇーな、おい」
紗奈「あ、そういえばさっき警察呼んだって……」
壮平「あー、あれ嘘嘘。猛烈に殴りたかったけど、警察沙汰になりたくなかったから、穏便に済ませた」
紗奈「ありがとう。壮平たすけてって思ってたら本当に来てくれたんだよ。やっぱり、壮平ってすごい」
壮平「まぁ、紗奈の行動はだいたい読める」
紗奈「(にっこりしながら)じゃあ、大学が離れても安心だ」
壮平「おう。紗奈に何かあったらいつでも駆けつけるから安心しろ! まぁ、その前にまず2人ともちゃんと大学受かんなきゃな」
紗奈「そうだね。あ、恵たち、心配してるよね。戻らなきゃ!」
壮平、紗奈の手首を掴む。
壮平「もう少しこのままでいたい」
壮平、紗奈の目を真っ直ぐ見つめる。
紗奈「(頬を赤らめて)……うん」
「ドンドーン」たくさん打ち上がる花火。
紗奈と壮平、手を繋ぎながらベンチに座って空を見上げる。
紗奈M「私たちは、きっとこれからも壁にぶつかるだろう。それでも、その度にこうやって向き合って、一緒に人生を歩んでいきたい」
