永遠の愛なんて信じません!

○アパート・紗奈の自宅前(登校前)

制服姿の佐藤紗奈(高校2年生)、玄関のドアを開けて、アパートの廊下に出る。

紗奈「おはよう」

目の前には、制服姿の青山壮平(高校2年生)が待っている。

壮平「おはよう」

紗奈「あ、そうだ。はじめまして、佐藤紗奈です」

紗奈、ペコリとお辞儀をする。

壮平「あー、昨日籍入れるって言ってたな! いいじゃん、佐藤紗奈!」

壮平、くしゃっと笑う。

紗奈「笑い事じゃないよ、すごいペースで苗字がコロコロ変わるんだから……」

壮平「いいから、笑っとけって!」

紗奈M「私の名前は佐藤 紗奈。高校2年生。母は、昨日4回目の結婚をした」

○(回想)紗奈の自宅

紗奈の母「今回の人は、絶対に大丈夫だから! 本当に優しい人なの、隆さん」

紗奈の母、笑顔の佐藤隆(新しい父親)の写真を見せる。

(回想終わり)

紗奈M「と、言っていたけど、このセリフを聞くのは3回目。正直あてにはしていないけど、そう願っているのは本当」

○電車・車内(登校中)

紗奈と壮平、ドアの前に立っている。
壮平「新しいおじさん、どう?」

紗奈「優しいよ。優しいけど、他人だった人といきなり同居っていうのは、毎回なかなかハードルが高いかな……」

壮平「確かにな。まぁ、しんどくなったら、いつでも俺んち来いよ」

紗奈「うん、ありがとう」

紗奈M「彼の名前は青山壮平。彼も私と同じ高校2年生。壮平は物心ついた時からの幼馴染で、家も隣同士。お互い母子家庭だったこともあって、母親同士助け合って生活を回してきた」

○(回想)保育園時代

紗奈M「私のお母さんが夜勤の時は、壮平のお家で一緒の布団に寝て……」

5歳の紗奈と壮平、トランプで遊んでから同じ布団で一緒に寝ている。

紗奈M「壮平のお母さんに急用ができた時は、私のお家で一緒にごはんを食べた」

5歳の紗奈と壮平、オムライスにケチャップで落書きしている。

(回想終わり)

紗奈M「父親はよく変わったけど、壮平は変わらず隣にいてくれる。私にとって、壮平は家族以上に大切な存在なのかもしれない」

壮平「今回は佐藤か〜、正直面白みはないな。2人目で武者小路(むしゃのこうじ)になったときは、かっこよくて俺もテンション上がったな〜」

壮平、1人で盛り上がって話している。

紗奈「人ごとだからってさ! でも確かに、どうせ変わるなら気に入った苗字が良かったなぁ。“青山”も結構お洒落な苗字じゃない?」

壮平「あ、俺? ……紗奈も将来、青山になるか?」

壮平、真顔で尋ねる。

紗奈「悪くないね〜」

壮平「それ、ちゃんと意味分かって言ってる?」

紗奈「うん、なってみたい苗字の話でしょ? でも春山とか夏川とか、季節がつく苗字も可愛いな」

紗奈、ニコニコしながら1人で盛り上がる。

壮平「気付けよ、馬鹿紗奈」

壮平、機嫌が悪くなる。

紗奈「なんで怒ってるの?」

紗奈、壮平の顔を覗く。顔が近い2人。

その時、電車が大きく揺れる。紗奈、咄嗟に壮平に抱きつく。

壮平、紗奈の体を抱きしめる。

しばらくの間。

紗奈「びっくりした〜! ごめんごめん」

紗奈、抱きついていた腕を離す。

壮平、紗奈に背を向けて無言になる。

壮平M「あっぶねー。理性保て、俺!」

紗奈「ねぇ、壮平?」

壮平「今考え事してる、話しかけないで」

紗奈「壮平、こっち向いてよ!」

壮平「やだね!」

紗奈「さっき掴んだの痛くて怒ってる〜? ごめんって。自分の気持ちは言葉にしないと伝わらないんだぞ〜」

壮平「(紗奈の方を振り返りながら)そんなの俺が1番分かってるわ!」

紗奈「やっとこっち向いた」

紗奈、満面の笑みを浮かべる。

壮平、頭を掻く。

○高校・ベランダ(昼休み)

お菓子を食べながら、手すりに腕をかけて外を見ている紗奈と渡辺恵(高校2年生)。

恵「学校では、苗字は竹内のままなの?」

紗奈「うん。戸籍上は佐藤だけどね。3年生になってクラス替えするタイミングで、佐藤の表記にする予定。まぁ、それまで佐藤だったらだけど」

紗奈、苦笑いする。

恵「これ、食べな!!」

恵、励まそうと紗奈の口の中にお菓子を詰め込む。紗奈、あたふたする。

紗奈M「この子は渡辺恵。壮平以外で唯一苗字が変わったことを知っている友達。中学から同じ学校で、気が置けない存在。」

陽介「恵―!」

太田陽介(高校2年生)、紗奈たちのいる2階のベランダに向かって、外から大声で名前を呼び、大きく手を振る。

恵、微笑んで手を振り返す。

紗奈「(ニヤニヤしながら)恵の彼氏、恵にゾッコンだね」

恵「うーん、むしろ逆かも」

紗奈「え、ノロケ?」

紗奈M「ほんと、お似合いの2人なんだよな」

紗奈、笑顔で紗奈を腕でつつく。笑い合う2人。

恵「あれ? 青山くんじゃない?」

紗奈「どれどれ?」

壮介と見知らぬ可愛い女子生徒、グラウンドの隅の方で向き合って立っている。

紗奈「壮平、なんかあったのかな」

恵「いや、あれは告白だね」

紗奈「え、壮平から!?」

見知らぬ女子生徒、泣きながら走ってどこかへ行ってしまう。

壮平、頭を掻く。

恵「いや、青山くんが告られて、フったみたい」

紗奈「すっごく可愛い子……」

恵「青山くんもモテるね〜」

紗奈、胸がズキっと痛む。

紗奈「痛っ」

恵「どうしたの?」

紗奈「ちょっと心臓が痛くて、動悸が……」

恵「心臓!? 保健室で休みな! 今から一緒に行こう」

紗奈「もう授業始まるから1人で大丈夫、ありがとう」

紗奈、作り笑いをする。

○保健室

紗奈、保健室に入る。誰もいない。

紗奈M「先生いないか。あれ、動悸も治ってる気がする」

誰も使っていないベッド。

紗奈M「でも、授業始まっちゃったし、昨日は一日中、隆さんに気を遣って疲れちゃったから、1コマ分だけ寝ていってもいいよね」

×  ×  ×
時間経過。

紗奈、仰向けで寝ている。

保健室の扉が開く。

南沢蓮(高校3年生)が入ってくる。

南沢「あれ? 先生いない」

南沢、ベッドを囲っているカーテンを開ける。

まつ毛の長い綺麗な寝顔の紗奈。

南沢、紗奈の美しさに口が開いたまま静かに感動している。

×  ×  ×
時間経過。

紗奈「ん、ん……」

紗奈、目を覚まして上体を起こす。

南沢、ベッドの隣の椅子に座った状態で、紗奈の布団にもたれかかって寝ている。

紗奈「(ぎょっとしながら)……誰?」

紗奈、南沢と手を繋いでいることに気付く。

紗奈「きゃっ!」

紗奈、手をほどく。

南沢「あ、おはよ」

南沢、目を覚ましてニコッと笑う。

紗奈「(顔を赤くしながら)私たち、その、なんで手を繋いで……」

南沢「あー、覚えてない? じゃあ、キスも覚えてないんだ?」

紗奈「キ、キス!? え……、なんで…、え……?」

紗奈、顔を赤くしながらあたふたする。

南沢、紗奈の髪を耳にかける。

南沢「綺麗な髪」

南沢、紗奈の顔に近づき、じーっと見つめる。

紗奈「え、いや、その……。ちょっと……え?」

あたふたする紗奈。

「シャッ!!」ベッドを囲っているカーテンが開く音がする。

壮平「(キレた顔で)紗奈!」

紗奈「(顔を赤くして困った表情で)壮平!」

壮平「離せよ!」

壮平、紗奈の髪を触っている南沢の手を払う。

南沢「あれ? 壮平の彼女だった?」

壮平「ちげーよ。けど、そこどけろ」

南沢「(ひょうひょうとした態度で)だったら関係ないよね。あと、俺一応、お前の先輩。敬語使えよ」

南沢、壮平の頭をポンポンして立ち去ろうとする。

南沢「あ、楽しかったね。またね」

南沢、保健室の扉のところで振り返り、紗奈に手を振る。

○廊下

南沢「紗奈ちゃんっていうんだ」

○保健室

壮平、先ほどまで南沢が座っていた椅子に座る。

壮平「(すごい剣幕で)大丈夫か! 何された!」

紗奈「(困った様子で)私も分からない……。起きたら手を繋いでて……」

(回想)

南沢「あー、覚えてない? じゃあ、キスも覚えてないんだ?」

(回想終わり)

紗奈、顔が一気に赤くなる。

壮平、それを見てカッとなる。

紗奈「……それだけ」

壮平「はぁー(深いため息)」

壮平、紗奈が入っている布団の上に上体をもたれかかる。

壮平「もー最悪。お前も隙見せんなよ」

壮平、冷静を取り戻して優しい顔で話す。

紗奈「心配かけてごめん」

壮平「いや、紗奈が悪くないのは分かってる。責めてごめん。……まじで、それ以上のことはされてないんだよな?」

紗奈「うん。大丈夫!」

壮平「あー、まじで許さねー。あいつ……」

紗奈「知り合い?」

壮平「俺がサッカー部だった頃の先輩」

紗奈M「壮平はサッカーが大好きで、中学までずっとやってきた。高校に入学した時も、サッカー部に入ったけど、家計が苦しくなってバイトを始めるために、3ヶ月で退部した」

紗奈、悲しい顔をする。

紗奈「なんていう人?」

壮平「紗奈は知らなくていい。ていうか、記憶から抹消しろ。あー、まじ許さねー」

紗奈「私の代わりに怒ってくれてありがとう」

紗奈、微笑みながら壮平の頭を撫でる。

壮平、照れて顔だけ背ける。

紗奈「そういえば、なんで壮平がここにいるの?」

壮平「渡辺が、紗奈が保健室から帰ってこない、荷物も取りに来ないって心配してて、委員会があってどうしても行けないから俺に行けないかって」

紗奈「恵……。え!? 今何時!?」

壮平「もう午後の授業も終わって、今放課後だぞ」

紗奈「私そんなに寝てたんだ、恥ずかしい……」

壮平「ほら、帰るぞ」

壮平、教室から持ってきた紗奈の荷物を手に取る。

紗奈「いいよ、今日教科書たくさん入ってて重いから!」

壮平「病み上がりなんだろ? 道中倒れられても困るから」

紗奈「もう大丈夫だっ…」

壮平「(食い気味に)ほら行くぞ」

壮平、紗奈のかばんを持って保健室の扉へ向かい始める。

紗奈、嬉しそうに微笑む。

○紗奈の家・洗面所(夜)

紗奈、鏡を見て、唇を触る。

紗奈「本当にしちゃったのかな。私のファーストキスだったんだけどな〜」

紗奈、激しく落ち込む。

紗奈「まぁ、私が覚えてなければ無効だよね。ていうか、あの人は誰!? あの時はびっくりしすぎて何も言えなかったけど、今になって怒りが込み上げてきた! なんでキスされなきゃいけないの!」

紗奈の母「え! キスされたの?」

紗奈の母、洗面所の扉からニヤニヤした顔を覗かせる。

紗奈「え!? お母さん、いつ帰ってきてたの?」

紗奈の母「さっき! (ニヤニヤしながら)それより相手は?」

紗奈「知らない!」

紗奈の母「壮ちゃんでしょ〜。壮ちゃんに聞いてみよっと!」

紗奈「(必死に)壮平じゃない! 壮平には絶対に言わないで!」

紗奈の母「あら、そうなの? あなたたちいつかはくっつくと思ってたんだけど」

紗奈「壮平とはそういう関係じゃないから! とにかく壮平には絶対に内緒だよ!」

紗奈M「壮平にバレたら、あの先輩、殺されちゃうよ」

紗奈、逃げるように自分の部屋にこもる。

○紗奈の部屋(夜)

紗奈、布団に仰向けになって寝そべる。

紗奈M「壮平は誰よりも大切な人だ。だからこそ、大切なままの存在でいてほしい。父親は何回変わっても平気だけど、壮平だけは失いたくない。どうか、ずっとこのままの関係が続きますように」

○学校・教室(朝)

朝のホームルームの時間。

担任「進路希望調査票配りまーす。まだ君たちは2年生だけど、来年を見据えて大きな目標を立てることが大切です。これを機会に、色々な学校をリサーチするように!」

紗奈、配られた進路希望調査票を見つめる。

○学校・教室(昼休み)

紗奈と恵、隣同士の席に座ってお弁当を食べている。

紗奈「……恵はどこの大学に行きたいとか、決まってるの?」

恵「うーん、家から通える青町大学かなぁ。もうちょっと私のレベルを上げないと行けないんだけどね。紗奈は?」

紗奈「……私も決まってる。上林大学」

恵「すごい、上林大学!? でも、紗奈なら入っちゃいそう」

紗奈「(苦笑いしながら)いや、1学期の模試の結果は悲惨だったよ」

恵「まだ時間はあるしね、これからよ!」

紗奈「うん」

壮平「紗奈ー!」

壮平、教室の扉のところから大声で呼んでいる。

近くの女子生徒たちが、壮平をチラチラ見ている。

女子生徒A「2組の青山くんだ! ほんとにカッコいいよね!」

女子生徒B「竹内さんと仲良いよね、付き合ってるのかな」

女子生徒A「えー、でも幼馴染って聞いたよ?」

紗奈、女子生徒たちの様子を気にしながら、小走りでかがんで壮平の元へ向かう。

紗奈「(小声で)どうしたの?」

壮平「現代文の教科書忘れたから、貸してくんね?」

紗奈「ごめん。今日現代文の授業なかったから、教科書も持ってきてない」

壮平「まじか、他のクラスの奴に聞いてみるわ! あ、まだお弁当食べてる?」

紗奈「うん」

壮平「卵焼きちょーだい! 紗奈の作った卵焼き、ウマいんだよね」

周囲の女子生徒たち、壮平のことを見ている。

紗奈「(小声で)壮平目立つし、他の女の子たちに壮平と付き合ってるって勘違いされちゃうからさ……。また今度、卵焼き作ってお家に持っていくよ!」

壮平「別に勘違いされてもよくね? 俺は紗奈の卵焼きが食べたいだけなんだけど」

紗奈「(小声で)ほんとごめん、そういう訳には」

壮平「くだらね」

壮平、不機嫌になって自分のクラスに戻る。

紗奈、自分の席に戻る。

紗奈「はぁ、なんか最近、壮平を怒らせてばっかりな気がする。ただ仲良く過ごしたいだけなんだけどな」

恵「(独り言)……まぁ、青山くんの気持ちも分からんことはないけど」

恵、苦笑いする。

紗奈「ん? 何か言った?」

恵「ううん、食べよー。あ、青山くんがそんなに欲しがった卵焼き、食べてみたい!」

紗奈「いいよー、でも全然普通の卵焼きなんだけどね」

卵焼きを箸で食べる恵。

恵「おいし〜!」

紗奈「え? 本当? やったー!」

笑い合う2人。

○紗奈の家・浴室(夜)

紗奈、お気持ちよさそうに風呂に浸かる。

紗奈「ふ〜。気持ちいい〜♪」

紗奈、上機嫌で浴室を出る。

それと同時に隆、トイレから出る。

トイレと浴室が、洗面所を通して繋がっている空間。

裸の紗奈と隆が鉢合わせする。

紗奈「きゃー!」

紗奈、大声で叫ぶ。