──貴方に伝えたかった、たった一言。

「……ひめの………んぱい………」

ん?誰かが私を呼んでる?

「樋目野先輩!いつまで寝てるんすか!」

私はどこかのソファで寝ていたようだ。

「あれ?…ここは?」とずりっと落ちた眼鏡をあげながら訊く。

「なに寝ぼけてんですか。会社ですよ。全く…」

あぁ……そういえば……やっと絵を完成させて眠っちゃったのか……。

「加島(かじま)くん…何時間くらい…寝てた?」

「十二時間ですよ。長過ぎるんですよ……」

寝起きで頭がまわらない……。

「全国美術展に毎年作品を出すような人が十二時間も寝るなんて……」

そんなに寝たっけな……。

「『あの海辺で貴方と見た天の川』……綺麗に描けてますね」と加島くんは、私の作品をまじまじと見ていた。

その瞬間。

桜のミンサー指輪と星のミンサー指輪が少し光って見えた。

スマホを見ると午前九時だった。

加島くんが「どーぞ」と言ってアイスコーヒーを作ってくれた。

「久しぶりに昔の夢見てたんだ」とソファから体を起こしてアイスコーヒーを口にする。

「それはどんな夢だったんですか?」と隣に座って、同じアイスコーヒーを、飲んでいた。

「昔の夢。高校一年から二年くらいの夢見てた」

そう言うと加島くんは「たった十二時間でよく、そんな長い期間の夢を見れましたね…」

「ん~~何というか……すごく思い出に残ってる場面が出て来たって感じ」

「なるほど……」

そういえば今日って何日だっけ?

「今日って何日?」と加島くんに訊くと

「えぇっと……七月七日ですけ…」

「え?!七月七日?!私用事思い出した!」と勢いよく立ち上がり、キャンバスと望遠鏡が入った大きなリュックを持ち上げた。

「えぇっ!十二時間寝た次は出かける?!」と加島くんもびっくりしていた。

「明日帰ってくるよ!」と言って勢いよく会社を出た。