「泰蔵!怪我はない!?」


「大丈夫っす。」


強盗を取り押さえる樹に泰蔵は爽やかな笑顔を向ける。


「驚いた……一体何が…?」

「相手の勢いを利用して、吹っ飛ばしただけっすよ。」


と本人はいたって普通に言っているが椎名には真似出来ない芸当だ。


泰蔵は空手の有段者で腕は立つ。
高校でも続けていればインターハイ出場も夢じゃなかっただろう。


それだけでも凄いのに、合気道までやってのけるとは……


椎名は素直に感心した。


「それならいいけど…無茶は禁物だよ。」


強盗を逃がしかけた2人が言うのもおかしな話だが、泰蔵は「はーい」と気持ちの良い返事を返した。


やはり、何でも許したくなる笑顔だ。



「馬鹿者ッ!!」


しかし、現役の捜査官である樹と椎名が簡単に許されるはずはなかった。


「取り逃がしかけた揚句、一般人…しかも未成年を巻き込むとはどういうことだ!」


これには返す言葉もない。


2人はただただ頭を下げる。


コンコン



2人を救うようなタイミングの乾いたノック音。



全員の視線が出入り口に集中する。


「お取り込み中のところ、すみません。」



スーツ姿のすらっとした背の高い男がそこに微笑みながら立っていた。