「俺もついて行って良いですか!?」


「ダメだっつーの。」


このやり取りも既に見飽きている椎名は、あまり離れ過ぎないように2人の前を歩いていた。


泰蔵のその質問は形式ばかりで、いつも結局付いてくる。


樹も樹でダメだとは言うが無理矢理家に帰したりはしない。


親しくとも、泰蔵は一般人だ。
もし、何かあって巻き込んでしまったらどうするつもりなのだろうかと、椎名はいつも気が重い。



「きゃあぁぁぁっ!!!」


突然の女性の悲鳴に椎名は臨戦体勢に入る。


…と同時に椎名の横を樹が駆け抜けて行った。


ガシャンという音がして樹が向かった方の店から鞄を抱えた男が飛び出して来た。


「止まれ!!」


「うるせえっ!退けェっ!!」

樹の素早い組み手をぎりぎりで躱すと今度は椎名たちの方に向かって来た。


「仕方ないな……」


椎名が一歩前に出た時、さっきまで数m前にいたはずの男は既に椎名の目の前に迫っていた。


「何……ッ!?」


その手にはナイフが握られており、鈍い光が空を裂く。



間一髪、それを躱した椎名は倒れ込みながら後悔した。


犯人が向かう先に泰蔵がいる――


「泰蔵ッ!!」


樹が叫ぶが泰蔵は微動だにしない。


もう逃げられない――と思ったその時、人が宙に舞った。


舞ったのは、強盗の男だ。


何が起こったか判らなかったが、ともかく泰蔵が無事だったことに2人は胸を撫で下ろした。