まだ17歳の篠崎泰蔵と出会ったのは、巡回していた商店街の路地裏だった。


血だらけで倒れ込む少年たちの中に佇む泰蔵と、傍で震えるいかにも軟弱な少年。


それを見た誰もが泰蔵が加害者だと判断する――判断されても仕方ない状況であった。


ただ、樹は違っていた。

何の躊躇いもなく泰蔵に歩み寄り、「よく頑張ったな。」と言って両腕を広げて見せたのだ。


後になって、泰蔵とは顔見知りだったのかと椎名が尋ねると


「ううん。全く。」


とあっけからんとしたものだったから、椎名はただ呆れるばかりだった。


その、両腕を広げた樹を目の前に、何故か泰蔵の殺意さえ感じられた警戒心が鎮まり、糸が切れた操り人形のように、その腕の中に倒れ込んだ。



「彼は僕を助けてくれただけなんです。

だけど、もう十分だと言っても彼、止めてくれなくて……」


泰蔵に助けられたはずの少年は、おかしなことに泰蔵が怖くて泣いていた。


少年の証言と、泰蔵の方が実は重傷を負っていたということもあり、泰蔵は正当防衛で罪に問われずに済んだ。


怪我が完治するまでまめに見舞いに通っていたらしい樹を「先輩」と慕うようになり、今に至る。



「今日もパトロールっすか?」


屈託のない、綺麗な笑顔だと泰蔵に会うたび、椎名は思う。


赤ん坊の笑顔が可愛いのは顔の筋肉が未発達で左右対象だからだと聞く。


大人のように作り笑顔を出来ない、嘘のない笑顔……


泰蔵の笑顔はまさにそれなのだ。