翌日。
「あぁ〜っ、もうっ!しぃちゃんのせいでこんなつまんないデスクワークぅ……」
「だから!謝ってるじゃないですか!
その台詞、朝から何度目ですか!?
俺だって昨日、好きでもない湯豆腐を食べるはめになったんですよ!?
貴女が頼んで爆睡するから……
あんなのの、どこがおいしいのか……」
「そ、そんなの関係ないでしょ!?
しかも、別に食べてくれって頼んでないし。」
樹の小学生のような反論に椎名は無視することを決め(自分の発言も子供じみているという自覚はなかった)、仕事に戻る。
「……飽きた…。」
椎名が相手にしなくなったのも乗じて、樹はとうとう書類を放り投げた。
昨日は樹にも後輩を思いやる優しさがあるのだと見直した椎名だが、やはりそう簡単に見方は変わらない。
椎名はため息をついて樹を見る。
「……その、しぃちゃんっていう呼び方、どうにかならないんですか。」
「……じゃあ、ちぃちゃん?」
「それも嫌です。」
椎名がぴしゃりと言うと樹は樹は頬を膨らませ「我儘だなぁ」と言った。
「じゃあ、なんて呼んで欲しいの?」
「……俺のこの意見は我儘なんスかね…。
普通に苗字で呼べばいいじゃないですか。」
「それじゃあ、つまんないし、あだ名じゃないじゃん。」
「あだ名で呼ぶ必要性が分かりません。」
「…――椎名……。」
『………』
「やっぱり、なんかしっくり来ないわ。」
「……ですね。」
何故、「さん」とか「くん」のような敬称を付けようとしないのか謎だったが、もう突っ込む気力もない。