その後も、やはり樹が起きることはなかったが種田がこれまで担当してきた事件の話や、椎名の学生時代の話をしながら、かれこれ3時間ほど呑み続けて今日はお開きと言うことになった。


「じゃあ、今日は俺が樹を送るから、椎名も気をつけて帰れよ。」


「はい。今日はありがとうございました。」


椎名が頭を下げると、種田は笑って、こちらこそと言った。


種田は慣れているのか、樹を軽々と担いでいる。


が、見ているこっちは重そうで仕方がない。


タクシーが来たので彼女を抱えた種田に先に乗って貰う。


「ありがとう。
でも、家近いんだ。
酔いを冷ましながら歩いて帰るとするよ。」


「……そうですか。そういうことなら……」


「気をつけて帰れよ。」


「はい。種田さん、ご馳走様でした。」


「また飲みに行こうな。」


と言う種田に「喜んで。」と返し、種田と分かれた。



「――今日は俺が樹を送るから――……」


「今日は」ということは次があるということだ。


果たして、次なんてあるのだろうか……


そんなことを考えながら、タクシーの固いシートに身を埋めた。



椎名を乗せたタクシーを見送り、種田は樹を背負い直す。


非常に優秀だと聞いていた椎名とゆっくり話すことが出来て、種田は満足だった。


確かに、優秀そうな男だ。


しかし―――……


「まだまだ訓練が足りないな……」



闇夜にそう独りごち、種田はゆっくりと歩き出した……