「種田さん、妹さんがいらっしゃったんですか。

今は何を……?」


「――今頃は、プロのピアニストになってる頃かなぁ……。」

「ピアニストなんですか?

俺も聞いてみたかったなぁ。」


種田は何が可笑しかったのか、そこでぷっと吹き出すと「機会があったらな。」と答えた。


「はい!楽しみにしてます。」

そう約束すると椎名は嬉しそうに微笑んだ。


「それにしても、ピアニストなんて凄いですね。

選ばれた者しかなれない職業だ。」


「君が今、就いている役目もそうだろう。」


「そうですね。」


椎名は苦笑する。


「妹さんの親友か……なんか納得です。

種田さんが彼女を見る目とか口調とか……

接し方が、まるで本物の妹に接するみたいにいつもとても優しいので。」


椎名がそう言って微笑むと種田は、一瞬――見間違いだと思ってしまうほど、ほんの一瞬だけ悲しそうな顔をして言った。


「……約束だからと言ったが、本当は、俺のただのエゴかもしれないな―――。」


「……え?今なんて――」


種田の言葉の途中で、熟睡中の樹が頼んだ湯豆腐が、やっと運ばれてきて種田の言葉は遮られてしまった。


だから、酔いの回った椎名の頭は、種田の最後の言葉を聞き間違いだと判断したらしい。


そう、最後の


「樹は、俺のことを殺したいほど憎んでいるだろうから……。」


という、今にも泣き出しそうな呟きは……。