彼女のパートナーであった金城さんは、1年前、事件の捜査中に行方不明になった。
――そして、数日後に北関東の山奥で遺体が発見され、死亡が確認された……。
「……。」
「……金城さんとも、こうして飲みに来たりしていたのでしょうか……」
椎名がそう言うと、種田は苦笑して言った。
「どうだろうね。
彼は面倒がって樹とは飲まなかったかもしれない……何せ、樹がこんな感じだか
ら。」
「たしかに……。」
彼女を見ると気持ち良さそうに寝息を立てている。
呆れるほど無防備な寝顔だ。
「こんなんじゃ、金城さんが心配するのも無理ないですね。」
厭味な感じが言い方に出ていたのか、種田は少しだけ、言葉を探すように沈黙し、「苦労を掛けるね。」と苦笑した。
そして思い出したように、急に声の調子を変えて言った。
「そうそう。見ての通り、樹は酒を飲むとすぐにこんな風になってしまうから、
もし2人で飲んでいたときは、申し訳ないが家の前まででいいから、タクシーで送ってやってくれないか。」
彼女に手を出すなと釘を刺されているのか、俺を信用してくれているのか、種田の優しげな笑みからは判断しかねたが、椎名は素直に了解した。
種田が意図的に金城の話を避けたのは明らかだった。
椎名もその辺りの事情は多少、局長から聞かされていた。
発見された金城の遺体は酷い有様で、本人だと断定するのにも難儀した程だったという。
しかし、樹は金城の死を信じなかった。
彼女は金城の遺体と対面することもせずに
「金城が死ぬはずない。」
と言い張った。
局長たちがどんなに説得をしても、樹は頑としてそれを認めなかったそうだ。
彼女は今でも金城の死を信じていない。