麻薬取締特別機関関東支局。
通称:ERSA


この行政機関とは名ばかりの場所に就職してから2ヶ月。

椎名千秋は未だ自分の教育係りである山添樹と馴染めずにいた。


「……何してんスか。」


「何って、見て判るでしょ。」

朝、椎名が出勤すると樹はいつも既に出勤している。


仕事をしていることもあるが、たいていの場合、遊んでいる。


今日はトランプのピラミッドのようだ。


「んなもん作ってどうすんですか……」


「ちょ…うるさい!今大事なトコなの!緊張の一瞬なんだから……」


1…2…3…4……5段という、集中力がなく、不器用な彼女にしては上出来なピラミッドの頂上。


最後の2枚を震える手で運んでいた。


「…はいはい。邪魔してすみませんでした……。」


樹の後ろを通り、椎名が自分の席に着いた瞬間、バラバラと音を立てて、彼女のピラミッドは無惨に崩れ落ちた。


「あー!もうちょっとだったのにー!」


そう言ってキッと椎名を睨む。


「しぃちゃんが、ごちゃごちゃ話し掛けるから!!」


「その呼び方止めて下さいって何回言えば……って、俺のせいにするんですか!!?」


「しぃちゃんが風を起こすからぁ…」


「後ろちょこっと通っただけじゃないですか…」


「だから!そこを!もっと!風のように、さぁっと!」

「風のように通ったら、結局崩れるんじゃないんですか、ピラミッド。」


「だぁっ!ああ言えばこう言う!」


「貴女が俺のせいにするからでしょうが!」


「朝っぱらから何をやっているんだ。お前らは…!」


2人が立ち上がったところでパコパコと何か柔らかいもので頭を叩かれた。