ゆっくりとホブランプの明かりが近づいてくる……
男は、それに不気味に照らされる樹の表情から目が離せない。
樹はしゃがみ込み、挑発的に男の視線を覗き込み微笑む。
「あたしはね、バケモノだよ。」
それは声に出されることはなかったが、唇がしっかりとそう告げていた。
‘化け物’
異様な姿・形をして、化け現れたもの……
普通の人間とは思われない能力をもっているヒト……
それはごく有触れたレトリックであったが、それをただの冗談だと笑い飛ばすことが出来ない。
目の前に立ちはだかる少女から、異様な空気が発せられている…そんな錯覚に陥り、「バケモノ」という言葉を反芻するように口の中でもごもごと繰り返しながら、男はきを失ってしまった。
それを見届けると、樹は深いため息を吐く。
「バケモノ」とは……我ながらこの上ない表現だな、と笑む。
今はまだ、その悲しげな瞳を見ることの出来る者はいない。
……今は、まだ―――
「おーい!樹ちゃーん!」
やがて、フラつく椎名を支えた坂東がやってきた。
樹は笑顔で手を振る。
今夜の仕事は終わりだ。
きっとこってり絞られるであろうこの後のことを考え、樹は無意識にもう一度深いため息をついた……