「すみません!Aポイントしくじりました!
Cポイントに向かって1名逃走中!
至急、応援お願いします!」
早口にそういうと、樹は携帯をしまい、原付で逃走する男に狙いを定めた。
辺りを見渡し、足元に手頃なゴミ箱の蓋を見つけると、思いきり振りかぶって投げた。
「……届け!!」
蓋は投げられたものがそれではないような音を立てながら飛んで行き、男に――正確には男の乗るバイクのタイヤに――命中した。
男は衝撃でバランスを崩し、派手に転んだところを樹に取り押さえられた。
「……バケツの蓋…!?」
男は自分を襲った「それ」が少し大きめのポリバケツの蓋だと分かると目を丸くした。
とても信じられない、と言った表情で樹とそれを交互に見る。
「そ、バケツの蓋。直撃しないで良かったねぇ……」
「タ、タイヤが……」
男の傍らに無残な姿で横たわるバイクのタイヤには大きな亀裂が走り、まるで刃物に切られたような様相である。
「事故って怖いねー……。突然飛んでくるバケツの蓋に注意だねぇ……」
樹がしみじみ言うと、男は青い顔をして言った。
「おま…っ、事故だってこんなに破けねぇよ……!あんた一体…!?」
「あたし?あたしはね……」
その口許が不敵に緩む……