たしかに、樹の言うことも一理ある。

しかし、今は目の前のことに集中しなければならない。

「罠って可能性も……来た!」

彼女が更に姿勢を低くする。

当然、椎名もこの瞬間は緊張する。

敵の前に飛び出してしまえば、この緊張からも開放されるのだが…そう。

「敵の前に飛び出してしまえば」……。


「罠かもしれない」


……そんなことは判っている。

しかし、そんなことで怖じけづき、逃がす訳にはいかない。

それだけ奴等の魔の手は確実に広がっていくのだ。


「え、ちょっと!?しぃ…!」


樹の手が虚しく空を切る頃、椎名はすでに敵の目の前に立ちはだかっていた。


「……も〜!!」

樹の呆れ声など、聞こえない振りをして、拳銃を構える。


「動くなっ!」


敵は3人。そのうち1人は原付に乗っていたが、今は降りて完全に手を挙げている。


これなら1人でなんとかなりそうだ。


「そのまま地面に……!?」


「危ない!!」


油断していた。


……というか、この世の中に、拳銃を持った人間に立ち向かってくるような馬鹿がいるということを忘れていた。


3人のうちの1人が、椎名の一瞬の隙を突いて、捨て身の一撃を食らわす。


油断していた椎名は吹っ飛ばされ、残りの2人も逃走。

椎名に体当たりを食らわした男も立ち上がり、今にも逃げ出そうとしている。


「……逃がすかっ!」


コイツまで逃がしたのでは局長に会わせる顔がない……と言うか、自分の身の危険を感じた椎名は必死でしがみつく。


「何やってんだよ〜…!」


樹は椎名の前で一度、足を止めたが、奴等を追うのが優先だと判断したらしく、すぐさま走り出した―――