夜の帳があらゆるモノの姿を隠してくれる闇夜。

それが彼らの仕事の時間。

しかし、闇夜に姿を紛れさせ、仕事をするのは悪役の特権……という訳じゃない。

麻薬取締り官――麻取りである彼らにとってもそれは同じ……。

「捜査資料、ちゃんと読んで来た?」

もちろん、と椎名は頷く。

情報課によれば、数日前の垂れ込みから割り出されたターゲットは椎名たちも数ヶ月前からマークしていた小さな組織によるものだ。


好都合だが、確保まですべて自力で挙げたかった樹は少々不貞腐れ気味だ。


「…どう思う?」

徐に、樹が問いかける。

視線はターゲットを捕らえたままだ。

「何が、ですか。」


「今回のガサ入れ。これ見よがし過ぎるっていうか。これまで慎重だった敵の動きが急に慌しくなったような…。」

「確かに、そうですね……。結局、何者による垂れ込みなのかも分かっていませんし……。」


そうなのだ。椎名たちが前々から追っていた組織による密売……。

これまで足がつかめなかったのは、何も椎名たちがサボっていたからではない。

動きが慎重で、これまで足を出さなかった。

それなのに――


「迂闊すぎる気がするんだよね。なんか、違和感って言うか……」

いつになく真剣な表情で、彼女はターゲットを見つめる。

奴等を前にしたときは、普段からは想像できないくらいの真剣な顔つきになるのだ。

こういう姿をなんと表現するのか、その言葉を椎名はまだ手にしていない……。