歩き始めたところで、種田の携帯が鳴り、「ちょっとごめん。」と言って席を外す。
「……事件ですかね。」
ひそひそと樹に耳打ちすると、彼女も「たぶんね」と小声で返した。
数分もしないうちに電話を終えると、種田は慌ててこちらへ戻ってきた。
「俺から誘っておいて悪い。呼び出しが……焼き鳥屋はまた今度だ。」
残念そうにそう言うと、ほんの数秒、樹を見つめ、その頭にぽんっと手を置き言う。
「……くれぐれも、油断しないように。」
「何、急に…!そうやって子供扱いしないでってば!」
樹が抵抗すると、種田は面白がってぐしゃぐしゃと髪を乱す。
「こんなことしてる場合じゃなかった!急いで戻らないと……!」
椎名くんも無茶をしないように。去り際にそういい残すと、種田は駆け足で去っていった。
「油断とか、無茶とか、一体……?」
「ガサ入れの話でしょ、きっと。」
なるほど、と納得したところで解散となった。
まだ2人きりで飲みに行くほどの仲ではない。
そして、いよいよ椎名にとって始めてのガサ入れの日を迎えようとしていた―――