「あ、板垣君」

「山田さん」

クラス委員長の板垣が立っていた。
日美子はニコッと笑うとまた黒板消しを始めた。

「山田さん、日直だったっけ?」

「ううん。ちょっと頼まれてね」

板垣はゆっくりと日美子に向かって歩いていく。
黒板を消すのに夢中な日美子はそれに気がつかない。

「山田さん…」

板垣は日美子をギュッと抱き締めた。

「え、え?板垣君?」

突然の事に日美子は訳が分からず、困惑していた。
そんな日美子に板垣は

「ずっと好きだったよ…」

と、抱き締める腕に力を込めた。

「痛いよ板垣君。離して?ね?」

優しく言い聞かせるように日美子は言うが、板垣は離す気配すら見せない。

「ねぇ、山田さん…。僕と付き合ってよ」

板垣は日美子を自分の方へ向けさせると自らの唇を日美子の唇へと近づけた。

「ちょっ…板垣君!」

「山田さん…好きだ…山田さん…」


唇が触れる距離。

あと5cm…

あと4cm……

あと3cm………

あと2cm…………

あと1cm……………


「何してんの?」

突然の声に触れかけの二人の唇がパッと離れる。
見るとロッカーの上に腰掛け、二人を見物している武蔵がいた。

「うわっ…宮本武蔵!」

「うわっ…って。俺は化け物かよ」

スタッとロッカーから飛び降りた武蔵はそのまま一直線に板垣と日美子のもとへ。

「な、何だよ!」

殴られると勘違いしたのか板垣はギュッと目をつむり、頭を抱えている。

すると板垣の唇に柔らかい感触が……。

「!!!」

「キスしたかったんだろ?」

武蔵はしてやったりの顔をしてニヤッと笑った。
板垣は武蔵にキスされたのだ。

泡を吹く手前の板垣はふらふらになりながら教室を後にした。

ご愁傷様………。