パーフェクト・フィグ




5時間の手術が終わり、
子どもを再びベッドに移動させる。

挿管チューブから酸素を送りつつ、
雅俊は梶木やすみれと共に
ベッドを押してハートセンターへ同行した。

専用エレベーターで
ハートセンターへつき、
看護師たちに引き継ぎをする。


「バイタルは安定。
 ポンプ設定はこのままで、
 後は主治医指示でお願いします」

「了解です」


大量の点滴やモニター類をさばくのも一苦労だ。


「じゃあ後はお願いします」


引継ぎを終えて、
松島と雅俊が立ち去ろうとすると、
帽子を外していたすみれと目が合った。

その赤毛のようなふわふわな髪と、
ルーペを外してよく見えた瞳に、
雅俊は思わず目を見開いた。


「え…」


見つめ合っている2人の間で、
松島が不思議そうに首を振る。

すみれが構わず雅俊に近づいてきた。


「私、君のこと知ってる…」


聞き覚えのある声だった。

高く澄んだ声だが、
大人びている不思議な雰囲気。

雅俊は目の前の事実が
半ば信じられなかった。

まさか家の前で倒れていた謎の女が、
うちの小児心臓外科の若き名医だったとは。

雅俊は何も言葉が出てこず、
ただすみれを見下ろしていた。

そんな雅俊を大きな瞳で見つめて数秒。

すみれはふらっと独特な動きで
ハートセンターを出て行った。