僕より大きな物を背負っている君へ

「うわぁぁー!マジか~」と咲瑛さんが言った。

何とか班長にならなくて良かった。

「じゃあ班長は咲瑛ね」そう言いながらまおりちゃんがペンを走らせる。

「は~い」としゅんとした声で言った。

「副班長は春都くんね」

「は~い」と軽く返す。

「じゃあ他の人で担当きめ…」と言いかけ、ペンを落として、「ドサッ!」という音をたてながら、まおりちゃんが倒れた。

「大丈夫?!」反射的に、俺と咲瑛さんは、言う。

咲瑛さんが、まおりちゃんのおでこを優しく触る。

「熱は無さそう。でも保健室につれてかないと」と焦った声で言う。

優雅さんも、まおりちゃんに駆け寄る。

「私たちまおり連れて行ってくる!」

優雅さんがそう言うと、ゆっくり歩き出した。

          ♢

「…帰って来なくね?これやばくね?」と数分経って矢島が言う。

花都も首を縦に振った。

「俺らも行こ」と言って俺たちは、走った。
保健室についた。

ゆっくり扉を開ける。

「あらあら、どうしたの?」

保健室を開けると、保健室の先生が顔出してきた。

「さっき来たと思う、まお…凍宮さんの様子を見に来ました」

’’まおりちゃん’’だなんて吹奏楽以外の人の前で言える訳がない。

「あぁ~、凍宮さんのお友達ね。今奥にいるわよ」

ありがとうございます。と小さく言って、奥の部屋に言った。

『キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン』

ちょうど昼休みだ。少し長居出来そうだ。

カーテンをゆっくり開ける。

「えっ?春遠たちきたの?」と首を傾げて優雅さんが言った。

まおりちゃんは、ベットの上で寝ていた。

「まぁ…俺らも心配してたし、来たほうが元気になるかな~って」と、照れくさそうに言った。

「なんだ~あんたらいいとこあんじゃん!」

咲瑛さんが言いながらひじで、体当たりしてきた。

「凍宮はどんな感じ?」

と、矢島が言った。

「今のところは、大丈夫そうだよ」

と優雅さんが安心した声で言った。

「…せっかく来て貰って悪いんだけど、春遠くん以外は外してくれない?」

「え?俺も心配してるんですけど」
と矢島が言う。そうだ、なぜ俺だけ残れと?

花都も首を縦に振る。

「いいからいいから、春遠くん以外は外して、
頼むっ!」と目をつぶって、手を合わせた。

「お、おう、わかった。じゃあお大事に」
と言って。矢島と花都は保健室から出てった。

「えっと~なぜ俺だけ?」

「春遠には言っといたほうがいいかなって。ていうか、知ってるでしょ?同じ部活なんだから」

言っている意味がさっぱりわからないですけど。

「正直…さっぱりなんだけど」

「あれ?まおりもしかして言ってない?」
と咲瑛さんが、困惑した。

その時だった。
「…ん?ここは?」と小さな声が聞こえた。

まおりちゃんだ。

「まおり!大丈夫?体調は?」と二人がベットのほうに身を寄せた。

「うん、大丈夫。ちょっとフラってしただけ」

「よかった~」と安心そうに二人は言った。

「まおり?春遠に言ってないの?持病のこと」

咲瑛さんが横になってるまおりちゃんに話しかける。

持病?どういうことだ?

「率先して話す事でも無いでしょ?」と言いながらまおりちゃんは体を起こした。

「そうだけど…」と、咲瑛さんが言った。何のことだかさっぱりだ。

「聞いていいか…わかんないんだけど、持病ってどういうこと?」と俺は聞いた。

「…誰にも言わない?」とまおりちゃんが言う。

「言わないよ。俺、秘密は守る主義なんだよね」
と俺は安心させるように、優しく言った。

「…私ね、実は持病持ってるの」

「昔からずっと、急に頭が痛くなったり、倒れたりしちゃうの。最悪なときは、吐きそうなほど、気持ち悪くなるの」

俺は、黙ってそれを聞いた。
「いつも、友達に助けて貰わないと、何にも出来ないの、でもそれを言う自信もなくて、この持病を知ってるのは、家族と優雅と咲瑛と春遠くんだけ」

俺は息をのんだ。

「ずっと辛い思いしてきたんだね。気づけなくてごめん」

「謝ることじゃないよ!」とまおりちゃんが首をぶるぶるしながら言った。たしかにそうだ。謝ることじゃない。

でも一つ疑問が浮かんだ。

「その持病って連くんは知らないの?」

「…うん、知らない」

「連に心配かけたくない」

「そっか」

「じゃあそろそろ、戻るよ。出来たらまた後で」

「うん。じゃあね」と手を振ってくれた。

そして俺は、保健室を出た。

「’’心配かけたくない’’か」

いつも自分と戦ってたんだね。

持病にいつも耐えて、ずっと一人で抱え込んでたんだね。

「言ってくれてありがとう」そう、小さく俺は言った。

「あれ?春遠じゃん!やっほー」
と、元気な声が聞こえた。

反射的に「まずい」と小さく呟いてしまった。
連くんだった。

「保健室ってたしかこっちだよな?」

「そ…そうだよ。どうかした?」
と、動揺を必死に隠しながら言った。

「まおりがたおれたって赤熊から聞いてさ。
いかなきゃっ!ってなってさ」

「あ~そうなんだね」必死に言葉を繋げて、連くんに返す。早く教室に行きたい。

「あれ?でも青木こっちなんかようあったの?」
と聞いてきた。一番言われたくないセリフだ。

「て…提出物出しに行ってたんだ。そんだけ」
と嘘を言った。

「ふ~ん。そうなんだ。じゃ!そろそろいくわ」

「うん。バイバイ」と言ったら、連くんはスキップしながら、保健室側に行った。

バレたかな?と思いながら、おそるおそる教室に向かった。

やっぱ、まおりちゃんへの愛が強いな~と俺は、改めてそう感じた。

「早く教室に帰ろっと」
そう呟いて、少し早走りで教室に帰った。
修学旅行まであと、二週間。

二泊三日の修学旅行だ。

行くところは、長崎県。

一日目は、長崎で有名な、神社と水族館に行くらしい。

二日目が、平和を代表する公園?にて、千羽鶴を捧げる…まぁ、

千羽鶴を捧げて祈る式をするらしい。

そのあとは、原爆に詳しい資料館で、原爆についてたくさん見たり、学んだりする。

その後は、班別研修。

各クラス各班に、分かれて自分たちで決めたルートを通って、決まった時間に集合という。

まさに、修学旅行って感じだ。

最終日は、遊園地で遊ぶらしい。

名前なんだっけ?

まぁ無理に思い出さなくってもいっか。

そんな事を考えていたら、後ろから声がした。

「な~に、ボサッとしてんの?早く班別のルートの書類出しに行くよ~」と言いながら、書類の入った、ファイルで俺の後頭部を、コツンとした。

「あ~そっかごめんごめん」

そういえば、書類出しに行かないといけないんだった。

「もぅ~しっかりしろ~副班長」
と咲瑛さんが呆れた感じで言った。
「ふわ~あ……ねみー」あくびをして呟くと咲瑛
さんが…

「たしかに!今日春遠、みんなでルート決める時に、一人だけ眠そうにしてたよね!」とめっちゃ早口でそう言った。

「今日は本当に眠いんだよ…」

そう、昨日少し夜更かしをしてしまったのだ。

「昨日夜まで、ゲームやり込んでなんだよ…」

「なんのゲーム?」と知りたそうにこっちを向いてきた。

「え~と、パニットの森って言う。ほのぼのスローライフゲームだよ」

「えっ!春遠、パニ森してんの?!」と驚きを隠せない反応をしていた。

「面白いよね~パニ森。私とかまおりもやってるよ」

まおりちゃんもやってんのか。とふと思った。

「あのゲーム時間なくても、気軽にできるから、みんなやってるよ」

「へ~」と軽く返す。
「なんか反応薄くない?」と咲瑛さんが顔をしかめて言った。

「いやいや、そんな事をないよ?」と言うが。

「いやだって、’’へ~’’じゃん!もっとこう。
えっ!まおりちゃんやってんの?!とか、どんぐらい進めてんの?とか話広げたり、すんのが普通じゃあない?」

たしかにそっか、さすがにへ~’’はおかしかったか。

「話広げたりするの苦手だからさ。特に女子と一対一とかになったらなおさらだから」

「あ~、そうゆうことね。もっと頑張れよ~」

マジで話せるようにならないと、これからも将来困るよな~と俺は思った。

「あっ!ついたよ、職員室」

おっ、やっと着いたか。

「失礼しま~す」と咲瑛さんが言う。

「三年三組。宮野 咲瑛です。静海先生いますか?」

静海 茜(しずみ あかね)先生俺たち、三年三組の担任の先生だ。

「は~いどうかしましたか?」と静海先生が顔をひょこっと出した。

「班別研修のルートの書類を出しに来ました」
と神接客でこなしていく咲瑛さん。

「はい。貰いました。期限より前に出せて良い班ですね」と先生が褒めてくれた。まぁ俺に言われた訳では、ないけど。