僕より大きな物を背負っている君へ

赤熊 千(あかぐま せん)だった。

「俺らもここの班狙っててさ」

まじかと、絶望する。

「まぁここは正々堂々とジャンケンで勝負やな。そっちは、誰が出す?」と聞いてきた。

後ろを振り返ると、「お…俺はいいや」と自信無さそうに矢島が言った。花都も首を横にぶんぶんふる。

こいつら…責任をおいたくないんだなと悟った。

「じゃあ俺が出るよ…」と渋々言った。

勝たないと。俺たちの修学旅行ライフが壊滅してしまう!と心の中で叫んだ。

「行くぞ…」

と合図が来る。

「ジャンケン、ポン!」と声を合わせて言った。

結果は…

「くそっ!負けたー!」という声が聞こえた。

「やったー!勝った~」何とか勝てた。

「春遠ナイス~」

「このジャンケン負けたらマジでオワタ」

花都も親指を立てて、こっちに向けておきた。
「先生~一班決まった~」と矢島が報告しに言った。

ほんとに疲れた。なんでこんなに疲れないといけないんだよ~と心の中で呟く。

「えぇ~とじゃあ、青木の班と凍宮の班な」
先生が言った。

これは不可抗力だ、この班以外にしてしまったら、こき使われるだけだ。

と思っていたら。

「よろしく~」咲瑛?さんの声が聞こえた。

「おっ、優雅さんじゃ~ん。よろしくね!」と元気よく矢島が言った。

優雅さんはちょっと困った顔をしていた。

この班は、男子は俺、矢島、花都。女子はまおりちゃん、優雅さん、咲瑛さんの六人班となった。

マジで良かったーっと改めて思うった。そこに先生の声が聞こえた。

「じゃあ、ちょっと早いけどそこの班は、集まって座ってメンバーシート書いといて」と先生が言いながら、紙を渡された。

「じゃあどっか座ろうか」と咲瑛さんが言った。

「後ろの席とかどう?」と矢島が言う。

「いいじゃん後ろの席」まおりちゃんと優雅さんが言って、後ろの方にみんな移動していた。

「じゃあ後ろ行くか。行こ花都」

そう言って花都と一緒に後ろの席に向かった。

「どういう感じで座る?」優雅さんがそう言う。

「右男子、左女子でいいんじゃない?」

まおりちゃんが言うと、花都以外が「さんせい~」と言った。

どりあえず座るか、と思いながら座った。

「えっとじゃあまず、班長と副班長決めよっか」

ん?と心の中で呟く。

まおりちゃんの声が前から聞こえる。おそるおそる顔を上げる。
 
「ねぇ~、どうすんの春遠くん」

目の前にまおりちゃんがいる。連くんに殺される。

「え、えっと~ジャンケンとか?」

「まぁ、やりたい人居なさそうだし、勝った人二人が班長、副班長でいいんじゃない?」

「そうしよ~」咲瑛さんと矢島がそう言う。

「いくよ?ジャンケン、ポン!」全員が手を突き出す。

「嘘だろ…」そう呟く。

咲瑛さん、俺がグー、その他の四人がパーだ。

「えっと…春都?だよね?ジャンケンしよ!」

左斜め前から、咲瑛さんが下の名前で気安くそう呼ぶ。

そう呼ばれるのが、嫌な訳ではないけど、まおりちゃん以外の女子からそう言われると、なぜか恥ずい。

「ほら行くよ?ジャンケン…」

手をグッと差し出す。

「ポン!」
「うわぁぁー!マジか~」と咲瑛さんが言った。

何とか班長にならなくて良かった。

「じゃあ班長は咲瑛ね」そう言いながらまおりちゃんがペンを走らせる。

「は~い」としゅんとした声で言った。

「副班長は春都くんね」

「は~い」と軽く返す。

「じゃあ他の人で担当きめ…」と言いかけ、ペンを落として、「ドサッ!」という音をたてながら、まおりちゃんが倒れた。

「大丈夫?!」反射的に、俺と咲瑛さんは、言う。

咲瑛さんが、まおりちゃんのおでこを優しく触る。

「熱は無さそう。でも保健室につれてかないと」と焦った声で言う。

優雅さんも、まおりちゃんに駆け寄る。

「私たちまおり連れて行ってくる!」

優雅さんがそう言うと、ゆっくり歩き出した。

          ♢

「…帰って来なくね?これやばくね?」と数分経って矢島が言う。

花都も首を縦に振った。

「俺らも行こ」と言って俺たちは、走った。
保健室についた。

ゆっくり扉を開ける。

「あらあら、どうしたの?」

保健室を開けると、保健室の先生が顔出してきた。

「さっき来たと思う、まお…凍宮さんの様子を見に来ました」

’’まおりちゃん’’だなんて吹奏楽以外の人の前で言える訳がない。

「あぁ~、凍宮さんのお友達ね。今奥にいるわよ」

ありがとうございます。と小さく言って、奥の部屋に言った。

『キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン』

ちょうど昼休みだ。少し長居出来そうだ。

カーテンをゆっくり開ける。

「えっ?春遠たちきたの?」と首を傾げて優雅さんが言った。

まおりちゃんは、ベットの上で寝ていた。

「まぁ…俺らも心配してたし、来たほうが元気になるかな~って」と、照れくさそうに言った。

「なんだ~あんたらいいとこあんじゃん!」

咲瑛さんが言いながらひじで、体当たりしてきた。

「凍宮はどんな感じ?」

と、矢島が言った。

「今のところは、大丈夫そうだよ」

と優雅さんが安心した声で言った。

「…せっかく来て貰って悪いんだけど、春遠くん以外は外してくれない?」

「え?俺も心配してるんですけど」
と矢島が言う。そうだ、なぜ俺だけ残れと?

花都も首を縦に振る。

「いいからいいから、春遠くん以外は外して、
頼むっ!」と目をつぶって、手を合わせた。

「お、おう、わかった。じゃあお大事に」
と言って。矢島と花都は保健室から出てった。

「えっと~なぜ俺だけ?」

「春遠には言っといたほうがいいかなって。ていうか、知ってるでしょ?同じ部活なんだから」

言っている意味がさっぱりわからないですけど。

「正直…さっぱりなんだけど」

「あれ?まおりもしかして言ってない?」
と咲瑛さんが、困惑した。

その時だった。
「…ん?ここは?」と小さな声が聞こえた。

まおりちゃんだ。

「まおり!大丈夫?体調は?」と二人がベットのほうに身を寄せた。

「うん、大丈夫。ちょっとフラってしただけ」

「よかった~」と安心そうに二人は言った。

「まおり?春遠に言ってないの?持病のこと」

咲瑛さんが横になってるまおりちゃんに話しかける。

持病?どういうことだ?

「率先して話す事でも無いでしょ?」と言いながらまおりちゃんは体を起こした。

「そうだけど…」と、咲瑛さんが言った。何のことだかさっぱりだ。

「聞いていいか…わかんないんだけど、持病ってどういうこと?」と俺は聞いた。

「…誰にも言わない?」とまおりちゃんが言う。

「言わないよ。俺、秘密は守る主義なんだよね」
と俺は安心させるように、優しく言った。

「…私ね、実は持病持ってるの」

「昔からずっと、急に頭が痛くなったり、倒れたりしちゃうの。最悪なときは、吐きそうなほど、気持ち悪くなるの」

俺は、黙ってそれを聞いた。
「いつも、友達に助けて貰わないと、何にも出来ないの、でもそれを言う自信もなくて、この持病を知ってるのは、家族と優雅と咲瑛と春遠くんだけ」

俺は息をのんだ。

「ずっと辛い思いしてきたんだね。気づけなくてごめん」

「謝ることじゃないよ!」とまおりちゃんが首をぶるぶるしながら言った。たしかにそうだ。謝ることじゃない。

でも一つ疑問が浮かんだ。

「その持病って連くんは知らないの?」

「…うん、知らない」

「連に心配かけたくない」

「そっか」

「じゃあそろそろ、戻るよ。出来たらまた後で」

「うん。じゃあね」と手を振ってくれた。

そして俺は、保健室を出た。

「’’心配かけたくない’’か」

いつも自分と戦ってたんだね。

持病にいつも耐えて、ずっと一人で抱え込んでたんだね。

「言ってくれてありがとう」そう、小さく俺は言った。

「あれ?春遠じゃん!やっほー」
と、元気な声が聞こえた。

反射的に「まずい」と小さく呟いてしまった。
連くんだった。

「保健室ってたしかこっちだよな?」

「そ…そうだよ。どうかした?」
と、動揺を必死に隠しながら言った。

「まおりがたおれたって赤熊から聞いてさ。
いかなきゃっ!ってなってさ」

「あ~そうなんだね」必死に言葉を繋げて、連くんに返す。早く教室に行きたい。

「あれ?でも青木こっちなんかようあったの?」
と聞いてきた。一番言われたくないセリフだ。

「て…提出物出しに行ってたんだ。そんだけ」
と嘘を言った。

「ふ~ん。そうなんだ。じゃ!そろそろいくわ」

「うん。バイバイ」と言ったら、連くんはスキップしながら、保健室側に行った。

バレたかな?と思いながら、おそるおそる教室に向かった。

やっぱ、まおりちゃんへの愛が強いな~と俺は、改めてそう感じた。

「早く教室に帰ろっと」
そう呟いて、少し早走りで教室に帰った。