「朝か…」
窓からさす太陽の光が目に入り、眩しくて目をパチパチさせる。
だるい体を動かして準備をして、チャリに乗って
学校に向かった。
ん~どうしよう。正直行きたくない。
まおりちゃんが休むかもしれないし、忘れてるかもとか…現実逃避をしまくった。
そんなことを考えていたら。
「あれ…学校…着いちゃった…」
八分もかかったような気がしない。
チャリを置き、靴箱に向かい階段を上がって二階に行き、三組の教室に入る。
「休んでなかった…」とまおりちゃんを横目で見て小さく呟いた。
自分の席に行き、荷物を置き、話かける準備をする。
まおりちゃんは’’いつでも来て良いですよ’’と言わんばかりの表情をしている。
いやでもやっぱり動けない。
そもそもなんて話せばいい?
おはよう!ん~…今日も良い天気だね!
ダメだ~。行ける気がしない。
すると、まおりちゃんが顔をしかめて席を立ち上がり、こちらに向かってくる。
終わった~…と思ったその時だった。
廊下側から声がした。
「ま~おり!話そ~!」と教室の窓を勢い良く開けて、まおりちゃんを呼ぶ声がした。
連くんだ。
まおりちゃんは少し戸惑った表情を見せるが…
「まおり~。は、や、く!」
と連くんに急かされて、一瞬俺を見てまおりちゃんは連くんの方に行ってしまった。
その後もまおりちゃんと話せるような機会は来ず、ただただ今日という一日を普通に過ごした。
「…帰るか」と呟き。駐輪場に向かった。
結局…まおりちゃんと喋れなかったな…
一日中連くんと話してたし…仕方ないか…
チャリの鍵を鍵穴にさし、チャリに乗って学校を出た。
「…約束…守れなかったな…」
チャリに乗ったまま俯き呟いた。
…何でですか…神様…
…やっぱり…まおりちゃんに話しかけたらダメなんですか?
…いやきっとそうだ…間違いない。
昨日約束した畦道の所でチャリから降り、道路の
端で足を伸ばし、腰をかけた。
朝とは少し曇った空を見上げる。
「やっぱり…合ったらいけないのかな…」
♢
後ろからチャリを止めた音と同時に、右の方に腰をかけるような音がした。
そっちに目を向けた瞬間。
目の前が真っ白になった。
「まおり…ちゃん…」思わず名前を呟いた。
「………」まおりちゃんは何も言わず体操座りをして自分の膝に頭の側面を付けて、笑みを見せながら俺の方をまじまじと見つめる。
「あ…」と思いつく。
「えっと…お…おはよう…?」とまおりちゃんに言う。
「もぅ~…言うの遅い。てかもう昼だよ?」
顔を上げて俺にツッコむ。
「あ…たしかに…もう昼だった…」
しばらく経って、お互いがお互いを見つめ、
「ぷ…」と息を合わせて言って、目を閉じて二人してお腹を抱えて笑う。
「はぁ~あ。おもしろ」とまおりちゃんが手で涙を拭き取りながら言う。
「ほんとにね」とまおりちゃんに返す。
「じゃあそろそろ行くね」と言って立ち上がり、
まおりちゃんは自分のチャリの方に歩いて行った。
そして…
「約束!守ってくれてありがとう!」
とまおりちゃんは大声で俺に叫ぶ。
「あ…と…隣に来てくれてありがとう!」
と俺もまおりちゃんに叫ぶ。
「ばいばい!また明日!」
「うん!また明日!」
そう言ってまおりちゃんは帰って行った。
四月十二日
いつもと変わらず、ホームルームが始まった。
だがいつもと違うことが起きようとしている。
「えー、一週間後に球技大会があります」
「いぇーーい!!」と男子が言う。
そう、四月早々に学校行事の球技大会がある。
たしかドッチボールをやるとかなんとか、正直面倒だ。
体を動かすのは、嫌いじゃないけど、あまり動きたくはない。
「よしっ、これで朝の連絡は終わりです」
と先生が言った瞬間クラスの男子三人位が、叫んだ
「目指すからには一位!」「それな~!」
マジでうるさい。と言ってやりたい。
でも、なんか女子もやる気満々だし、今回くらいは、本気でやるかと、呟いた
♢
そして一週間と言う時間はあっという間に過ぎて行った
「はぁ、ついにきてしまったか…」体育館に入ったすぐに大きなため息を吐いて矢島の隣で呟く。
「そうだよな!マジで楽しみ!」と矢島が言った。こいつはほんとにわかってない。
この反応を見ろ!楽しそうに見えるか?っと言いつけてやりたい。
『えー生徒の皆さんは、クラス番号順に並んで下さい』と放送がかかった。
「行くか」と矢島に言う。
「おっけ~」はぁ、本当にこいつは、能天気だ。
そして番号順に並んだ後、全員座り校長先生がマイクを持って、礼をした。
『皆さん今日は、待ちに待った球技大会です』
『全身全霊でみなさんの熱い戦いを見せてください』と言ってマイクを担当の先生に返した。
別に待ちに待ってないし、熱い戦いもしたくない。と心の中で言う。
『では、まず一組と二組、三組と四組がやって下さい。五、六組は教室に待機してて下さい』
初っ端から、三組だ。
だが、このクラスマッチは男女が別々になっていて先に女子の方からやるらしい。ラッキー!っと心で叫ぶ。
でも、女子の方から一人抜けている子がいた。
まおりちゃんだ。
体調が悪いのか隅で座っている。でも俺に話かける勇気なんて、これっぽっちもないので、心配だけして、試合を見た。
俺のクラスには、ドッチボールが出来る女子も複数人いて、戦うには十分なほどだった。
…たが相手は結構強くて十五分後、試合が終わって、女子は負けてしまった。
「あ~あ、女子負けちゃった」と矢島が言う。
「ほら行くぞ、次男子」と言いながら手を伸ばす。
その手に矢島は手を繋ぐ。「よしっ、行くか!」
と声を上げる。
スタートの笛が鳴った。相手からスタート。
俺は昔っから頭だけは、かいてんが早かった。ついでに耳もいい。
敵が投げたボールはどこに行くのかも、わかるようになっていた。だから、よけるのは容易い事だった。
まぁ、ボールを手にする機会がなくなるから…ていうか何でこんなにマジになってんだ!と、今気づいた。
♢
そしてボールが味方に当たって上に跳ねた。
その跳ねたボールを俺はなぜか取れた。
「ナイスキャッチ!」「お前ナイス過ぎ!」
と、ドッチボールガチ勢に言われた。
ドッチボールでは、当たってもボールが落ちる前に、誰かが取ればアウトにならないルールだ。
ぶっちゃけ嫌いな奴を助けた所で俺にとって何にも得なんてない。
「その勢いで倒しちまえ!」と言われた。
何もしないのもあれだしと思い、思いっきり投げた。
しかし、儚くも余裕で取られてしまった。
「甘かったな!」と少し前とは角度を変えて、投げようとする。
すぐに後ろに下がった。だが完全に俺をマークしている。でも避けるのはかんた…
「まおり!そこ危ない!」という竹野さんの声が聞こえた。
後ろを振り向く、まおりちゃんだ。
避けたらまおりちゃんに当たる。
まさかこいつわざと、まおりちゃんに当たる角度に移動したのか。
反則だろこいつ!
「バァンっ!」激しい音が当たりに鳴り響く。
「ごほっ…」少しつばが、飛んでしまった。俺は
儚くも外野に行った。
外野に行く最中に、俺を当てた奴が耳元で俺に呟いた。
「跳ねたボール取ったぐらいでヒーロー気取りすんな、きめぇ」
頭にかっと血が登った。
初めての感覚だった。
ヒーロー?脇役?そんなこと興味ないし。
まおりちゃんに当たんのが嫌なだけだっただけだし、と心の中で反発する。
この試合も終盤、強い奴が残っていた。
三組は三人、四組は四人。あとちょっとで、タイマーが鳴る。
もうダメだって思った時たまたま残っていた、矢島からボールがくる。
「春遠やっちまえ!」っと矢島が叫んだ。何言ってんだ、この能天気野郎。
無理だ。当てれる訳ない。また簡単に取られて、カウンター食らって終わりだ。
「来いよ雑魚」と言われ、それに乗っかるように、他の四組の奴らも、俺を馬鹿にしてきてた。
四組の女子も俺の方を見てくすくす笑っている。
むかついた。腹が立った。
横から強い味方がジェスチャーで『パスだせ』と
言葉が伝わってくる。
「春遠くん…がんばって…」と誰かの声が微かに聞こえた。味方にパスを出すわけないだろ。
「雑魚はお前だ」
今まで以上のパワーで投げた。
「バァァン!」という激しい音に体育館にいる、
生徒、先生が動きをピタッと止めた。
当たった。
油断していたのか、ボールは上に跳ねたが、よろけて取りにいけてなかった。
そしてボールは、そいつの前に羽が落ちてきた
ように…
♢
儚く…舞落ちた。
終了のサイレンが鳴る。
外野が当てれば内野に戻れるルールだ。
つまり、外野の俺が敵を倒して、四対三で三組の勝ちだ。
「ナイスーっ!!」「やばすぎお前!」
勢いよく抱きつかれ、倒れてしまった。
俺がやった?本当にそうなのか?
「やばっ嬉しすぎ!ちょっ、ほっぺつねって」
と男子が言うと矢島がぐいっと力強くつねる。
「いった!矢島お前つねんの強すぎ!」
「めんごめんご」
笑いながらそういった。
俺がやったんだ。信じられない。
矢島が倒れた俺に手を伸ばす。
そして「ナイス!」と満面の笑みで俺に言った。
自然に「あ…ありがとう」と口にした。
そう言って立ち上がった。
整列をして、三組は勝利をおさめた。
その試合が終わったあと、俺が当てた奴は俺を睨んできた。
そして小さな声で「くそが」と聞こえた。
心の中で「脇役に負けたのはお前だ」と言ってやった。