最強幹部のアカネくん、実は女の子

 じっと見つめ続けて、早10秒。

 ジンは降参という様に溜息を吐き、命令を下す。


 「カズキと殴り合え。負けたら幹部にはなれない。ただ、下っ端には入れてやる。」

 目線を金髪に移し、説明をするジン。

 カズキという名前の金髪野郎は、どうやら気に食わないらしい。

露骨に嫌悪感を見せびらかし、不満を漏らす。


 「そんなヒョロっちい奴と殺り合うわけ?舐められたもんだわー」

 弄っていたスマホから顔を上げ、鋭く私を睨みつけてくる。

ジンを睨めよ、と思うが、口喧嘩は嫌なので言わないでおく。


 「舐めてない。ただ、この茜っつう奴も舐めない方がいい」

 なんてこともない様に言うジンは、私が強いと思っている様だ。

そんなに安易に人を評価しても良いのか?

これで私がぼろ負けしたら、お前も恥をさらすことになるが。


 その意見に納得のいかない様子のカズキは、額に青筋を浮かべる。


 「ふーん。やってやろうじゃないの。なあアカネくん?」

ワザとらしく私に聞き、挑発してくるカズキ。

 コイツ、子供っぽいなぁ、という悪印象しか抱かない言動だ。

今度からは控えてもらいたい。
 カズキはよいしょっと腰を上げ、私の前まで歩み寄ってきた。

 「じゃあ、今ここでやるぞ。いいな、アカネ」

 「いいけど、負けても泣くなよ。見苦しいから。」

鼻で笑うようにそう言うと、カズキはまたもや青筋を立てた。

 「お前こそ泣くんじゃねえぞアカネ。見るに耐えないからな」

 なんかコイツ、面倒臭い性格してんな。

天の邪鬼、というか。イキリたがりの小学生というか、、、

取り敢えず、精神年齢は低そうだ。


 しょうもない口喧嘩をしていると、恐る恐るという様にリンが顔を覗かせる。

いまだに赤茶の後ろにへばり付き、びくびくとしていた。

 「アカネくん、喧嘩できるの、、、?」

 「あー、一応な。」
 
 「カズキ強いよ、、、?」

 
 今にも泣きそうな顔で話すリンは、やはり優しい男の子だった。

良い子だなぁ、と感心する。この金髪野郎とは大違いだ。


 「大丈夫だ。リンが思ってるよりもカズキは弱い」

 「んだとゴラァ」

 リンを安心させる為の言葉に、なぜかカズキが反応する。

 また喧嘩が長引きそうだな、と思っていたが、カズキはすぐに戦闘体勢へと入った。
 お互いに距離を取り、ジンによる合図を待つ。

ルールは簡単で、ボコボコにした方が勝ち。

危ないと判断したら、ジンと赤茶が止めにかかるシステムだ。


 一通りの準備体操を済ませ、位置につく。

絶対に負ける気はしないが、甘く見ている可能性もある。

自分の力を過信していたとか、一番ダサい末路だ。

一応、本気で行こう。


 「じゃ始めるぞー。さんにーいちどんっ」

 とてつもなくやる気のない合図とともに、カズキがこちらに突進してくる。

思った以上に足が速いようで、距離を一気に縮めてくる。

 アニメとかなら、シュンシュンッと音がなっていそうだ。

力強く、軽やかで飛ぶ様な足取りは、チーターを連想させた。

 気がつけば、目と鼻の先にカズキが近づいている。
 強く握った拳は、私の腹部にめがけて飛んできた。

 速く、俊敏でいて強い動き。

ただ、体の使い方が荒い。

何でもかんでも勢い任せ。力み過ぎているし、力の入り方も雑。

 子供の勢い任せのパンチの様だ。

 バカな戦い方、という感じ。


 そんな馬鹿な拳をヒョイっと躱し、逆にその腕を掴みとる。

そしてその腕をグイッと引き寄せ、力ずくで暴れても離せないほど、強く握りしめる。

そのまま片方の足を重心に、クルッと体を後ろに振り向かせる。

 その時に生まれた、遠心力に身をまかせる。

そのまま勢いを乗せ、ドンっとカズキを放り投げた。


 床に転がり落ちたカズキは、突然のことに目をパチクリとさせている。

そして急に顔を歪ませ、左腕を庇い出した。

 遅効性の痛みなのだろうか。それとも、馬鹿すぎて理解に時間がかかったとか?


 本当に一瞬のことで、あまり大きな力も使っていない。

ただし、床はコンクリートだ。そこに思いっきり叩きつけたのだから、普通に痛いだろう。

 カズキをもう一回見ると、腕をさすっていた。


 骨折はしていなかったのか。残念。


 「アカネの勝利。ってことで、まあお前は今日からうちの幹部だ。不服だが」

 ジンが公平な審判を下した後、私の就任を決定してくれた。

最後の一言は余計だが、計画は無事成功。

 「これからは仲間ってことか。改めてよろしくな、リン」

赤茶の後ろにいたリンに声をかけると、リンは嬉しそうに頷いてくれる。

 そして、気恥ずかしそうに微笑みながらこう言った。

 「おめでとう、アカネくん。これからは君も僕たちの仲間だ!」

 
 
 ジンside

 我が百鬼夜行に、新しいメンバーが追加された。

いや、『我が』と語れるほど、百鬼夜行を背負っているわけではない。


 殆ど前任者である総長のおかげだ。

彼のおかげで百鬼夜行内は仲間割れもなく、順風満帆な日々を送れている。

俺はその延長戦を任されただけで、新しい試練などは乗り越えていなかった。

 
 そろそろ総長らしいところを見せたいものだが、なにせ平和すぎて何もない。

そこで、俺は新人であるアカネに先輩らしいところを見せようとした、、、が。

 なぜか知らんが、アカネは滅多に屋上へと来ない。

折角格好つけて『俺はお前を見抜いているっ』という演技をしたのに。残念だ。


 アカネが加入して早二ヶ月がたったというのに、彼は一向に現れないのだ。

学外の倉庫にも、片手で数える程度しか来ていない。


 用事がある、とリンには言ってあるらしいが。

一週間に一回は最低限来て、そそくさと帰っていく。

今のところ喧嘩もないし、パッと見良い奴そうだ。
 ただ、何故かカズキはあからさまにアカネを避けている。

必ず来るとイヤホンを耳につけ、黙り込んでしまうのだ。

 何故かを聞いたところ、『お前は人を見る目がない』との事だ。

よくわからないが、俺がバカにされていることは理解できた。


 リンも最初こそはアカネに懐いていたが、今ではそこまで喋ってもいないらしい。

 元々、リンは四六時中寝てるというほどに、常に眠りについていた。

しかし、アカネが来てからは遅刻もなくなり、活動時間も大幅に伸びていた。


 だがここ最近は昔に戻ってしまい、屋上のフェンスにもたれかかり、永眠している。

アカネが来ても眠り続け、ずっと体育座りの状態で、膝の間に顔を沈めていた。

 時々顔を出し、ポテチを数枚食べ、また眠る。

それが何日間も続き、最近は登校時間が午後を過ぎることも増えてきていた。
 副総長であるシズルは、一人で黙々とパソコンを弄ることが増えた。

前まではお兄さんという雰囲気で、リンをあやしていたりしたが。

今ではリンも前以上に起きてこなくなった為、暇を持て余しているらしい。

 だからお得意のハッキングで、内職をしていると言っていた。

給料がなかなかに良いので、今度何か奢ってくれるらしい。


 そして俺は話し相手がいなくなり、一人寂しくゲームをしていた。

カズキはバカと遊びたくないと言い、一緒に遊んでくれなくなった。

 アカネは来ないし、リンは寝てるし、カズキは怒るし、シズルは真剣そうだし。

話しかけづらいな、と思っていたらいつの間にか皆単独行動に。


 こんな筈じゃ無かったんだけどな、と思いながら空を見上げる。

 今は放課後の屋上で、先ほど言った通り皆やりたい放題だった。

手元のスマホを床に置き、空虚な宙に視線を彷徨わせる。


 痛々しいほど綺麗な青空は、俺の思考を感傷的にさせた。

明日は、仲良くできると良いなぁ。
 アカネside


 なんだか、あんまり楽しくないなぁ。

 殴りかかってくる敵の首付近を蹴りながら、投げやりな言葉を心の中で吐く。

ドサっという重い音が響き、立っているのはとうとう私一人になっていた。


 周りを見渡してみると、何十人もの不良が地面に倒れ込んでいた。

情けないな〜と憐れみながら、近くにいたやつをつま先で強く蹴る。

 私よりもガタイがいい癖に、負けてるとかダサっ。

だんだん見ていると嫌悪感が溜まってくる、気色の悪いあほズラ。

ぺっと唾を倒れている奴に向けて吐き、近くの白いベンチに腰を下ろした。


 すると、疲労感が一気に押し寄せてくる。

お腹もすいたし、強く殴りすぎて手も痛い。

楽しくもない、何にもない。

 退屈な日々だなぁ、、、


 今は公園の隅で、ヤンキー集団と殴り合いを堪能していたところだ。

しかし、そんな楽しさも徐々に薄れてくるもの。

ここ2ヶ月は他校の連中と争い合い、連勝を記録していた。

 
 しかし、どれ程強くても所詮は高校生。

私の満足感を満たすようなスリルは味わわせてくれない。

 危険と隣り合わせだからこそ楽しいのに、勝つと決まっていては危険の欠片もない。
 はぁ、とため息をつきながらこれからのことを考える。

 百鬼夜行からは面倒臭いので距離を置き、しばらく観察を続けていた。

しかし、こんなにも暇では大人しく放置など出来やしない。


 近いうち、次の計画に移ろう。下っ端や他の族を釣ればいい。

カズキ辺りには感づかれそうだが、、、

 まあ、なんとかなるか。


 楽観的な思想で、計画を立てていく。

金は父のが溢れかえるほどあるし、それを使えばなんとでもなる。

結局、世の中金なのだ。それ以外の愛とか幸せとかも、全部金の上に成り立つ。

 世の中って、薄汚いなぁ。


 金の重要さを解説しながら、スマホで時刻を確認する。

 現在時刻13時24分。

 確か学校を抜け出したのは10時辺りだったので、3時間ほど遊んでいたということになる。

最近は学校を抜け出すのがマイルーティン。

公園に行っては他校の奴と煽り合い、仲良く殺り合っていた。