朝の空に
踏切の音が鳴り響く
棒がおりて
道をふさぐ
けれど
電車は一向に来ない
ホームでは
非常停止ボタンが押された
人々が激しく行きかう中
線路上の歩道橋に立つ
一人の髪の短い少女
たまに人にぶつかられ
舌打ちをされるが
少女は気にすることなく
ただ立っていた
「まもなく○○線列車が発車します」
とアナウンスがながれる
その瞬間
少女は歩道橋の柵を乗り越えた
周りにいた人たちが
どよめき始める
上まで行き
そのまま落ちた
落ちた先には
発車したばかりの電車が
勢いをつけながら
少女に近づく
鈍い音とともに
赤いインクと塊が
周りに飛び散った
悲鳴を上げる女の人
写真や動画を撮る高校生
急いで対応する駅員
あたりは騒然とした
その中心にいる
少女はもう
人の形をしていなかった
痛いくらいの青空だった
いつの日か
君と『きれいだね』
と笑いあったあの日のように
雲一つない青空
青空の下で
君は空へ飛んで行った
「飛び降り」
なんて、どこかで聞いた方法で
君は遠くへ行ってしまった
いつものように電車の中で君を待つ
いつもならもう来ているはずの
出発の一分前
『今日もギリギリセーフ!』
なんて言葉も
もう聞けない
扉が閉まる
今日は休みなのかな
なんてのんきなことを考える
電車が進み徐々に加速する
そろそろ歩道橋の下を通るというとき
ふと、上を見上げた
「っ!」
見間違えるはずのない
見慣れた姿
君は歩道橋の柵を乗り越えて
外側に立っていた
そして
ちょうど電車が歩道橋の下を通るとき
君は落ちた
鈍い音とともに
電車が揺れ急ブレーキが踏まれたことが分かる
乗っている人たちはみな顔を合わせる
私は息が止まった
目の前に
「腕」
が落ちていた
私と同じ制服の袖に
私とおそろいのミサンガ
そこからの記憶は曖昧だった
ただ一つ言えるのが
君がいなくなってしまったということと
君がいなくなった世界はつまらないということだった
楽しくない世界にはいたくない
私は君と同じ道を進んだ
思い出のあの日のように
綺麗な空だった
あなたと初めて学校をサボり
海へ行った日
忘れることのない大切な思い出
いつもと変わらない
一日の始まり
学校の準備をして
急いで駅へ向かう
自転車で三十分
駐輪場に自転車を止め
ホームへ向かう
はずだった
私の足は
歩道橋の真ん中で止まった
(呼ばれた?)
どこかで私を呼ぶ声がした
あたりを見渡すが
朝の通勤の時間で
声の主らしき人は見当たらない
『おいで』
声のした方向を見る
でも、声のした方向は
歩道橋の下だった
早く、とせかすように
風が私の背中を押す
『あなたは十分がんばったわ。もういいと思う。』
(もう、いいのかな)
自然と足が前に出る
ホームでアナウンスが入る
でもその音は
はるか遠くでなっているように小さな音だった
フェンスに足をかける
周りの人が私を見ているのが分かった
それでもかまわない
呼ばれているんだからいかなきゃ
飛び降りる
落ちている途中
あなたが見えた
大きな目をさらに大きく広げ
驚いたようにこちらをじっと見つめていた
(見つかっちゃった)
鈍い音と同時に何も見えなくなった
最後に見たあなたの顔があんな顔でよかったのか
それだけが気になった
私はひそかにあなたに恋心を抱いていた
いまになってはこの感情ごと消えてしまうが
こうなるんだったら言ってみるべきだったかな
なんて思う
あの日
あなたが現実から私を遠ざけてくれた日
その日から私の初恋は始まってたんだよ
「すき、だよ…ずっ、と…」
なんとかこの言葉だけを
この世界に遺し
私は意識を手放した
僕が恋をした君は
好きな人がいた
「なあ、今日一緒に帰んね?」
幼馴染に声をかける
髪の短い少女が振り向く
「ごめん、今日もあの子と帰るの。じゃね。」
そういって僕の見たことのない綺麗な笑顔で
『あの子』のもとへ行った
その瞬間にあの子のことが好きなんだな
と気が付いた
(僕のほうが長く一緒にいたのに…)
いけない感情が
僕を支配する
女が女を好きなんて
そんなのおかしい
友人にそのことを話したら
すぐに広がってしまった
幸運なことに
『あの子』にはその話が届いていないらしく
君が好きということは気が付いてなかった
しかし君には届いていて
だんだんと笑顔が減ってきた
(チャンスではないか?)
またいけない感情が出てきた
今の君に付け込めば
振り向いてくれるかもしれない
しばらく話を聞き勇気を出して告白をした
しかし答えは望むものではなかった
僕の中で何かが切れる音がした
そのあとのことは覚えていないが
君に対してひどいことを言ったのは覚えていた
そして
君は次の日電車へ飛び降りた
何日か後
あの子も電車に飛び込んだ
悲しい反面
どこかで喜んでいる僕がいた
これで僕が苦しまなくて済む
と思った
片思いは辛かった
しかも相手には思っている相手がいる
地獄でしかなかった
ざまあみろ。僕を振ったからだ
僕はその日から『人殺し』として
笑って生きていくことにした