「市本、ちょっと良いか?」
「なんでしょうか?」
市本タモツは突然、上司から話し掛けられた。
「お前を給料据え置きで雇っているが、もうそろそろ限界だ。技術も伸びないし、新人に抜かされるし、分かってるのか?」
「それは……」
「こちらから辞めろとは言えない。自分で考えろ」
「はい」
遠回しなクビ宣告だ。
「くそっ。俺だって」
タモツは副業を探すことにした。たくさん種類があり、迷いそうになる。
「たくさんあるな。これなんて良いんじゃないか?」
会社の経験で出来そうな物があった。
『ご希望者は連絡してください』
「この電話番号かな?」
電話をする。
「もしもし。御社の仕事に興味を持ったものですが」
「分かりました。名前を教えてもらってもよろしいでしょうか?」
「市本タモツです」
「市本タモツ様ですね。かしこまりました」
そして、連絡で待ち合わせ場所を教えてもらった。その場所に行ってみると、
「市本タモツ様ですね?」
「えっと」
そこには謎の美女がいた。
「ご連絡させていただいた○○会社の戸田ミツバです」
「は、はあ」
「あなたの今の会社は年収180万なんですよね?」
「はい」
「私なら、あなたにその3倍払ってあげるわ。うちに来ない?」
「えっ? 3倍も?」
「ええ。あなたのことは聞いてるわ。仕事もいい仕事してるみたいじゃない」
「一応、開発をしています」
「あなたの腕を見込んでお願いしてるの」
そこで会社であったことを話す。
「それならちょうどいいわ。お金に困ってるんでしょ? 私のとこに来れば、安心よ」
その一言で肚は決まった。
「喜んで受けさせていただきます」
「今すぐ社員になれとは言わないわ。副業として、週に数回やってくれれば良いわ」
「分かりました」
「名刺、渡しとくわね」
「ありがとうございます」
「このあと、時間あるかしら? うちの会社を案内するわ」
「是非」
タモツはミツバとミツバの会社に。
「改めて、あなたの話を聞かせて」
「はい。実は……」
「会社をクビに?」
「ハッキリと言われてはいませんが、同じようなものです」
「なら、今辞めてこちらに来た方が良いわね。それまでの間は副業してもらって、賃金を払うわ」
「ありがとうございます」
タモツは正式に入社が決まる2週間の間、副業させてもらい、5万円を稼いだ。そして、ついに入社が決まった。
「前の会社に退職の連絡はしていないのでしょう?」
「はい」
「私も一緒に行くから、退職の話をしましょう」
「ありがとうございます」
タモツはミツバと一緒に前職の会社に退職願いを出しに行った。ミツバはタモツから聞いた会社の対応に怒りを表し、上司を説き伏せた。
「ありがとうございました」
「気にしなくていいわ。あなたの腕を見込んでの話なんだから」
「ははは」
「それに……」
「なんですか?」
「ううん。なんでもないわ。あなたの部署を案内しないといけないわね」
「そうですね」
「前の会社は開発をやっていたのよね?」
「そうですね。ただ、あまりやらせてもらえなかった印象はありますが」
「なら、開発部がいいかしら? 私としては、あなたに私のそばで働いてほしいのだけど」
「それって」
「あなたの話を聞いてるうちに、あなたのこと気に入っちゃって」
「それは光栄です」
「私のために何か開発してもらうというのはどうかしら? 部にも話を通しておくわ」
「それなら大丈夫です」
「よかったわ。ようこそ、わが社へ!」
そう言って、握手してくる。
「こちらこそ」
これから楽しい生活が始まるぞ。
ミツバのために開発をすることになったが、タモツは落ち着かなかった。
「どうかした?」
「いや、近すぎません?」
ミツバがのぞき込んでいるのだ。そのせいか、ミツバの体が当たっている。ちょっとふくよかな胸が。
「意識……しちゃうかしら?」
「それはそうですね」
「ごめんなさいね。気になっちゃって」
「いえいえ。嫌じゃないので」
それからしばらく経った頃。
「タモツ、ちょっといいかしら?」
「何でしょうか?」
「タモツに話したいことがあって」
「それは」
「場所変えましょう」
ミツバと部屋を出て、だれもいない場所へ。
「あのね、タモツ。私、あなたのこと、好きになっちゃったの」
「ミツバさん」
「ミツバでいいわ♡それで、どうかしら?」
「俺でよければ、喜んで」
「それは、タモツも私のことが好きってこと?」
「はい。ミツバのことが好きです」
「うれしい!」
こうして、俺たちは恋人になった。結婚はいつかって? それはまだわからない。
ミツバと恋人になった後はと言うと、会社のほうも順調でミツバのためにいろいろ開発をしている。
「いろいろ開発してくれて助かるわ♡」
「好きなミツバのためだからね」
「もう。好きな、だけなの?」
「大好きなだよ」
「私も」
周りは半ば呆れている。ミツバは転職した会社の社長令嬢なのだ。
「社長令嬢と恋人なんて羨ましい」
「社長までひとっとびなんじゃないか?」
そういう声が聞こえる。悪い気はしないが。
「タモツ君、こういうシステムを作ろうと思ってるんだが、先方に出す書類を作ってくれないか? 要件定義から君が考えて着手してくれてかまわない」
上司の黒岩さんから依頼を受けた。
「分かりました」
「頼んだよ」
それから、書類を作り黒岩さんに提出。先方に黒岩さんから書類を送ってもらい、見事OKサインが出た。
「OKがでた。続けて頼むよ」
そこからは一人でやるのは工数がかかるので、分散して作業する。要件定義が終わり、黒岩さんに提出。
「よくできてるね。これなら大丈夫そうだ」
「ありがとうございます」
仕事は順調に進み、昇進の話が来た。
「タモツ君は開発課の主任になってもらいたい」
「本当ですか?」
「ああ。よく頑張っているし、ミツバも喜んでるしな。どうだ?」
「喜んで」
「ありがとう」
こうして、主任として仕事をさせてもらえることになった。
タモツは高校の同窓会に行くことにした。だが、
「よう、久しぶりだな。貧乏人」
同じクラスだった栗原がいた。
「なんだ、それ?」
「俺は有名企業で働いて、今は大きな役職に就いてるんだ」
「ふーん」
「お前は?」
「俺は……」
「どうせ、一番下か」
「そんなこと……」
「お前の嫁は? お前がそんなだから、大したことないだろ?」
すると、ほかの連中も来た。
「早く、呼べよ。お前の底辺嫁を」
「よーべ、よーべ」
「ぐ、わかったよ」
タモツはミツバに電話した。
「ミツバ、今から来れる? 同窓会に来てるんだけど。場所は」
「わかるからいいわ。今から行くわね」
少しして、ミツバが来る。
「お待たせ、タモツ」
「えっ?」
「あなたは……」
みんなミツバを見てびっくりする。
「あの有名企業の社長令嬢」
「戸田ミツバです」
「お前の嫁さんはミツバさんだったのか」
「あなたが栗原さん?」
「はい」
「今日限りであなたの会社との契約を終わりにします」
「そんな」
「誰が底辺嫁ですって? タモツだって、うちの会社の主任よ」
「えっ? お前、前の会社は?」
「やめたよ。クビ同然の扱いされたからね。ミツバに会社に来ないかと言われて入ったんだよ」
「まじか」
「そしたら、経験を買われてミツバのために開発をしたり、いろんな仕事を頼まれてね」
「で、でも、契約切ったら損害になるんじゃ」
「大丈夫よ。一つくらいじゃ困らないくらい契約してるから」
「ぐっ。そんな」
「あなた、今の年収は?」
そこに女の同級が来て、聞いてくる。
「タモツには450万プラス出来高払いをしてるわ」
「450万プラス出来高払い?」
みんな青くなる。
「主任だからな」
「社長令嬢が奥さんだと、未来の社長じゃない」
「もちろん、そうするつもりよ♡」
「ははは」
「そうなったら、身も心もタモツに捧げるつもり♡」
「うわ。すごいな」
(身も心もって)
(もちろん、体よ)
「考え直してもらうのは」
「無理ね」
「そこを何とか」
「何度言っても無理よ」
ミツバの意志は固い。
「これがばれたらうちの会社はおしまいだ」
後日、栗原の会社で上司に発覚。
「栗原、君はなんてことをしてくれたんだ! 大事な取引先なのに。契約が減り続けたら、この会社は終わりなんだぞ!」
「すみません」
「君は何もするな。私が何とかする」
しかし、結果は芳しくなく、契約してくれるところはなく、一つまた一つと契約が減っていった。
「これでは、本当につぶれてしまう。その前に君の処分をどうにかせねば。君は一番下の工場勤務に処す。このフロアには立ち入り禁止だ」
「そんな」
そののち、栗原の会社は倒産した。
「かばってくれてありがとう」
「当然じゃない」
あれからと言うもの、二人の仲はさらに深まった。
「俺はミツバと仕事出来て嬉しいよ」
「私も」
「この会社の社長になってくれるの?」
「今の社長が退いたらだね」
「期待してるわよ♡」
タモツは数ヶ月後、課長に昇格し年収も上がった。
「タモツ、課長昇格を祝って、部を上げて食事会を開きたいの」
「本当ですか? 嬉しいです」
「今日、終業後からやるわよ」
「分かりました」
仕事が終わり、みんなで準備をする。
「準備できた?」
「はい」
「行きましょう♪」
ミツバが腕を組む。柔らかいものが腕に当たる。ミツバは美人でスタイルがいい。特に、女性的な体つきは俺だけでなく、ほかの社員も認めるほど。
「くっつきすぎだよ」
「意識してるの? 案外エッチなのね♡」
(勘弁して)
会場に着く。案外大きな飲み屋だった。
「大きなところですね」
「最近できたところみたいよ」
「2か月前にオープンしてるね」
「確かに最近だ」
「じゃあ、乾杯!」
「乾杯!」
みんなでビールをあおり、息を吐く。
「やっぱりうめえ」
「疲れが取れますね」
「もっと、疲れが取れるものがあるわよ」
「何ですか?」
ミツバが自分の体を指す。
「もう、酔ってるんですか?」
「お持ち帰りされたい。タモツに」
「いつもしてるじゃないですか」
「いつも、そんなこと考えてるの?」
「違いますよ」
「でも、見てみたいんでしょ?」
別の女性社員が意地悪な質問を。
「それは」
「社長の中身」
「いつかは」
「やっぱり隅に置けないね」
「からかわないでください」
「私のは見たい?」
「いや、だから」
女性社員が見せようとしてくる。
「ごめん、ごめん」
やっと、料理が来る。
「食べよう。冷めないうちに」
「いただきます」
「ウマイ!」
「おいしいですね」
「さすがだ」
そして、食事会が終わり帰宅する。
「酔っぱらっちゃった」
「しっかりしてくださいよ」
「今日、タモツの家に泊まらせて」
「それはやばいでしょ! と言っても、ミツバの家知らないしな」
ミツバを見ると、服の隙間から少し谷間が見えている。
(いかん、いかん)
「仕方ないですね。後で喚かないでくださいよ」
ミツバを自宅に連れていく。
翌日、いつもの時間に目が覚める。
「朝か」
目を覚ますと、体が重い。
「なんだ?」
見ると、ミツバが上に乗っかっている。しかも、胸がつぶれて見てはいけないものが。
「やばいぞ、これは」
「ん」
起こさないように、ミツバを移動させる。が、身じろぎするので、手が滑りミツバの胸を触ってしまう。
「ぁ」
ミツバが目を覚ます。
「……」
「襲おうとしたの?」
「違います。自分の上に乗っかっていたので、動かそうと」
「そうだったのか。寝ているときに触られるのは初めてだな♡」
(触ってほしいの?)
「とりあえず、起きてください」
ミツバに説明する。
「ごめんなさいね。お酒飲むとああなっちゃうのよ」
「気にしないでください」
「事故だったのよね?」
「そうですよ」
「私から触ってほしいと言われたら、触ってくれる?」
「え、でも」
ミツバが服を脱いで、下着になる。
「ミツバ、それ以上は」
「うふふ」
ミツバが下着姿で乗っかってくる。
「まだ酔ってるんですか?」
「そんなこと言って、こっちは正直よ」
下着姿のミツバは目の毒だ。スタイルがいいだけに、そのたわわに目が行ってしまう。
「半分見られてるんだから、変わらないじゃない。食べたいでしょ?」
「何を?」
「決まってるじゃない。体よ」
ふと、時計を見る。
「ミツバ、時間!」
「あっ、いけない。もうっ。いいところだったのに」
二人して支度をして、家を出る。
「一回、私の家に寄ってくれる? 準備したいわ」
「わかりました」