「大好きだよ、さようなら(・・・・・)

「んん~~~ッ」


 口輪をしたままの愛しいレイシアの首をボクはこの手で刎ねた。


 壁まで飛んで跳ね返って足元に転がってきたその首は、恨めしい目でボクを見上げている。





 


 ──1年前。


 トレンチノ伯爵の館の前庭でたくさんの志願者が集まった騎士選抜試験が開かれ、ミカ・ローレンジュもその選抜試験の志願者のひとりとして、この屋敷へやってきた。


 1次試験は勝ち抜き戦を5回行なうことになった。


 最初の対戦相手は他の参加者よりも頭ふたつは飛び出ている大男で身体じゅうの筋肉が波打っている。


「悪いな小僧、腕の1本は貰っておこう」

「遠慮します」

「うがぁぁぁぁッ!」


 大男が叫び声をあげ、うずくまった。


「なっなんだ今のは」

「いや、なにも見えなかった……」


 周囲でざわめきが起きる。無理もない。ミカの剣は神速……並みの者では目で追うことすら許さない二撃要らずの必殺の剣。


 戦争孤児だったミカは山の中で伝説の鍛冶師で最強の剣士、剣匠に拾われ育てられた。


 その後もなんの問題もなく勝ち続け、第2次試験へ駒を進めた。


「みなさん、初めまして」


 透き通る空色の瞳……。


 屋敷の中から姿を現した瞬間、彼女の瞳に心を奪われてしまった。


「第2次試験は、我が娘レイシアを1か月護衛せよ」

 
 トレンチノ伯から隣国へ公用で訪問するレイシア嬢を護衛するという任務を試験として与えられた。


 試験通過者8人の他に正規の騎士が5人つくので自分達はあくまで数合わせといったところだろう。


 騎馬した正規の騎士が4頭立ての箱型馬車のまわりを固め、第1次通過者は後ろを走る幌付きの荷馬車へ乗っている。


 ──7日移動した国境付近の森のなかで動いている荷馬車から飛び出し、警告する。

「敵です!」


 前後が曲がりくねっていて見通しのきかない場所、襲撃するには絶好の場所といえる。