背中に鈍い痛みを覚えて意識が浮上する。
(私はどこで寝ているの?)
 実家のベッドも教会で使っているベッドもここまで固くない。
 ゆっくりと目を開けば、そこは工房だった。

「……床で寝てたの?」
 どうして?と疑問符が頭に浮かんだものの、すぐに状況を理解した。
「待って。やってしまったわ!」

 ミアは飛び上がるように起き上がり、両頬に手を添えて青ざめる。大幅なロスタイム。これでは約束に間に合わない。
 すぐに立ち上がり、魔法石があるテーブルへと身体を向けた。
「全部、魔力補充されてる?」


 テーブルの上を確認すると、驚くことに残っていたはずの魔法石すべてに魔力が込められている。
 魔法石は一つ一つ色が違う。色とりどりの魔法石が夜空の星々のように煌めいていた。
 壁掛け時計を見たら、ヘルガとの約束の時間まで三十分ほど残っている。
「どうなってるの?」

 ミアが呆然と立ちすくんでいると、どこからともなく薬草を咥えたアリエスがやって来た。ミアが両手を差し出せば、アリエスは咥えていた薬草を手のひらに置いてくれる。
 それは薬草園にはないリンデンだった。

『メェ~』
 早くお茶の準備をしないとヘルガに怒られると言っているのでミアは相づちを打つ。
「そうね。急いで準備をしないと。ところで、魔力補充はアリエスがやってくれたの?」
 問いかければ、アリエスはそうだと鳴いた。まさに救世主である。
 アリエスの優しさにミアは感激した。
「うう、ありがとう!」
 アリエスをぎゅっと抱きしめて頬ずりする。ふわふわの毛が肌に触れてくすぐったい。